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酒場のエリサ  作者: smile
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新たな居候

「ちょっと、どうしてラウラさんがここにいるんですか?」


エリサの問いに素知らぬ顔で洗濯物をたたむラウラ。その脇には当たり前のように猫のレイも居る。


「なんだい?久しぶりに帰って来たと思えば騒がしいねぇ」台所からカルラおばさんがお玉を持ったまま客間へ入って来た。


「え?あ、いや…カルラおばさん、ただいま帰りました…」


「ああ、もう直ぐ夕食ができるから待っちょれ!」エリサの動揺も気にせずカルラは台所に戻った。


状況が理解できずラウラを見るが、そのまま素知らぬ顔で洗濯物をたたんでいる。アンネさんのほうを向くと、いつものようにニコニコと素敵な微笑みを返してくれる。これではエリサの疑問は解決しない…


「あ、あのぉ?」


「なぁにエリサちゃん?」


「どうしてラウラさんがここに?」


「うん、新しい家族よ!」


「…はい?家族?へ?」


ますます理解できなくなってきたエリサ、ここに居るだけならまだしも家族とまで言われると心中穏やかではない。そんなエリサをあざ笑うかのようにラウラは「くふふ」と笑みを浮かべる「差し詰めエリサさんのお姉さんってところですかね!?」そう言うラウラはとても楽しげだ。


「へ?え?どういうこと?」


エリサが混乱しているうちに料理は出来上がり夕食となった。食事をしながら、ようやくアンネさんが説明をしてくれるようだ。

どうやら以前ディベスにきたときに意気投合したアンネさんとラウラさんの間でお互いに約束を交わしていたらしい。

アンネさんはラウラさんに私のサポートを、そして問題のラウラさんは…


…………◇◇………◇◇………


「もし…この先、何年先になるかわからないけど…もしも…エリサちゃんがルイス様のところに行くような事があったらエリサちゃんを守ってあげて欲しいの…あの子はラージュ以外何も知らない。

しかも若い多感な時期を酒場の経営という過酷な世界を一人で生きてきた…本当に何も知らない女の子なの…」


「……」

しばらく考えるラウラ。ハーブティーをすすりながら遠くを見つめ思案しているが何か別の事を考えているようにも伺える。

そして「良いですよ」と、そのまま遠くを見つめながら返事をするラウラ


「本当に!?」まさかと思い喜ぶアンネ


「でもそれにはハーブティー1杯じゃ釣り合いがとれないわ……私のお願いも聞いてくれるかしら?」ラウラは少し恥ずかしそうにアンネの顔を伺う。


アンネは自分がどれだけ場違いなお願いをしたか理解していた。この国の第三王子の側近に対してただの町娘を気にかけてほしいと言っているのだ。どれほど法外な金銭を要求されるかわからない、アンネは喜びも束の間、息を殺し生唾を飲む。


「私の産まれはトランタニエという小さな内陸の国…」


「……」静かに話し始めるラウラが口にしたその国をアンネは知っている。その国は百年以上も前からグライアス国と戦争を続けた末に数年前に滅んでいる。当時ラージュでも大きな噂になった。


「頻繁に戦争の起こるその国で私は子供の時から剣を握っていました。でもその時、許婚だった彼と夢を持ったんです。いつか平和な世界を作って海の近くに住もうって…」


改めて話し始めたラウラをよく見るアンネ。わずかに見えるその素肌には生々しい傷跡がいくつも見える。


まだ年頃の女性なのに…

アンネは自分の想像をはるかに超えた生き方をして来たであろうラウラの話に引き込まれた。


「もし、この先…私が剣を握れなくなってルイス様のお役にたてなくなるようなことがあったら、私は海の近くで生活がしたい」

持っていたハーブティーのカップをテーブルに置き、儚げな表情を見せるラウラ

「それこそ、この先何年後になるかわからない…もしかしたらおばあちゃんになっているかもしれないし、戦争で腕や足を失っているかもしれない。 いえ、剣を握れなくなることなんてないかもしれない。最後の最後まで戦いの中にいるかもしれない…

でも…

もし、本当にもしかしたらなんだけど剣を持たなくていいことになったら…その…私を海の見える街に住まわせて欲しい…そのときが来たら手助けして欲しい…」


予想外のお願いに返事をすることすら忘れてしまい唖然とするアンネ。そんなアンネを見てついつい口を滑らしてしまったことを後悔するラウラ。


「…ごめんなさい…私が剣を置くことなんて一生無いと思います。忘れてください……あ、でも…もしルイス様の遠征などで、また来ることがあったら、ハーブティーを飲みに来てもいいですか?とても美味しかったです。その許婚だった彼もハーブティーが好きだったんです」


アンネは少し遅れてから優しく返答した。


「良いわよ」


おそらくエリサよりも不敏な人生を送って来たのでは無いだろうかと思わせるほどのラウラに同情とは違う愛おしさのようなものを感じていた。


「私のところへいらっしゃい、怪我をしてても良い、おばあちゃんになっていたって良い、生きてさえいれば夢は叶えられるのだから」



…………◇◇…………


そんな2人のやりとりがあったことに驚くエリサ。改めてアンネさんを見る。


「だってエリサちゃんにもしものことがあったらモニカさんに申し訳ないもの」アンネは当たり前のように笑顔だ。


「まぁあバリエでの状況の場合アンネさんにお願いされてなくても同じようなことはしたと思いますけどね」ラウラはご飯を食べながら当たり前のようにこの場に馴染んでいた。ただ少しだけ恥ずかしそうだ。


「そ、それよりラウラさんって許婚がいるんですか?」


エリサの質問にしまったっと言うような表情を見せたが仕方なさそうに肯定した


「ん?…ぁあ…まぁ…正確には“許婚がいた”ということで、今はいないわ」


「…ぇ?」


「彼は命懸けで私を守ってくれた。でも私は彼を守りきれなかった。ただそれだけよ」


死に別れた、ということなんだろう。きっとラウラさんは悲しい思いをたくさん乗り越えてきたんだ。だからあのとき私に優しくしてくれたんだ。


エリサは改めてラウラという大きな存在に感謝をした。そしてこれ以上ラウラの過去を詮索するようなこと話はやめようと思い話題を変えた。




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