表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
酒場のエリサ  作者: smile
25/117

再会

「う〜、やっぱ落ち着かない…」

 早く帰れせてもらったもののモヤモヤした気持ちがして落ち着かないエリサ。

 気晴らしに港を散歩していると、漁から戻った漁師さん達が沢山いて美味しそうな魚がいっぱい水揚げされていた。そんな風景を見ていると馴染みがあって何となく落ち着いていた。

 しかし港を出て家に戻ってくる頃にはまた気持ちが落ち着かず、何とも言えない気分になっている。

「私は何がしたいんだろう…」

 このままもう少し散歩をしようか悩んだが、またベレンさんに気を使わせてしまうのもイヤなので家で休むことにした。


 エリサが家の近くまで戻って来ると、なぜか家の前に馬が2頭繋がれている。

「なぜ?馬が…」かなり不自然なこの状況に怪しむエリサ。

 家の門の脇で立ち止まりゆっくりと中を覗き見る、庭には見たことのない小柄な女性が立っていて、家の入り口にはアンネさんが男の人と話をしている。

「っ!!」その男の後ろ姿には見覚えがある、見間違えるはずがない、ルイスだ!

 慌てて門の壁に隠れるエリサ。


 あれ?何で私隠れるの?

 いや、どうしてルイスがここにいるの?


 だんだんエリサの鼓動が早くなる…


 どういうこと?


 ルイスが居るはずはない。


 ルイスのことばかり考えていたから見間違えただけだ、きっとそうだ!


 大きく息を吸って、もう一度ゆっくりと中を覗くエリサ。


 …………



 間違いない、ルイスだ。

 そのとき庭にいた小柄な女性と目が合う。


 とっさにまた隠れるエリサ。


 壁にもたれかかり空を見上げるエリサ

 何で私隠れてるんだろう…


 一体何がどうなっているのか…


「おかえりなさい! エリサさん!」急に目の前で自分の名前を呼ぶ声がして驚くエリサ。そのまま前を向くと庭にいた女性が上目遣いに微笑みながらこっちを見ている。


「あ、あの……あなたは?………」エリサの頭はパニックになりそうだった目の前の女性はなぜ自分の名前を知っているのか、どう考えても面識は無い。そもそもなぜルイスが居るのだ?

 大きな目をパチパチさせながら目の前の女性を見るが言葉が思うように出てこない。


「ささっ!こっちへどうぞどうぞ〜」

「え?あ、きゃ!っちょっと…」

 その女性に押され庭先へと押し出されるエリサ。いくら抵抗しても力強く押し出されてしまう。


「あらエリサちゃん」アンネさんのその声とほぼ同時にルイスが振り向く。


 ルイスと目が合う。

 やっぱりルイスだ。


「あ、あの、その………」

 やばい言葉が出てこない


 どうしようルイスが近いてくる


 心臓が破裂しそうなくらい暴れている


 頭が真っ白になっていく、もう何も考えれない


 思わず下を向いて目をつぶるエリサ


 どうしようどうしよう…


 次の瞬間、ふわっと優しく温かい何かにエリサの身体が包みこまれた。


 …?


 ゆっくりと目を開けるとエリサはルイスに抱きしめられていた。


「あ…」驚いて何も考えれない、声も出ない、ただルイスの腕の中で呆然としているエリサ。


「エリサ、無事でよかった…」ルイスのその声はかすかに震えていた、気がつくとその腕もかすかに震えている。


 本物だ


 温かい…ルイスの温もりと鼓動が伝わってくる…


 本当にルイスがここにいる、幻でも見間違えでも無い…


「あ、はい、大丈夫です…ルイスも無事でよかった…」

かすれるように小さく震える声、囁くようにやっと声が出せた。

何かから解放されるように少しずつ身体の緊張が解け力が抜けていく感覚に襲われるエリサ。


 嬉しい


 今、こうしてルイスに会えた


 そうか私…ずっとこうしたかったんだ、これを望んでいたんだ…

 ルイスの腕に包まれ、抱きしめられてるのを夢見て望んでいた、ただこれだけを…


 エリサはその手でルイスの腕のあたりの服を力強く掴んで身体をルイスに預けた。


 心のモヤモヤしたものはもうなくなった、気持ちがとても軽い。


 そして涙が止まらない…


 今はすごく嬉しくて幸せだ、そんな涙は我慢したく無い。


 エリサの瞳からは涙が溢れてくる、今まで胸の奥に抑え込んでいたものを吐き出すようにとめどなく流れていく、感情のまま、素直な気持ちで静かに泣いた、ルイスの腕の中で。



 …………



「ル・イ・ス・さ・ま!ここで熱いチューですよ〜」


「ひゃっ!」その声に驚きエリサは一歩後退りした。

 小柄な女性とアンネさんがニヤけながらこっちを見ている。


 やばい!

 急に恥ずかしくなり身体中が熱くなってきた、どうしよう、私…ルイスに…

 恐る恐るルイスを見ると顔を赤らめこっちを見ている。

 え?どうしたらいいの?私…

 ……さっきチューって言った?

 むり…


「あれぇ?ごめんなさい、ダメダメなルイス様を押したつもりだったんですけど、エリサさんもダメダメでしたね〜、はぁ…」その女性は残念そうにため息まじりに言った。


「そうよね〜、あそこはチューよね〜」なぜかアンネさんも隣で残念そうな顔をしている。


「ね〜」2人がイタズラ好きな少女のような瞳をして意気投合している。


 な、何…未だに状況が把握しきれていないエリサ、まだ混乱気味だ。


「あ、初めましてでしたねエリサさん、私はラウラ。ルイス様の護衛をしております」さっきまでと変わり真面目な顔で挨拶をするラウラ、護衛という言葉が似合わないくらい小柄で華奢だ。

「いつもあなたの事は見ておりました、酒場にいるときも街でネックレスを買ってもらったときも、あぁ〜あの時は私もドキドキしちゃいました〜」急に顔を赤らめ1人の世界に入っていくラウラ。


 変な人なのかなこの人…

「あ…」ふとルイスと目が合い、また言葉に詰まるエリサ。


「エリサ、すまない!!」ルイスは突然エリサに向かって頭を下げた。

「え?あの何が…」

「俺は君との約束を守れなかった」頭を下げたまま悔しそうに拳を強く握りしめるルイス「俺は以前、ラージュの町は俺たちが守ると君に言った、それなのに…俺は…町を…港を…君の店さえも…何も守れなかった…すまない…」

 少しづつ震えていくルイスの声、下げたままの顔から涙らしい雫が落ちた気がした。

 エリサはそんな約束、覚えていなかった、今ルイスに言われてネックレスをもらった後に言っていたような気がするくらいだ。

 そんなことで泣かないでほしい、気にしなくていい、大事なものは失っていないのだから。そう思いエリサはルイスの手を優しく握りしめた。

「大丈夫です、気にしないで…ルイスが無事でいてくれただけで私は嬉しい。だから顔を上げてください」


 顔を上げたルイスの目は赤く涙の痕が残っていた


「今度こそチューですね」「そうよね、今度こそ」ラウラとアンネが隣で眼を輝かせながら小声で話しているのが聞こえる。


 気まずそうになるルイスとエリサ。

「あ、あのなぁラウラ…どうしてアンネさんまで…」ルイスは困ったように睨むと2人は慌てて少し離れた。


「それと、これを…」そう言ってルイスはポケットからネックレスと櫛をエリサに手渡した。


「こ、これって…」そこには店に置いてきてしまったはずのネックレスと櫛が目の前にある、エリサが眼を見開き驚く、するとラウラがルイスに警戒されながらゆっくりと近づき何やら荷物を置いた。

 そこにはエリサの使い慣れたナイフと帽子にサロンさらに店の売り上げが入った箱まである。

 口を半開きにしたままルイスとラウラを交互に見るエリサ。

 わざわざこれを届けてくれたんだ、そして燃える店からこれを持ち出してくれたんだと、すぐに理解できた。


 帽子もサロンも自分の物だ、ナイフを持ったこの感触も手にしっくりとくる。


「ありがとう…これだけあれば私は大丈夫です、店から持ち出してくれてありがとう」

 眼を潤ませながら何度もお礼を言うエリサ。


 これしか持ち出せなかったと申し訳ない気持ちでいっぱいだったルイスはその姿を見て安心した。そしてここまで来て良かったと、やっと安心できた。


「あ、少しディベスでゆっくりできるの?」

 エリサは久々の再会でもっと話をしたかった、何よりルイスのそばにいたい、どんどん欲張りになっていく自分を抑えられないでいる。


「すまない、すぐにでもバリエに戻らないといけないんだ」ルイスがそう言うとエリサは何かを期待している自分が恥ずかしくなった、それと同時に物凄い不安が襲ってきた。

 そうルイスはこの国の王子だ、バリエに帰るということはもう二度と会えないという事だ。そのまま戸惑うエリサ。

 そんなエリサを察してルイスは話を続けた。


「俺はラージュを復興させるための支援を国王にお願いするためにバリエへ帰る。必ず話をまとめて早いうちにまたラージュに戻ってくるつもりだ。必ず君の店も元どおりにしてみせる、だから、その…待っててくれないか…絶対に戻ってくる、今度こそ約束は守る」ルイスは真剣な顔つきで話している、エリサの目を離さずに。

 エリサは驚きながらその言葉を聞いていた、また戻ってくる、待っててくれ…どういう事だ?…この含みのある言葉が気になり、また欲張りな自分が顔を出し始めている。でも確認する勇気はない…でも…


「ま、待ってます、待ってていいんですか?」なんともか細い声で、やっと声を絞り出した感じでルイスを見つめるエリサ。

「ああ、もちろんだ」ルイスもエリサを見つめ手を握った。





 どれくらい時間が経ったのだろう、気がついたら庭には誰も居なくなっていた。


 不思議に思い、家の中に入るとアンネさんとラウラさんが仲良くハーブティーを飲んでおしゃべりしていた。

「あら、もうラブラブな時間は終わりですか〜?」とラウラがおもちゃに飽きた子供のように聞いてきた。

「でもいいものを見させてもらったわ!うふふ」アンネさんのこの笑顔が少し怖いと思った。


 なぜか仲良しになっているこの2人が不思議に思ったが、余計な事を言われそうなので何も聞かないようにしておこう。


「ラウラ行くぞ!」ルイスはいい加減にしろと言わんばかりの口調になっている。


「え〜、せっかく気を利かせて2人だけにしてあげたのにもう行くんですかぁ?」何故かくつろいでいて、とても残念そうな顔をするラウラ。


「仕方ないわね。ラウラちゃん話の続きは、またいつでも来てね!」


「ええ、また必ず!」この言葉だけはふざけたような表情ではなく真面目な顔で答えるラウラ。




門の所まで見送るために外へ出ると海風が強く吹き抜けていく、鬱陶しいと感じていたこの強い風がとても気持ち良く感じるのは何故だろう。

馬に乗る直前にルイスは振り向きエリサの方を見た。

「その…すまなかった、急に抱きしめて…次は確認してからにする…」ルイスの顔がかなり赤い、いや真っ赤だ。

 そんな事を急に言われてエリサは思わず立ち止まる。

 え?次は? って、次があるの?

 そう思うとエリサの顔も真っ赤になる。



 もっと話がしたかった。

 もっとその温もりを感じていたかった。

 久しぶりのルイスの声。

 その笑顔。

 くれたネックレス。

 持ってきてくれた私の荷物。

 抱きしめられたこの場所。

 今はその全てが愛おしい。


 今日私は…


 完全に…


 恋に落ちた…




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ