船の港町ディベス
ラージュに戻って来てから3日後。
住民達に受け入れてもらえたルイスは住民達に混ざって復興の手伝いをすることになった。
エレナちゃんは両親のお店が再開できるまで再び屋敷で見習いコックとして働き始めた。エレナちゃんの上達ぶりにセリオさん達全員のコックが驚いていた顔は印象的だ。見習いを卒業する日は近そうだ。
ラウラさんには別れてから一度も会っていない、街に出たときに聞いてみたが誰もそんな女性を一度も見ていないという、一体どこに行ってしまったのだろうか?
そしてエリサはディベスから来た船に乗せてもらえることになりディベスへ行くことが決まった。ルイスとはしばらくお別れだ。
でも、私は必ずラージュに戻ってくる。
波も穏やかで心地よい海風が吹く夏の海。改めて帰って来た実感が込み上げてくる。
船に乗り港から離れると小さく見えるラージュの町を愛しむように眺めるエリサ。
数ヶ月前カイさんとアンネさんに助けられ、船でラージュを離れた時を思い出していた。
「アンネさん達元気にしているかな?早くみんなに会いたい」
ラージュの風を身体中に感じ幸せそうに微笑むエリサ。
…私は確かに多くの物を失った。しかし代わりに多くの人達に出会えることが出来た。
クラウスの反乱が起こらずあのまま酒場を経営していたとしても私は幸せだったと思う。でも生まれて初めてラージュを離れディベスでカルラおばさんやベレンさんに会えたことで多くのことを学び、気付かされた。
さらにこんな私がバリエまで行ってお城の舞踏会にまで参加した…
未だに信じられないような体験だ。
そしてルイスに出会えた…
ルイスはどんな物とも比べることの出来ない最高の幸せを私に与えてくれる。今までも、きっとこれからもずっと…ずっと…
ラージュを出たのがお昼近かったためディベスに着いたのは夕方になった。
久しぶりのディベス。不思議とここも自分の故郷のように感じる…
エリサはディベスに吹く強い風を気持ちよさそうに全身で感じた。長い髪をなびかせディベスの潮の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
「よし!早くアンネさんのところへ帰ろう」
エリサは自然と早足で歩きはじめ、懐かしいカルラおばさんの家へと急いだ。
街の白い壁が夕陽に染まりオレンジ色になった街中を歩く。15分足らずで着いた家は相変わらずハーブの香りを漂わせていて帰って来たと実感させてくれる。
庭先を抜け玄関に着くと、エリサは逸る気持ちを抑えながら扉を開ける。
「ただいま!」
「あ、随分遅かったですねエリサさん」笑顔で扉を開けると洗濯物を抱えている見知った顔が迎えてくれた。
「へ?」いや、おかしい?…なぜここにいるの?エリサの目の前にありえない人がいる。
「早く上がって下さい開けっ放しにしていると虫が入りますよ!」
「あ、は、はい…」エリサは言われるがまま扉を閉めると荷物を手に家へ上がった。エリサの帰宅に気がついたアンネがパタパタと駆け足で向かって来た。
「おかえり〜エリサちゃん」久しぶりの再会に強く抱きしめられるエリサ。
やっぱり心配してくれていたんだ…嬉しい…
エリサは「ただいま…」と嬉しそうに応えアンネの腕に顔を埋めた。
「よかったわぁほんとに無事で!ルイス様も一緒に帰って来たんでしょう?今日は一緒じゃないの?」
え?どうして知っているの?いや知っていて当然。だって…
「ちょ、ちょっとどうしてラウラさんがここにいるんですか?」