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酒場のエリサ  作者: smile
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港町ラージュ


ルヒアナを出発して二度野営をした。そして次の日の午後…

ついにラージュに戻って来た!!


長い長い山道を下りお昼近くになると懐かしい香りがエリサの鼻をくすぐる。潮の香りだ!


エリサの顔は自然と笑顔になり荷馬車の後ろから身を乗り出すと夏の日差しに照らされキラキラと輝く海が見える。久しぶりのラージュの海。海の香りがする!!


エリサは頬に当たる潮風を気持ちよさそうに浴びるとラージュの香りがする空気を胸いっぱいに吸い込んだ。


「戻って来たんだ!」




………◇◇……



ラージュの町に入ると未だ焼け崩れた家が立ち並ぶ、復興は思うように進んでいない様子にエリサの笑顔は消えてしまった。でも見る限り瓦礫をかたずける人達は誰もが笑顔で元気そうだ、それがエリサにとってすごく嬉しかった。


しかしラージュに着くと同時にラウラは1人でどこかへ行ってしまった「私は行くところがあるので」と言って挨拶もそこそこに馬を走らせた。


もう少しちゃんと挨拶をしたかったが海の近くで暮らしたいと言っていたのだ、エリサは住む場所を探しに行ったものだと思い、またすぐに会えると思っていた。


馬車はそのまま屋敷に向かうと留守を任せていたアレフさんが出迎えてくれた。後ろにエリックとセヴィもいる。

「お帰りなさいませ」アレフはかしこまった感じで皆を迎える。


「留守をありがとうございます」バルサはすぐにアレフの元へ駆け寄り礼を告げた。


「ルイス様もご無事で何よりです」アレフは荷物を運んでいるルイスに声をかける。


「いや、アレフ。もう聞いいているだろう?俺はもう王子でもなんでもない、ルイス様はよしてくれ。それと長い間俺に尽くしてくれてありがとう、とても感謝している」


「ええ、聞いています。でも私はルイスという1人の人間を尊敬しているのです、ですからこれからもルイス様はルイス様です」


困ったように苦笑するルイスにアレフは続けた「それとルイス様がいらっしゃることを町の皆さんにも伝えてあります。あとで街に出てみて下さい」


「いや、それはまだやめておこう。今の自分が世間的に何て思われているのか自覚しているつもりだ…」

バリエであれほど非難されてきたんだ、ここでは町を燃やした人間として何を言われるかわかったものではない。ルイスは不安気に街の方の空を眺めた。



「ああ、それでしたらご安心を!私がルイス様を悪人にするわけないじゃありませんか!」


………◇◇……


翌日、自信ありげに答えたアレフを信じたわけでもないが、ルイスはいずれラージュの人達に謝罪をするつもりでいた。

何よりこの街でエリサと暮らそうとしているのに完全に悪者でいてはこの先の生活ができないからだ。


許してもらえなくてもいい…

ただ、自分への非難がエリサにまで及んでしまっては元も子もない…


ただルイスは今後自分がラージュの町に住む事を許してもらいたかっただけなのだ。


ルイスは誰かに危害が及ばないように1人で街へと繰り出した。袋叩きにされる覚悟もできている。



「おいルイス殿下がラージュに戻ってきたらしいじゃねぇか!?」


「おいおい、もう殿下じゃねぇぞ!」


「そうだったな、ハッはっはっは!」



自分のことをあざ笑うかのような話し声がルイスの耳の飛び込んで来る。さすがにルイスの顔を知っている人間はほとんどいないため、俺はここにいるとは言えず逃げるようにその場を離れた。


「くそ、何をためらっているんだ、俺は…」


住民と話をするタイミングをつかめず港まで来てしまったルイス。


港の瓦礫はほとんど片付けられ殺風景な景色が広がっていた。


エリサの酒場があったであろう場所に来たが辺り一面綺麗に片付けられていて何もない。

「俺のせいでラージュはこんなに……」

改めて自分のした行動を悔やむルイス。


再び港に戻ると大きな船が停泊している。ディベスから物資を運んで来た様子だ。材木など多くの物資がおろされて忙しそうにしている。


「おや?ルイス殿…ですかな?」突然後ろから声をかけられビクッとするルイス。まだ心の準備ができていない。まさか自分の顔を見知った人間がいるとは思っていなかった…。背筋のあたりに冷やっとする寒気を感じながら恐る恐る振り返るルイス。


「ほほぅ…どうされましたか?そんなに警戒されて?」


その男を見て驚いたルイス。口髭をさすりながら不思議そうに自分を見る男はディベスの領主ヘルマンだ。


「あ、へ、ヘルマン殿!?…」住民ではなく少し安心したルイス。いきなり背後から襲われなかっただけでも良かったと思った。

するとヘルマンは物資を運んで来た船を指差す。


「見てください!今はディベスとラージュが共に協力しあって街の復興にあたっております。これもルイス殿のお陰です」


ルイスは耳を疑った、俺のお陰?俺のせいの間違えではないのか?と…


怪訝な表情のルイスを気にせずヘルマンは続けた。


「ルイス殿が私財を捨ててまで復興に力を入れてくれたお陰でようやく我々も本格的に動き始めることができました。それに今まではラージュに何かを持ち込むには多額な税をかけられていたためディベスの商人たちはラージュとの商いを控えておりました。しかしバルサ殿はそれを撤廃しました、お陰でディベスの人間も大忙しです」にこやかに話すヘルマンを警戒するルイス。


「いや、しかし俺のせいでこの町はこんなに…」


「はぁ…何をおっしゃっているのです?」俺のせいでというルイスを不思議そうに見るヘルマン。


「そもそも俺がしっかりしていればラージュは火の海にならなかった…」


「はっは!ルイス殿は変なことを言う!火をつけたのはクラウス達では?すでにクラウスの配下にいたマールなど兵隊長達が口を揃えて言っておりますぞ!『クラウスの命令とは言え自分達はとんでもない過ちをしてしまった。あんな状況の中でも町を、住民を守ってくれたルイス様に感謝を言いたい』と…」


また耳を疑った俺に感謝を言いたい?


「まぁどういう意図があったか知りませんが建国祭の出来事はここにも知れ渡っております。一部ではそれを信じて批判をする者もいますが、ラージュの人間は皆、ルイス殿に命を助けてもらったと口を揃えて言っております。ルイス殿が朝早くに避難させてくれなければどれだけ死者が出たかわからない、さらにクラウスの圧政には苦しんでいたようで領主を変えてくれたお陰で未来に希望が持てているようですぞ」


嘘だろ?俺に感謝をしているだと?

ヘルマンの言葉を未だ信じられず物資を運んでいる人達を遠くから眺めた。


「ふむ…」驚いているルイスの意味を察したヘルマンはそのまま近くにいる住民に向かって大声で叫んだ「ルイス殿が見にいらしたぞー!!」



「なっ!?」その声に慌てるルイス。一瞬逃げようかと思ったが荷物を置いて走ってくる人達を見て覚悟を決め歯をくいしばるルイス。


「ルイス様、ありがとうございます!」

「この方がルイス様で?」

「ルイス様のお陰で家族全員元気ですわ」

「うちは食堂をやっているんだが一度食べに来ておくれよ!」



あっという間に住民に囲まれるルイス。しかし袋叩きどころか全員が感謝を述べている。ルイスは唖然としてヘルマンを見ると口髭をさすりながらニヤニヤと笑っている。


良いのか?俺がこんな簡単に許されて?


「ルイス様疲れとるか?さっきから一言も喋らんて?」

「いやいや無口なお方なんよ!」

「そうそう、いつまでラージュにおるんかの?改めてお礼をせんとな」


住民たちの反応を見て安心すると同時に言わねばならいいことがある。ルイスはざわつく人集りに向かって突然頭を下げた「みんな、すまなかった!!」


突然の謝罪に面を食らう住民達

「いやなんのことかね?」

「ああ、俺らはお礼を言ってるに…」


「俺は、いやおれが不甲斐ないばかりに町を戦場にしてしまい皆に苦労をさせてしまった…」頭を下げたまま謝罪を述べるルイス。すでに王族ではないという噂は知れ渡っているが数日前まではこの国の第三王子であった、そんな人間がこうも簡単に頭を下げることに誰もが驚いていた。

そもそもラージュの人間達はクラウスのような貴族しか知らないからなおさらだった。それが逆に衝撃的であり、住民達を困惑させている。


「頭をお上げくださいルイス殿」どうして良いかわからない住民達を見かねてヘルマンが近寄る。


「……」その言葉でやっと顔を上げるルイス、しかし恐る恐る住民の顔を伺いながらだ。

本当におれは恨まれていないのか?


「ルイス殿はいつまでラージュに?」未だに信じられないと言った感じのルイスにヘルマンが問いかける。


「…あ、その…できればこのラージュに住みたいと思ってここまで来た」


「ほほう…」目を丸くし口髭をさすりながら驚くヘルマン。


住民達を見ると同じように目を丸くしている。

「そいつぁめでたい!」

「ああ、何にもない町だけど大歓迎だよ!」

「ラージュを救ってくれた英雄様じゃ!」







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