ホームシックですか?
コンクスという幼い頃から聞き慣れた町、ここは聖地パステラに続く南の巡礼路が始まる所だ。
大きなこの町の中にはいくつもの教会が建ち並ぶ。
その中でも3大教会として有名なのがサントクワテロ教会、トローム教会、シアム教会だ。巡礼者達はおおむねこの3つの教会に礼拝をしてからラット川に架かる巡礼者の橋を渡り聖地へと赴く。
この町のことはおじいちゃんとお父さんに良く聞かされていた、だがもちろん来るのは初めてだ。
だけど…今までの町のようにワクワクしないのは何故だろう…
急におじいちゃんのこと、お父さんとお母さんのことを思い出したからだろうか。
でも、それほど教会の話は覚えていないな…
そうだ…あまり面白くなくてちゃんと聞いていなかったんだっけ……。
でも、おじいちゃんのことは大好きだった、酒場で楽しそうにお客様と話をしている姿には憧れたものだ。だから酒場の経営も抵抗なく始めることができた。
漁に出て船に乗っているお父さんはいつもカッコ良かった、そんな二人を支えていたお母さんはいつも笑顔で暖かくて、家に居るのが当たり前だと思っていた。
懐かしい…
私、少しは成長できたのかな………
街に入ると一足先に街に入っていたカルロスが戻り、報告をしている。
「バルサ様、宿屋の手配済ませておきました! でも本当にあんな安い所でよろしいのですか?」
「ええ、そんな所にお金を使っても仕方ありませんから」
聞こえてくる会話から、どうやら今日は宿屋に泊まるらしい、この旅で初めての宿屋だ。
それよりもエリサ自体、宿屋に泊まるのが初めてだ、少し緊張する。
それも今までラージュから出たことがなかったのだから仕方ない。
「エリサさんとエレナさんはまた同室ですので…」
何故かカルロスはいつも申し訳なさそうに言うのだが、同室なのは当たり前の事なので気にはしていない。笑顔でお礼を言ってやった!
そうか…今はワクワクしなくても…エレナちゃんと一緒なら楽しくなるかな!?
そう思い直し振り向くとエレナと目が合ったのでニカッと楽しげに笑ってみた。
「??」エレナはそんなエリサを見て一瞬首を傾げたがエリサが笑っていると自分も楽しくなるのであまり気にしなかった。
しかし宿屋に泊まるということは今夜は私達の仕事もお休みとなるのかな…
ここはすでにファルネシオ国の所轄領なので今までのように領主様へ挨拶に行くこともないためバルサさんはいつもよりリラックスしている。
「宿屋に行く前にサントクワテロ教会だけでも礼拝に行きませんか?」バルサが近くに居るらしく前の方で話しているのが聞こえた。
そうか、貴族の人達はほとんどが熱心な教会信者だ。バルサさんも例外ではない。
なんだろう、コンクスに来たら家族の事が頭から離れない…
おじいちゃん、お父さん、お母さん…
そう言えばアンネさんは元気にしているだろうか…
カイさんは造船所の仕事に慣れたかな…
カルラおばさんは…
ベレンさんは…
あれ…わたし…
不意にエリサの瞳から涙が流れる。
「エリサさん?……」エリサの様子が少しおかしいので心配そうに見るエレナ。
「あ、ごめん、ちょっと家族のことを思い出しちゃって……へへ…」涙が流れたことにエリサ自身が驚いた、全く無意識だったからだ、急遽笑顔を繕いごまかそうとした。
「ははぁ…え〜り〜さ〜さん…もしかしてホームシックか何かですか?」エレナが何やらピンときたようでエリサににじり寄る。
「え? いや…まさか…」自分でも良く分からず戸惑うエリサ。
「ふふふ…」エレナがニヤと笑った。
「うわ、ひゃぁ…こ、こりゃ…ら……ぁ…」
「いつものお返しですよ〜」
「あ、はぁ…はぁ…」エレナに不意を突かれ、おもいっきりくすぐられてしまったエリサ。そのおかげで目付きが毎朝エレナを起こすときの悪戯っ子のような目に変わる。
「こんな所で! この〜」
「うわ、きゃぁっ…ひぃ…ぁぃ…」
荷馬車の外にいる兵士達数人が顔を合わせ呆れた表情している。
「はぁ、全く呑気なものだ…」バルサにも騒いでいる声が聞こえているようで呆れている。