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酒場のエリサ  作者: smile
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ラージュの町

エリサが首都バリエに行くことが決まるとアンネさんが身の回りの必要な物を用意してくれた、一番有り難かったのが服をたくさん貸してくれた事だ。仕事用にシャツとズボン、普段着るにはワンピースを、いつ着たら良いのかわからないワサワサしたスカートなど落ち着かない服も入れてくれた。


急いでいるという事もあって出発は翌朝に出る事となった、ディベスからラージュへ物資の輸送のため船が出るというのでそれに乗せてもらうためだ。


これで午後にはラージュに着く。

久し振りに行くラージュ、燃えたと聞かされている街を見る事への不安な気持ちと、生まれ育った街へ早く戻りたいと思う気持ち、どちらも強い。


エリサは船に揺られながらラージュについての現状などをアレフから聞かせてもらった。聞くのも辛くなるような戦いと結末、そして焼け崩れた街の今の状態だ。


アレフさんの話を聞いてルイスがディベスに来た日の事を思い出した。


そんなにも辛く厳しい戦いをしたルイスは私に『すまなかった』と涙を流して謝っていた。


アレフさんの話では謝るような事は一切していないではないか、むしろラージュの人達が誰一人亡くなっていない、そんな逆境から勝利して、今も復興のためにバリエに行って国王にお願いをしているのだ、もっと自分を誇って良いのにと思う。


とても不思議な感覚だった、ルイスのことを聞けば聞くほど、ますます好きになっていく。


そんなルイスにもう直ぐ会える…


ディベスで待っていたときのもどかしい気持ちは無くなった、今エリサが歩み始めた道の先にルイスがいる。自分の前に開かれた道を進むだけで良いのだ。


様々な物資と共に船でラージュに着いたエリサとアレフ。

港は聞いていた通り酷い有様だ、目に入るものは瓦礫しかない。海にも瓦礫が流れてしまい港一面に瓦礫が浮いている。

確かにこれでは漁なんて難しいだろう。


「…っ!」変わり果ててしまった港に降りると急いで走り出すエリサ。

エリサの酒場は港のすぐ近くにある、もしかしたら何か残っているんじゃないかと期待もあった。

しかしそんなエリサの目に映ったものは燃え崩れた瓦礫の山だけだった。


覚悟はできていた、そう聞かされていたものの『もしかしたら…』と思う気持ちが何処かにあったのだろう。自分の店が燃えたであろう瓦礫の山を見たらやっぱり涙が出てきてしまった。

自分が住んでいたアパートにも行ったが同じ光景が目に入ってきた、アンネさんの住んでいた家も同じ光景になっている


久し振りに戻るラージュの町は家が燃え、崩れ、辺り一面廃墟となっていた。

そこにはエリサが知る、生まれ育ったラージュとは思えない風景が広がっている。

争いが終わってからすでに何日も経っているというのに一向に復興の目処が立っていないのは明らかだった。


アレフさんに連れられて港からバルサ様の屋敷へ向かうエリサ。その足取りは重くやるせない気持ちでいっぱいになっている。


しばらく歩き、港を離れるにつれて人々の元気な声が聞こえてきた。


その賑やかな雰囲気に「…なに?」と思い、早足にアレフを追い越し先に進むエリサ。

街の大通りに出ると人がたくさん集まっている、子供も女性も、おじいちゃんまでもが全員で瓦礫を片付けているではないか、届いたわずかな物資を分けながら街の再建は確実に始まっている。


「よかった…みんな元気だ…」


その光景を目にしたときエリサは少しホッとした、そこにはエリサが知る活気のある港街ラージュの雰囲気を感じさせてくれたからだ。

ただみんなが元気に笑っている姿を見れただけでも嬉しく思った。

そんな光景を嬉しそうに眺めるエリサ、そんなとき街の人達の元気な声の中から聞き覚えのある声がしてきた「エリサちゃんかい?」その声に気がつき振り向くと仕入れのときにいつも声をかけてくれる年配の女性が瓦礫を持ったまま、こっちを見ている。

「エリサちゃん?…だよねぇ?…良かったぁ無事で、あれから姿を見てないからてっきり…」泣きそうな顔で声を震わせている。

「おばちゃん…」顔なじみの元気な姿を見て、駆け寄るエリサ。

「おばちゃんも無事で良かった…、私ね、ディベスに避難してたんだよ! それで今、荷物と一緒に船に乗せてもらってきたんです…」

腰が少し曲がり始めているその女性が一生懸命に瓦礫を片付けている姿を見て、エリサはまた泣きそうになってきた。


久し振りに会う顔なじみと話したい事はたくさんある、しかし今は先を急がなくてはいけない。

このままこの場を離れる事は、後ろ髪を引かれる思いがするが、エリサはおばちゃんに挨拶をして領主バルサ様の屋敷へと急いだ。


早くなんとかしないといけない、私にできる事は少ないけど、まずはバルサ様が無事にバリエに行けるよう全力でサポートする事だ。


屋敷へ向かうまでの街中を歩いていると時折、前の領主クラウスへの不満が聞こえてくる。

「あいつは税金ばっかり高くしやがって…」

「今回も何かの欲に目が眩んだんだろう?」

「海賊ともうまく繋がっていたみたいだしな…」


そんな中にルイスの事を言う人もいた。

「ああ、殿下のおかげで俺たちは命拾いしたようなものだしな…」

「殿下がいち早く気がついて俺たちを避難させてくれなかったら今頃どうなっていたか」


ルイスの事を褒めている、聞いているとなぜか、こそばゆい気持ちになるのは何故だろう。私は何もしていないのに…


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