雨の旅路
エリサとエレナは荷馬車の後ろに荷物と一緒に乗り込んだ。二人とも始めての旅路に興奮気味だ。
雨が降っていることもありエリサは帽子を被っている。
天気はあいにくの雨だが、シトシトと降る優しい雨が気持ちを引き締めてくれる。
しかし荷馬車というものは想像していたより揺れるものでうっかりすると舌を噛みそうになるのだがそれも新鮮で楽しいと思えた。
幾つかの村を越え、しばらくしてから荷馬車の幌の隙間から外を眺めるとすでに峠を登り始めていて目の前にラージュの町と海が一望できた。
霧雨が靄のように町を多い、遥か遠くの海には陽が差し込んでいて今までに見たことのない幻想的な風景が広がっている。
「エレナちゃん、見て!」
「わぁ!綺麗な景色ですね」
二人でラージュの町を眺めていた。住み慣れた町が小さくなり、山と山の合間に消え見えなくなるまでただただ無言で眺めていた。
何事もなく馬車は進み、気が付くと雨は上がっている。
雲の切れ間からは夏の強い陽射しが射し込み、雨に濡れた草木をキラキラと輝かせてくれる。周りは360°深緑の樹々で囲まれ、いつの間にか鳥や虫の鳴き声が響き渡っている。
何処までも続く緑色の世界は、まるで別世界に来たような気にさせてくれていつまで見ていても飽きない。二人は後ろの幌を開けていつまでも変わらない緑色の世界を眺めていた。
しばらく平坦な道が続き少し開けた場所に出るとそこに馬車を停め、少し早めの昼食の時間となる。
同行している兵士達は交代で周辺の見回り。
ここは安全な町中ではない、突然、盗賊や獣に襲われても不思議ではないのだ、みんな自分の仕事をしている。私達も自分の仕事をするだけ。
そしてここからが私達の出番だ。
雨上がりなので蒔に使えそうな木の枝は無さそうなので持ってきた蒔を使うことにした。
エレナちゃんに火を点けてもらっている間に野菜を切るエリサ。
ナス、玉ねぎ、人参、ズッキーニを一口大にカットしニンニクとオイルで炒める。そこに白ワインとトマトを潰しながら入れて乾燥したバジルとタイムで香りをつける。しばらく煮込んで塩で味付けをすれば野菜たっぷりのトマトソースの完成だ。
そしてこれからの道のりは険しくなるということだったのでスタミナをつけてもらおうと干し肉を焼くことにした。
干し肉は旨味が凝縮されているので生肉より好きだという人も多い。
1cmくらいの厚さに切った干し肉を網の上で炙るように焼いてトマトソースをかける、辺りには香ばしくていい匂いが漂い兵士達がソワソワし始めているのがわかる。
パンは今朝セリオさんが沢山焼いてくれたのでまだ香りも良く柔らかい。
付け合せに昨日作ったピクルスを添えて完成だ。
「せーの!」
「みんなぁーーーーできたよーーー!!」
声を合わせてエリサとエレナが大きな声で叫ぶと、待ってましたと言わんばかりに兵士達が駆け寄ってきた。見張りの兵士も戻ってきてしまいバルサさんが怒っていたが皆んな楽しそうだ。
用意した料理は残さず美味しそうに食べてくれた。
お腹がいっぱいになり満足そうに昼寝をしている兵士もいる。
あとは水の補給と食器を洗いたかったので川があれば止まってもらえるようお願いしておいた。
これでひとまずエリサとエレナの最初の仕事は無事に終わり満足そうに見つめ合い微笑んだ。
エレナもエリサの料理が美味しかったらしく次の料理を楽しみにしているようだ。