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酒場のエリサ  作者: smile
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新しい始まり

次の日も無事に教会での朝食を作り終えたエリサ。

ご機嫌な様子で家へと向かっている。

最近着ているワンピースやスカートも案外良いものだと思うようになった。髪も一つに束ね上げることを止めて長いブロンドの髪を下ろしたままにしている。

そろそろあのワサワサして落ち着かないスカートにも挑戦しようと検討中だ。


 鼻歌交じりに家に着くと、珍しく昼間からカイさんがいる。最近は仕事探しのため朝から町中を歩き回っていると言っていたのに。


「あ、カイさん、今日は一緒にお昼を食べられそうですか?」

「ああ、嬢ちゃん、やっと仕事のメドもついてきた所だ4日に一度だが漁にも出れそうだぜ!」鼻息を荒くして興奮気味に話すカイ。


「本当ですか!?」自分のことのように目を輝かせて喜ぶエリサ。


「ああ、漁に出ない日は造船所で働かせてもらえることにもなった」ドヤ顔で自慢気に話すこんな姿のカイさんを見るのも久し振りだ、やっぱり肩身が狭かったのだろうと思い安心するエリサ。


「でもどうして4日に一度しか漁に出れないんですか?」


「ああ、それがな……」カイさんたちの漁はディベスと同じ定置網み漁のため漁場が限られてくるらしい、ディベスの漁師さん達と話し合いをしたところ、限られた漁場をラージュから避難してきた漁師達が交代で使うことになったらしい。

 ラージュから来た漁師の数が多いため小さな漁場を交代で使うと4日に一度が限界だ。それでも漁に出れることが嬉しいらしくこのあと早速、網の手入れをすると言っていた。

 造船所の仕事も実は昨日から働いていたらしい、身体が大きくて力のあるカイさんは重宝されているようで以外と忙しいと言っている。


 いつの間にか全てがうまくいっているように感じた、いや実際うまくいっているのだ、このままみんなが笑顔で生活できたら最高だ。


 後は私が頑張る番だ。


 避難してきた人達の生活が安定してきたら教会での調理の仕事はなくなる。

 その後は何をしようか…

 やっぱり料理が良い、カルラ叔母さんの庭でお昼だけの料理屋を出すのも考えた、お弁当を作って漁港に売りに行くというのもアリだ。

 多分できることは沢山ある!とりあえず今は教会での仕事に集中することにした。


 毎日が穏やかに過ぎていく、ディベスの街は平和で人々が穏やかにノンビリと毎日を過ごしている。


 最近はカイさんが漁に出る日は、朝の教会での仕事帰りに漁港へ行き水揚げされた魚をもらいに行くようになった、その魚を家に持ち帰りアンネさんと一緒に調理をするのが4日に一度の楽しみになっている。


 晴れている日も

 暑い日も

 風が強い日も

 雨の日も


 誰もが笑顔で幸せを感じることができる。


 今、やっと、私は、ここディベスに来て良かったと思えるようになった。


 毎日が幸せだ…


 ……………



 ディベスに来て何日が経つだろう、教会に避難している人達も残りあと一家族の5人だけになった、もうベレンさんと2人で調理するほど忙しくはない。

 昨日からは一日置きに交代で調理をする事にした、今日はベレンさんの当番なのでエリサは休みだ。


 久し振りの休みで、どうして良いのかわからず家でボーッとしているとアンネさんがルイスのことで絡んでくるので、なんとなく逃げるように外へ散歩に出掛けた。



「もぅ〜アンネさんったら、応援してくれているのは、わかるんだけど…」初めての燃えるような恋心に実際はエリサ自身が戸惑っているのだ、余り周りで騒がれるとどうして良いのかわからなくなるのが本音だ。


 しかしあれから何日も経っているというのに抱きしめられた時のことを思い出すと未だに身体が火照って熱くなる。

「うぅ〜ヤバイ…また思い出してしまった」

 あの時の温もりも、鼓動も、声も、まだ鮮明に思い出すことができる。


 両手で顔を押さえて気持ちを落ち着かせる、空を見上げ、今、遠くにいるルイスのことを想うエリサ。

 ルイスが迎えに来た時にガッカリさせないようもっと自分を磨こうと決めていた。


 散歩を終えたエリサが家の近くまで帰ってくると、また家の前に馬が一頭繋がれている。明らかに不自然で怪しい。


「ルイスだ!」思ったよりかなり早く戻ってきた、もうルイスに会える、来てくれた!そう思いエリサは家まで走った。


 はやる気持ちを抑えきれずに急いで家の門をくぐると見たことのない兵士が1人立っていた。

「誰?…」

 いや、どこかで見たことがあるような気がする。


 恐る恐る近づくと兵士がエリサに気がつきこちらに向かってくる。


 誰だっけ…?見覚えがあるが思い出せないエリサ、なんとなくイヤな気がした。


「エリサさんお久しぶりです」兵士はそう言うと一礼して何やら手紙のようなものを取り出した。


「えっと…」まだ思い出せない顔をしているエリサを見て兵士は名前を名乗った。


「お元気そうで何よりです、私はアレフ。以前エリサさんのお店にルイス様の命で料理を取りに行った者です」

 男は笑顔でそう言うとその手紙をエリサに手渡した。

 エリサも思い出して少し安心する、しかしこの人が来たということはルイス絡みの事だろうと察した。

「あ、あの時の…お久しぶりです、あの、それで今日はいったい…それにこの手紙は…」


「この手紙はラージュの新しい領主、バルサ様からでございます、内容をご確認下さい」


「………へ?」

 今この男はなんて言った?新しい領主バルサ様?…聞き間違い?いや同じ名前の別人ということもある

「あ、あの今、新しい領主を…誰と…」

 確認するようにエリサは尋ねた。


「はい、ラージュの新しい領主バルサ様からの手紙でございます。エリサさんも何度もお会いされていてご存知かと!」

「・・・・へ?」信じられなかった領主が変わったことは聞いていたが、まさかバルサさんが領主とは、それに私に手紙とはいったい…

 アレフに言われるがまま、その場で手紙を開け内容を確認するエリサ。


「…………」


 エリサは手紙の内容を見て驚いた、まずバルサ様がこれからバリエに行くということ、理由は新しい領主としての挨拶とラージュの復興支援のための現状報告。

 何より驚いたのはこの先だ、バリエに行くための道中の料理人としてエリサについてきて欲しいというのだ。


 信じられない話だ、手紙とアレフさんの顔を交互に見て幻でないか何度も確認する。確かに現実だ…

 この私がバリエに行ける、それだけでも信じられない事なのに、バリエに行くという事はルイスに会える!


 夢のような話に驚き声も出ないエリサ。


 そんなエリサを見てアレフが話し始めた。

「バルサ様の出立は今日から3日後、準備もあるので遅くても明日までにディベスを出ないと間に合いません、急な事ですがバルサ様には何が何でもエリサさんを連れてくるようにと命じられていますので是非ご同行お願いします」


「え?ちょっと…」

 明日って、急すぎる内容に戸惑う、明日は教会での仕事があるし、アンネさん達に説明をしないといけないし、それにそれに…慌てるエリサ


「とりあえず、アンネさんだ!」

 急ぎ家の中に入りアンネさんに説明をする事にした。


「あ、アンネさん!あの、私、バルサが急にバリエに行ってルイスに会って、それでその…」慌てているせいで要点を得ずエリサの言葉に不思議な顔をするアンネ。

「どうしたの?エリサちゃん、愛しのルイス様は今はバリエにいるのよ」

「ち、違うんです、そのこれを」話が通じないので手紙をそのままアンネに見せた。


「まぁ!」目を大きくして驚くアンネを見て、わかってもらえた事にエリサも一息つく。

「それでこれはいつ行くの?」

「あ、明日にはディベスを出ないと行けないんです」

「こうしちゃいられないわ」アンネは慌てて何かを用意し始めた。

「あ、あの私、行っても?」

「当たり前でしょ!早く準備なさい」


「はい!」

 エリサの顔は喜びに満ちていた、この誰もが予想していなかった展開に胸躍るような気持ちだ。

 すぐに教会へ行ってベレンさんにお願いしないといけない。エリサは家を飛び出し教会へと走った。




「はぁはぁ」

 バリエに行ける

 私がバリエに行くんだ


 そしたら、そしたら


 ルイスに会える

 ルイスに会える


 待っていなくても良いんだ

 私が会いに行く!



 会いたい


 ルイスに会いたい


 早く会いたい



 教会までの道を全力で走るエリサ、教会の厨房に着くとベレンさんが料理の下ごしらえをしている。

「おや、どうしたんだいエリサ?」息を切らせて、見るからに慌てているエリサを見て、ベレンはただごとではないと察した。


「はぁはぁ…あの…」

 何て言おう…

 どう説明をしたら良いんだろう…


「………」


 ダメだうまく言葉にならない!


「あ、あの…これを!」とっさに持ってきた手紙をベレンに渡した。



 ベレンは渡された手紙を開け、読み始める。読み進めるうちに目がどんどん大きくなり身震いしているように見えた。


「エーリーサー!!!」厨房にベレンの大きな声が響く。

「はっはっはっは!!あんた、やっぱり最高だよぉ!!」エリサはベレンの大きな身体に抱きつかれ息ができない。


「ぅ…………ぷっはぁ…」ベレンの腕の隙間から何とか顔を出しそのままベレンの顔を見上げた。身体は抱きつかれたまま身動きが取れない。


「うんうん、わかったよエリサ、出発は早いんだろう!?いつだい?」エリサの新しい門出に感動して涙ながらに話しをするベレン。


「あ、あした…なんです…」エリサは申し訳なさそうに、それと抱きしめられ少し苦しそうに答える。


「そうかい、そうかい。行っておいでエリサ! 後の事は心配しなくて良いよ、私に任せておきな!」


「はい…」


 ベレンさんの優しさが心に浸みた。

 私がバリエに行く事を自分の事のように喜んでくれるベレンさんが好きだ。

 一緒に仕事ができて本当に良かったと思う。


 あした、私はバリエに行く。


 私の新しいスタートだ!
















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