なぜ?
クラウスが反乱を起こして1日と半日。国王軍の勝利という形で幕は下りた。幸い住民の命が失われることはなかったのだが、街の1/3は焼け崩れてしまっていた。
反乱から3日目。避難していた住民達は街に戻り、それぞれの家に向かうのだがそのほとんどは家を失い、仕事を失い、途方に暮れている。
これでも勝利と呼べるのだろうか?ルイスは1人自問自答していた。
港にはディベスから来た大きな船が3隻停泊している、その中でルイスとヘルマンが改めて顔をあわせている。
「ふむ、実は戦いの最中に港に着いたのだが、しばらく望遠鏡で様子を見させてもらっていた。どちらが住民の敵なのか、正直ここに来るまでは半信半疑でしてね、まず両者に直接会って話を聞こうと思っていたのだが戦闘中だったので落ち着くまで待っていたのだ。しかしクラウスの兵士達が街に火を放ち始めたので驚いてな……でも、そんな中でもそこのバルサ殿が火を消そうと必死にもがいている姿を見て私も決心がついたのだ」
「しかし、どうしてこんなにも早く動かれたのだ?」
「ふむ、使者を返した後にどうしても貴殿を助けて欲しいとある女性に頼まれましてな、まぁ半信半疑ではあったが…」口髭をさすりながら話す。
「女性に?」心当たりがなかった、ディベスへの使いは男の兵を1人出しただけで他には向かわせていない、ラウラを横目で見たがその視線に気がつき首を傾げている。
「何かの間違いでは?」
「ふむ、殿下に一つ質問をよろしいですかな?」
「ああ!」
「その左腕の怪我は…クラウスが反乱を起こす前夜に襲撃されたもので間違いないですかな?」
「っ?ヘルマン殿なぜそれを知っている?それを知っているのは一部の兵士とクラウスだけだ!それと……」
この質問にヘルマンがクラウスと通じていたと怪しんだが何かに気がつくルイス
「それ…と…それと……ま…さか……」ルイスは信じられないという顔でヘルマンを見た。
「ふむ、その傷の手当てはどなたにしていただいたか教えて頂けないでしょうか?」この質問で疑問は確信へと変わった。
「え、エリサ…エリサは無事なのか?」ヘルマンの腕を掴み問い詰めるルイス。
「え、あ、ああ…エリサ…と名乗っていたかな?あの女性は…」予想外の反応に驚くヘルマン。
「エリサはディベスにいるんだな?ディベスのどこに?」さらに腕を掴む手に力が入る。
「あ、ああ避難してきた住民は皆、教会で保護している。あ、安心して頂きたい」
ルイスは大きく息を吸い何かを決心した。
「ラウラ!馬の用意を。今からディベスへ向う」
「はい!」
「………」ヘルマンは呆気にとられている
「お、おいルイス、ラージュの復興はどうするつもりだ?お前がいなくちゃ話が進まんだろ」バルサが不安になり慌てて引き留めるー
「ん?バルサ!お前に任せる」すでにドアに向かい歩きながらそっけなく答えるルイス。
「へ?」バルサは理解できずに首を傾げる。
「お?」口髭を摩るヘルマン。
「お前が新しいラージュの領主だ!」そう言いながらすでにドアを開いている。
「ほぅ」口髭を摩る手が止まる。
「………ぇぇええええええーーーーーーーーーー?」
…………………
……………
「お、おい何の冗談だ?」バルサの声が船内に響き渡り、動揺が隠しきれずに慌てているのがよくわかる。
「冗談?本気だ、お前以外に任せられる奴はいないだろ?そもそもこのラージュのことは国王から俺に一任されている」ルイスはそう言い残して出て行ってしまった。
「………」バルサとヘルマンは2人部屋に残され予想外の展開に呆然としていた。
「行きましたな」信じられない表情のヘルマン。
「行きましたね、本当に…」バルサも信じられないというより、ありえないといったところだろう。
「ふ、ふむ、あれだな、ではバルサ殿、今後ともよろしく頼むぞ」
「は、はい……」
「しかしあれだな、ルイス殿下は無鉄砲な性格のようですな。昨日の作戦といい、今も私の船で行けば半日もしないでつくというのに、馬では峠を越えねばならず、到着は明日になってしまうだろう」
「は、ははは…」バルサは苦笑いしかできなかった。