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酒場のエリサ  作者: smile
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ロジャックで料理教室?

魚を譲ってもらう代わりに料理を教える。安易に引き受けてしまったが素性の知れない人間を屋敷に迎える訳にもいかず、このまま商人のおじさんの家に行って料理を教えることとなった。


カロンさんには『もしものことがあったら』と反対されたが結局心配らしく一緒について来てくれることになった、案外優しいのだ。


おじさんの家は大家族と言っていただけあり、いきなり子供達が迎えてくれた。4歳と5歳の女の子、9歳の双子の男の子12歳の女の子、子供だけでも既に6人だ。


「あんた、どうしたんだい?」家に入ると奥さんらしき女性が兵士のカロンを見て慌てている。おじさんが何か問題を起こしたと思っているらしい。しかも小さな赤ん坊を抱いている、子供達が7人になった。

他にも祖父母と隣の家の兄夫婦家族も食事の時は一緒らしく夕食どきになると毎日大変らしい。


「おう、パウラ。 これから旨い魚料理を教えてもらえるんだ、お前も一緒に来てくれや」おじさんが少し興奮気味に家の奥へと一人で行ってしまった。


「はい〜? 何言って…… って、 ところであんた達は一体?」パウラと呼ばれた女性は振り返り怪しそうにエリサ達を見つめている。


まともに紹介もされていないのだ、私達はかなり怪しい人物に見えているだろう。しかも兵士のカロンまでいるのだ何かの事件と勘違いされても仕方ないので自分達で自己紹介と事の成り行きを説明した。


ラージュから来たことや新しい料理を教える事を話したが、そんな事よりもパウラさんは今夜の食事のための魚を私達に譲ってしまったことに驚きかなり腹を立てている。

それもそうだろう、今晩の食事はどうするのだろうと、こちらも心配になってしまうがもう魚を返すつもりにもならない。


「ほんっとに、あんたはいつも自分勝手にして!!」パウラさんが台所に走りおじさんの耳を引っ張りながら夕食が無くなったことを怒っている。


とても料理を教える状況では無い。


「イタタタ………す、すまねぇパウラ! しかしよう、お前も他に旨い食い方がないかって言ってたろう?」


「だからって魚を全部渡すことはないでしょ!!」


「いや、貴族さんの料理番に教えてもらえるなんて二度とない機会だろう? 今夜は干物でもしゃぶって我慢すりゃいいじゃねぇか…イタタタ……」パウラさんはおじさんが何か言うたびに腹がたつらしく、その度に耳を引っ張るので見ていてもかなり痛そうだ。



結局、しばらくの間この夫婦喧嘩を見ることになったのだが、奥さんのパウラさんが折れることで落ち着くことになった。


これでやっと料理を教えることができそうだ。


「えっと…そろそろ…よろしいですかね〜?」エリサが苦笑いを浮かべながらおじさんに近寄って行った。


「ああ、すまねぇ…お願いするよ」おじさんは隣でムスッとしているパウラさんを横目で気にしながら頭を下げた。


「はい………」エリサもパウラさんの視線に戸惑いながらも始めることにした。

「えっと、おじさんはムニエルは作ったことありますか?」


「あるわよ!高価なバターをたくさん使う割に魚の身はベチャベチャで美味しくなかったわ!」パウラさんがムスッとしたまま横で即答した。


「…はは………えっと…ムニエルはバターの焦がし具合と火加減が重要なんです、使う材料も少なくてとてもシンプルな調理方法です。タイミングが難しいのでそこを覚えてしまえば美味しく作れるのでやってみましょう」


「バターとオイルを熱して小さな泡が出てきたら弱火でじっくり焼いてくださいね…」説明している間にエレナはマスに塩と胡椒で味付けをし、小麦粉をまぶして準備をしてくれた、エリサはニコッとエレナに微笑みその魚を焼き始めた。


皮をパリッと焼けたところで裏返す、身に火を入れすぎるとパサパサになってしまい火が弱すぎるとベチャベチャになってしまう、この焼き加減が難しいのでじっくりと説明した。

美味しそうに焼けた魚を見てパウラさんの表情が少し変わった、ムスッとしていた顔が驚いた表情に変わり、いつの間にかエリサの調理を見始めている。

次はソースだ、バターを薄い焦げ茶色になるまで熱する、焦がしすぎると苦くなるし、焦がし足りないと風味がしない、どのタイミングが美味しいのかがわからないから美味しくないのだ。

バターの香ばしい香りが漂ってきたところで、おじさんとパウラさんが生唾を呑んだ。次の瞬間エリサはレモンとパセリにケイパー、そして塩を加えソースを完成させる。これを焼いたマスにかければ完成だ。


(うそ…なにこれ……)パウラさんが信じられないような顔で出来上がった料理を見ている。食べる前から美味しいとわかる香りと見た目に信じられないといったところだろう。

『ムニエルなんて美味しくない』と言ってしまった手前、味見に躊躇しているのがよくわかる。

そんなパウラさんをよそにおじさんと子供達が待ちきれずに手を出した。それを口に入れた瞬間、一言も発すること無く目を丸くしお互いの顔を見合って固まってしまった。


「………」


そして、すぐさまエリサを見たかと思うと、また食べたマスに目をやる、そしてお互いにまた見合い「うまい!!」と叫んだ。



「次はオーブンでパン粉焼きを作りますね」

これは今までラージュでもディベスでも好評だったので自信がある一品だ、使うハーブを変えるだけで色んな風味が楽しめるのもオススメだ。

ムニエルを作っている間にエレナちゃんがオーブンを温めていてくれたので作業はすこぶるスムーズに進む。

パン粉焼きは珍しいらしく、皆、不思議そうな顔をしているがそんなことは御構い無しにエリサは作業を進めた。食べて貰えばわかってくれると自信があったからだ。


案の定オーブンから焼けた魚とハーブの香りがしてきたところで先に子供達がソワソワし始めた。


「うん、そろそろ良いかな!」エリサがオーブンを開けると今までに嗅いだことのない魅惑的な香りが一気に広がった。

おじさんは早く味見したそうに一歩前に出たがパウラさんは口を半開きにしたまま呆然とエリサの料理を眺めている。もはや何も言葉が出てこないようだ。


「最後に薄切りにしたマスをサラダ仕立てにした一品を作ることにした」

これは私がいつも使っているドレッシングで和えるだけの簡単料理だが、このドレッシングはすりおろした玉ねぎがタップリ入って、マスタードを少し加えたエリサ特製だ!このドレッシングは分量を教えるだけなので料理の技術はほとんど要らない。

おじさんに聞いたら、ここロジャックでは生で食べる場合は酢で〆るのが一般的らしい、しかも酸っぱいだけで子供達は手を出さないのでほとんど作ることはないという。

こういうドレッシングで和えるのは初めてな上に子供達にも美味しいと言ってもらえたのでエリサも一安心だ。



「おじさん! こんな感じでどうでしょうか?」一通りレシピを教えエリサがニコッと微笑む。


「お、おう…ネェちゃん…あんたスゲェな…予想以上の美味しさだ…」おじさんは満足というより驚いている様子だ。まさか自分の魚がエリサの料理でこんなに美味しいものに変わるとは思っていなかったらしい。


これで遠慮なく魚を譲ってもらえるということだ。


帰り際にカロンさんが「あれ、私も食べたいです〜」と言っていたので今夜は同じものを作ることにした。それと同時にエリサはある事を試そうと思いついてしまった、横目で隣のエレナを見たら偶然にも目が合ったので微笑んで誤魔化したものの想像しただけで楽しくなってしまい思わず口元が緩んでしまった。






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