出発の日
バリエに行く前夜、エリサは屋敷の客室に泊まることとなった。
綺麗な絨毯が敷かれて、窓には上質なレースのカーテンが掛かっている。
真っ白な壁に真っ白なシーツ、ふかふかのベットに柔らかい枕。
まるでお姫様にでもなったような気分だ。
「う〜、気持ち良い〜」1日を終え、ベットに仰向けになって寝転がるエリサ。
いよいよ明日の朝出発だ、ふと耳を澄ますと外から雨音とカエルの鳴き声が聞こえてきた。
起き上がり窓から外を眺めると雨が降っている。
「それ程強くは降っていないので、大丈夫だろう。あしたの準備は万全だ」
明日には雨が上がっていることを願って再びベットに寝転がった。
静かに降る雨音とカエルの鳴き声が子守唄のようにエリサの眠気を誘う。
今朝早くにディベスを発ったうえに始めて領主の屋敷に入り多くの人達に出会った、エリサ自身が感じている以上に疲れていたのだろう横になるとすぐに眠ってしまった。
翌朝、窓の外が明るくなっている事に気がつき目を覚ます。ディベスで毎日早起きをしていたため以外と早く起きることができたのでホッとするエリサ。
窓のカーテンを開け外を眺めると小振りだがまだ雨は降っている。
降っているものは仕方ないと諦め、とりあえず着替える事にした。
アンネさんが貸してくれたシャツとズボンに着替え、ネックレスをシャツの中に入れる。髪を梳かした後、久しぶりに一つに束ねてまとめ上げた。
アンネさんが貸してくれた服は今までエリサが選ばなかったような明るい色の物が多い、不思議なもので最近はそういう色でも気にならないどころか良いと思い始めている。今日は明るい赤い色のシャツを選んでみた。
これからバリエに行く。生まれて初めての旅路に不安と緊張と期待が入り混じりいつもより気持ちが高ぶっているのが自分でもわかった。
「ふ〜」エリサは大きく深呼吸をして気持ちを集中させた。
エリサが荷物を整理していると奥の方に手紙らしいものが入っている事に気がつく。それはアンネさんからだ、開けて中を見てみると手紙と一緒にアンネさんがディベスで買った口紅が入れられていた。手紙には『コレでルイス様を落としてきなさい』と一言書いてある。
「……」朝からとんでもないものを見つけてしまった。エリサは一人顔を真っ赤にして部屋を出るに出れなくなってしまった。
結局火照った身体が落ち着くまでベットで横になる事にした。
ようやく落ち着き部屋を出るとメイドさん達が慌ただしく働いていた。
屋敷で働くのも大変そうだなと他人事のように思いながら一回の厨房へと降りて行った。
前日はどうしてこんな所で迷っていたのだろうと改めて思ってしまうくらい、すんなりと行くことができた。
厨房に着くとセリオさんやコックさん達が同じように慌ただしく朝食の準備をしていた。
「うゎ〜」そこはセリオさんの発する一言で次々と料理が出来上がっていく。それぞれが作業を分担し一つの料理を作り上げていく。
いつも一人で料理をしていたエリサには近づきがたい雰囲気が漂う。その統率された仕事ぶりに見惚れていたが邪魔をしてはいけないと思い荷馬車の所へと行ってみた。
すでに荷馬車の準備はできており昨日エリサが用意した道具や食材も乗せられている。一応、積み忘れがないか荷物の確認をしているとエレナもやってきた。
「おはようございます! エリサさん」今日も可愛らしく微笑むエレナ。
「エレナちゃん、おはよう!昨夜は眠れた?」
「はい!ぐっすりと」
二人ともやる事も無かったので出発まで雨宿りをしながら話をして待つ事にした。家族のこと、友達のこと、仕事のこと、料理のこと、最近あった出来事など話し始めると次々と話題が溢れてくる。
あっという間に時間がは過ぎ、出発の時が来た。
バルサさんが全員を集めて挨拶を始める。
「これからバリエに向かう。途中各地の領主に挨拶をしながら進む為通常より日にちがかかってしまう。そして幾つもの峠を越える必要がある、決して楽な道のりではないし危険な目に会う事もあるだろう。道中、決して気を抜かず単独行動は避けるように願いたい。ではラージュ復興の為に、行こうバリエに!」