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酒場のエリサ  作者: smile
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エリサの料理

 


 未だ教会で寝泊まりをしている人達は20人程、さすがに仕込みもしていない状態では手の込んだ料理は作れないので作れるものは限られてくる。それでもベレンさんと2人なら作れそうな気がしていた。

 エリサは厨房に立つのは2日ぶりだがとても長い間料理を作っていないような感覚があり不思議に感じる。それでも久しぶりに立つ厨房はワクワクして、気持ちがいい。

なんでだろう?今はなんでも作れそうな気がする。


「さぁ始めましょう!」エリサは腕の袖をまくり上げ、ベレンさんに借りた大きなエプロンをつけている。髪はベレンさんと同じように後ろでひとつに結ぶと舌なめずりをしナイフを手にした。


「今日は二品作ろうと思います」材料を前にやる気に満ちた表情のエリサ。

「じゃぁ今日は任せたよ、あたしは何からやればいいんだい?」何ができるか期待をしながらベレンも腕まくりをする。

「まず、小アジのエスカベッシュを作りますね。これは少し多めに作ります、日持ちがして明日も使えるので明日の一品に加えてください。その後はさっき買った貝を使ってスープを作ります」

「明日も使えるのかい?そりゃぁ良いね、少し楽になるよ!貝はアサリとハマグリとムール貝全部入れるのかい?」

「はい!色々入ったほうが深みのある味になるので全部いれちゃいます」エリサはそう言いながらすでに玉ねぎの皮を向き始めている。料理のことになると身体と口が自然と動き出す、水を得た魚のようだ。

 ベレンはエリサが皮をむいた玉ねぎ、人参、セロリ、ニンニクを言われたように切っていく。

 気がつくと貝は塩水につけてあり、小アジの下処理が半分くらい終わっている。

 ベレンがあれっ?と思いコンロを見ると小アジを揚げるための油を温め始めている、初めて立つキッチンにもかかわらずエリサの動きは無駄がなく早くて正確だ、その手際の良さに驚き手が止まってしまった。

「は〜〜、あんた………驚いたねこりゃ…」ベレンは自分の手が止まっていることに気がつき慌てて野菜を切り続けた。以外と野菜の量が多かったのでベレンが切り終わる頃にはすでに小アジの素揚げは終わっていた。

「あ、ベレンさん野菜ありがとうございます。次は貝をこすって洗っておいてもらえますか!」

「あいよ!任せな」エリサのペースに乗せられてかベレンのテンションが上がってきた。

 エリサは何も迷うことなく大きな鍋を二つ同時に火にかけベレンの切った山盛りの野菜を炒め始めた、一つは白ワインと白ワインビネガーを使ってソースを作り素揚げにした小アジをマリネする、フレッシュなレモンを入れて爽やかな感じに仕上げるのがエリサ流だ。もう一つの鍋では弱火でじっくりと炒めた野菜が甘い香りを漂わせている。そこに貝を入れ白ワインで蒸し始めると磯の香りと野菜の甘い香りが絡み合い魅惑的な香りと変化する。

ベレンは(スープにしないでそのまま食べたいくらいだ)と思うほどだ。

そこに水と生のトマトを刻んで入れてさっと煮込んだら完成だ。


 エリサはあっという間に二品作ってしまいとても満足そうに使った調理器具を洗っている。

 料理を作っているときのエリサは今までベレンが見てきたエリサとはまるで別人に思えて仕方がない、初めて会った時は薄汚れていて子供のような雰囲気の女の子、市場で会った時は綺麗なブロンド髪をもった、とても美しい女性、そして、今目の前にいるエリサは明らかに違う人間にしか見えなかった、手際よく料理を作るその姿はまるで魔法でも使っているんじゃないかと思うくらい魅了されてしまうほどであった。


「ハッハッハ、エリサ!あんたスゴイよ〜、いったい何者だい」ベレンは突然洗い物をしているエリサの後ろから抱きついてきた。

「きゃぁ!」と驚き洗い物を落としそうになるエリサ、そんなことは御構い無しにベレンは興奮しているようだ、ベレンの大きな身体に抱きつかれエリサの身体が少しだけ中に浮く。

「これからも頼むよ!エリサ!」とても嬉しそうにしているベレンを見てエリサは恥ずかしいやら嬉しいやら、なんともこそばゆい気持ちになった。


「それじゃぁ早速みんなに食べてもらおうか」ベレンは早くみんなに食べさせたかった、もちろん味見をして美味しかったからだ。それはベレンが今まで食べたことのない優しい味をしていた、しかし決して薄味というわけではない、むしろ味はしっかり付いているのだ、それなのにいくらでも食べれそうなくらいサッパリと食べれるのだから不思議で仕方がない。本当に魔法でも使ったんじゃないかとベレンは思ってしまうくらいだった。


「あ、はい!それでは私が小アジをお皿に盛りますので、そこにパンを切って添えて下さい、スープは最後に熱々を盛りましょう」


「はいよ!」


 盛り付けた料理はシスター達が次々と運んでくれた。全部運び出した後、洗い物をしていても食べている人達の事が気になって仕方がない、なんとなくソワソワしているとベレンさんも同じようにソワソワしていた。

「あ、あの…ちょっと見に行ってきても良いですか?」洗い物がまだ残っているので申し訳なさそうに言うと「いや、一緒に行こう」と言ってくれた、どうやらベレンさんも見に行きたかったらしい。



 皆が寝泊まりしている部屋の前に行くと何やら賑やかな話し声が聞こえてくるので、ベレンさんは不思議そうな顔をした。その顔を見てエリサは昨夜の重たい空気の中で食べた食事を思い出した。

昨夜のような雰囲気の人達を見るのは少し怖かった、でも今は話し声が聞こえる…緊張しながらも静かに入口から覗き込み話している声に耳を傾けるエリサとベレン。


「いや、ほんと美味しいねぇ」

「ああ、なんだか懐かしい感じのする味だったな」

「そうそう、まるでエリサちゃんの店で食べたときのような味だったなぁ」

「そういえば…」

「漁が再開されてから一度行ったがこんな感じの味付けで…ほんと何食べても美味しかったよな〜〜」

「ええ、また彼女の料理を食べたいわね」

「ああ、俺たちこのまま落ち込んでたら彼女に笑われそうだな!」

「あの子は人の事を笑ったりしねぇさ!」

「ははは!確かにそうだな」

「うふふ、そうよ!」


 皆が笑ってる


 しかも私の事を話している?


 嬉しい…


 私は料理しかできない…いや、違う


 私には料理があるんだ!


 みんなが笑いながら食事をしている、私の料理を食べながら…エリサは心の底から嬉しくて溢れてくる涙を我慢できなかった。


こんな声を聞けただけで今は満足だ!不思議と心が温かい気持ちになる…


エリサはそのままベレンさんのエプロンを引っ張り厨房に戻ろうとした、しかしベレンさんは「顔を見せてやれば良いのに」と言ってくれたがなんだか恥ずかしくて無理だった。


 厨房に戻り、下げられてきた食器も洗い終わるとベレンさんは明日もお願いすると言ってくれた。

 明日は家の料理当番なので朝だけ引き受け、ここの料理担当についての詳しい話を聞いた。

 ここで食事を出しているのは朝と夜の2食だ、基本的に作るものはなんでも良いらしい。ベレンさんが1人だったのは他に人手が無かっただけでエリサが増えても問題ないらしい。さらに驚いたことに、これはボランティアだと思っていたらヘルマン様の指示で行っているため少ないが給金が出るらしい。材料費は毎日支給されるのでその範囲内であれば自由に使えるということ。かなり待遇が良いのでエリサは嬉しかった。

最後に明日の朝の予定をベレンさんと話して今日は早めに切り上げて帰ることにした。


「明日も朝早いからよろしくねエリサ!」別れ際に大きく手を振るベレン、声も大きい。


「はい!よろしくお願いします」エリサも負けじと大きく手を振った、大きな声は出ないがとびっきりの笑顔だ。




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