え〜?
アレフとバルサは今後のことで話があるというのでエリサは一人で一階にある厨房へと向かった。
厨房へ行けばエレナさんがいるので一緒に準備をするようにと言われている。
何かわからないことがあればこの部屋に戻ってくるようにとも言われたが、少し通路を進んで振り返ってみるとあまりにも部屋数が多すぎて既にどこの部屋にバルサさんがいるのかわからなくなっていた。
「う…どうしよう…」
エリサは一人で頬を引きつらせながら考えた結果、とりあえずエレナという人に会うことにした。一人でなければなんとかなるだろうと思ったからだ。
しかし階段を降りてアレフに聞いた通りに進むエリサだが全く厨房が見つからない。しかも同じところを行ったり来たりしているような気がしている。
「あれ?………もしかして…私……屋敷の中で迷子?…って…」エリサは既に降りてきた階段の場所もわからなくなっていた。
エリサは
緊張しているという事もあったが、ここは迷子になる程広い屋敷では無い。前領主クラウスが侵入者を惑わすために似たような場所を幾つも作っていたことも原因の一つだった。
「はぁ…私って方向音痴だったかしら………あ?」とにかく歩き回っていれば何処かに着くだろうと思い進んでいくと前の方で掃除をしているメイドを見つけた。
これで厨房へ案内してもらえると思い駆け寄るエリサ。
「あ、すいません。厨房へ行きたいのですが場所がわからなくて、教えて頂けませんか?」エリサが駆け寄り尋ねるとそのメイドはまだ子供と言っていいくらい幼い感じの女の子だった。おそらく12〜13歳位だろう。彼女はエリサを見て怪訝な顔をし、後ずさりをして距離を取った。
「あなたは誰ですか?」メイドは見たことの無い女性にかなり警戒をしている様子だ。
「あ……」
どうしよう、かなり怪しまれている気がする……
「人…呼びますよ!」少女は持っていた箒を握りしめながらエリサを睨んでいる。
「いや、あの…私はエリサで…バルサ様のお供をするために呼ばれたのですけど……………ぁ……むしろ誰か呼んでもらったほうが早いかなぁ……?」
エリサのたどたどしい説明は少女の警戒を煽るだけで少しずつ後ずさりをして距離は開いていく。二人の距離が5mほど離れたところで少女は大きく息を吸い叫んだ。
「エリック〜〜来て〜〜!!」
「へ? エリック?」
その聞き覚えのある名前に『あれ?』と思うとほぼ同時に誰かが走ってくるのがわかる。
「どうした!? …ノーラ! 」
走ってきた男性と目が合う
「………」
「…… ……え? …… ……え〜?」
「え〜〜?」
走ってきた人はやっぱりエリックだ、黒いスーツに革の靴、髪を綺麗に整え執事のような格好をしているがエリサの店で働いていたエリックで間違いない!
なぜお互いがここに居るのか理解できず、エリサとエリックはお互いを指差しながら口をポカンと開けたまましばらく見つめ合っていた。
「………」
「エリック?だよねぇ?」
「は、はい、オーナー…ですよね?」
「う、うん…エリック…は…ここで、何してるの?」
「僕は…ここに住み込みで働かせてもらっています…オーナーは?なぜここに?ディベスに居るって聞いていましたけど…」
「あ、うん、そう…ディベスに居たんだけど…バルサさんがバリエに行くから同行する料理人として呼ばれて…」
お互いの無事を喜ぶより、予想していなかったこんな形での再会に唖然としておかしな空気が漂う、エリックを呼んだノーラも箒を握りしめたまま二人を交互に見ている。
「エリック?…」不安そうな表情を浮かべ、なんともか細い声を出しながらノーラがエリックの袖をつかんだ。
「あ、ノーラ!この人は怪しい人じゃないよ。大丈夫、僕が働いていた酒場のオーナーだよ!」エリックがそう言うとノーラと呼ばれている少女は一回頷きエリサを見つめながらエリックの後ろに隠れた。
「………すいませんオーナー、彼女は極度の人見知りなもので…」
「うん、大丈夫。もしかしたらセヴィも一緒?」
「はい、今日は裏庭で草むしりをしているはずです、案内しましょうか?」
エリサはエリックとセヴィの無事がわかり安心した。馴染みのある人間に会えたことで領主の屋敷にいるという緊張感も薄らいできた。
「そう、二人共無事で良かった。あ、でも先にエレナさんに会いたいんだ、厨房ってどこかな?」
「え?厨房って…オーナー、たぶん通り過ぎてますよ…」エリックが申し訳なさそうに言った。
「え?うそ!…」
「えっと、案内…しますね…」
なぜ二人がこの屋敷で働いているのか不思議だった、エリックに聞いてみるとバルサさんは家も仕事も失ってしまった人達を住み込みで雇っているそうだ。
また家を失った多くの人達はルイス達がいた東の屋敷と郊外にある教会、少し遠いが砦も開放してなんとか保護できているらしい。
また生活が厳しい家庭の子供とかも預かっているという、ノーラもその一人で、そういう子供は多いらしい。
エリックに会えて、気心の知れた人と話ができて気持ちが落ち着いた、やっぱり緊張していたのだろうか?
厨房に案内してもらうとなぜ間違えたのか不思議に思える。
厨房に着くとエリックがエレナさんを呼んできてくれた、背は低いが相変わらず頼りになる男だ。
「オーナー、こちらがエレナさんです」
連れてきたエレナという女性はエリサより少し若そうだ。少し赤みがかった短い髪に、白くて立派なコック服で身を包みなんとも仕事ができそうな雰囲気だ。
「初めましてエリサさん。お会いできるのを楽しみにしておりました」その見た目とは裏腹に丁寧な言葉遣いと優しい口調、可愛らしい笑顔でエリサを迎えてくれた。