勘違いです
夜も更けて部屋に戻るとエレナはだいぶ疲れた顔を見せるようになっていた。
初めての調理でしかも大人数を相手にしないといけないとなるとかなりのプレッシャーだったはずだ、調理をしているときはとてつもなく集中していたのは知っているし宴会になってしまった夕食では今日の主役のようにもてはやされていた。
やっと仕事が終わって、ちょうど緊張の糸が切れたところなのかもしれない。エリサは明日の朝も早いので早く眠るようエレナに言った。
「エリサさん、今日は本当にありがとうございます。私、作ったんですよね? なんだかまだ夢の中にいるようで信じられないです…」
エレナはベットに寝転んだまま料理を作った自分の手を見ている。
「うん、そうだよ。それがエレナちゃんの本当の実力! 慣れればもっと楽に作れるようになるし早くもなる。少しずつでいい頑張ろう!」
「はい……」
「ふふ、それにしても今日は大人気だったわね! 一気にファンが増えたみたい」
「あ、ぃ…ぃえ…それはその…私なんかよりエリサさんの方が人気があるはずなんですけど」
「ああ……はは……私は…ちょっとそういうのから外れてるみたいだから……」エリサは苦笑いを浮かべて山中での兵士たちの話を思い出した。
……………◇◇……………◇◇……………◇◇……………
ルヒアナを出発してロジャックへ向かう山中での休憩中、エリサは一人荷馬車の中で荷物の整理をしていた。
幌は殆ど閉めていたため中にエリサが居ることに気がつかなかったのだろう馬車の脇で数人の兵士が話を始めていた。
「なぁ俺たちって今回すげぇラッキーだよなぁ?」
「ああ、今回は移動の人数が通常より多いから野党に襲われる可能性も少ないし狼や獣だってこの人数じゃなかなか襲ってこないしな!」
「それってやっぱりあれか?料理人が女性だから安全のためって…」
「ああ、おそらくな。それにラッキーなのはそこだ!」
「ああ!」
「二人とも最高に美人ときている!」全員が口を揃えて言った。
「何と言ってもエリサさんは素敵だぁ〜、あんなに料理が上手で美しい!スタイルだって…」
(なっ…)エリサは一人顔を赤くした。
「いやいやエレナさんも捨てがたい! まだ子供じみた顔をしているがあの穏やかな性格…あと数年もしたら良い女になること間違いない!!」
「いやいや、俺はエリサさんだなぁ」
「ああ、俺もそうだな! 旅の途中でもう少し仲良くなりたいものだな!」
「お前ら何やっているんだ?」
(う…この声は……アルミン……!?…)エリサは物音を立てないように気をつけて聞き耳を立てた。
「ははぁ お前らエリサさんには手を出したらダメだぞ!」
(…??……)エリサは不思議そうな顔をする。
「おい!どういうことだ? お前抜け駆けするつもりか?」
「いやいや、お前らなんで今回エリサさんが選ばれたか知っているか?」
「いや、料理がうまいからだろう?」
「そうじゃない! いいか……エリサさんは…ルイス殿下の愛人だ!」
「マジか?」
(なっ!!…あぃ……)とんでも発言に驚いて声を出しようになった口に手を当て気持ちを落ち着かせるエリサ。
(ええ?どこでそんな情報を……しかも愛人って………)
「ああ、衛生兵の奴らに聞いたんだがなクラウスが反乱を起こす前夜に二人で会っていたらしいんだ!」
「何〜?」
「それは本当か?」
「ああ、殿下が刺客に襲撃されて怪我をしたらしく治療に向かったところ、すでにエリサさんが手当をした後らしく、その時にエリサさんは殿下のことを『ルイス』と呼び捨てにしていたらしい」
「本当か?それは?…」
「信じられん…」
(……当たっているような…間違っているような……)複雑な気持ちになるエリサ。
「しかもだ!呼び捨てにしたエリサさんを注意した兵士は逆に殿下の怒りを買ってしまったらしい」
「うわぁ〜…信じられん」
(はぁ…かなり尾ひれのついた噂になっているなぁ…)話を聞いているエリサは段々ゲンナリしてきた。
「よかったぁ、危うくエリサさんに声をかけるところだったよ」
「でもな、ここだけの話…エリサさんは俺に気があると思うんだ!」
(なっ?…)アルミンの言葉に息を呑むエリサ。
「実はな、俺と目があうたびに恥ずかしそうに視線をそらすんだよ〜、あの恥ずかしそうな表情がまた、たまらなくイイ!!」
「おい、アルミン、それは本当か?」
「ああ、殿下の恋敵になるとは思わなかったがあの表情は絶対そうだよ!」
「羨ましいなぁ〜オイ!」
「しかし、もし手を出そうもんなら…」
「ああ、クビだな!」
「いや、クビで済めばまだマシだろう! あそこをちょん切られて晒し者にされるぞ」
「うわぁ怖え〜〜」
(………いったいなぜそうなるの?…)エリサは聞いているこっちが恥ずかしいやら呆れるやらで荷物の整理を止め静かに皆が居なくなるのを待つしかなかった。
……◇◇……………◇……………◇……………
「はぁ…」思い出すたびに憂鬱になる話だ…
エリサはため息をひとつ吐きエレナを見る。
「………」
「エレナちゃん?…」やはり相当疲れていたのだろうすでに眠っている。
少し涼しさを感じる夜なのでエリサはエレナの毛布をかけ直し自分も寝ることにした。
頼もしい相棒の成長がとても嬉しい1日の終わりだ!