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酒場のエリサ  作者: smile
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建国祭前日



明日ラージュに帰る。予定より一週間ほど早く建国祭の始まる前日にバリエを発つ事になった。

急な決定にもかかわらず出立が早まったことに対して疑問や不満を言う者は誰もいなかった、そして皆が無言で帰り支度を黙々と進めている。


そんな中でもラウラはいつものようにエリサのもとを訪れていた。明日からの建国祭は警備で忙しいためルイスの側を離れることはできない、エリサに別れの挨拶とハーブティーの飲み納めをしに来たのだ。

それともう一つ、エリサの気持ちの真意を確かめるためでもある。


とはいえラウラの会話は基本的に直球だ、巧みな会話術がある訳でもないし表情から気持ちを読み取る透察力がある訳でもない。もちろんそんな事をする気もない。「ズッ」と小さな音をたててハーブティーをすするラウラ「ところでエリサさん、あの手紙は本気ですか?」


エリサはラウラが訪れた時点で聞かれる覚悟はできていた、そのためラウラの質問に驚く訳でもなく、落ち着いた雰囲気でしばらく思案した。しかしラウラには助けてもらってばかりだったため、申し訳ない気持ちがあり視線はラウラの方に向けることができずに逸らしたまま「うん」と小さく頷く。


「で?それでいいんですか?その程度の想いだったのですね?」


ラウラの容赦ない直球には少し困ったように苦笑するエリサ。

「はは、ラウラさんは厳しいな……こういうところはやっぱり年上なんだね……」


ラウラは何も答えずエリサを鋭く見つめる。その視線にはさすがに困った顔をするエリサ。

「………本当はさよならなんて言いたくなかったよ…またねって笑顔でラージュに戻れたら一番良かったと思う…」

「でもね、私……もうツライんだ、会えないのもそうだけどルイスが苦しんでいるところも見たくない…ルイスのことは大好きだけど料理も大好き。ルイスの側に居たいと思うけどラージュに戻って酒場も再開したい…私って矛盾した事ばかり願っていて……でも…どちらかにしないといけなくて…」


「そんな逃げるようにラージュに戻らなくても両方叶えればいいじゃないですか!」ハーブティーをすすりながら淡々と答えるラウラ。


「そんなこと無理だよ…」矛盾した事を願っていることは十分理解しているためすぐに小さくかぶりを振るエリサ。


「そうですか?でもこの先チャンスがあれば逃げないでくださいね!平和の女神もこれじゃ何もできないわ」


「私は…なんの力も持っていないわよ…私は漁師の娘で酒場の女主人」


「ええ、わかってる。…でも、色々な意味でがっかりしたわ」


「うん…ごめん…」

そう、バリエに来て一番お世話になったのはラウラさんだ。何より一生懸命私をかばってくれた…

エリサはそのことを思うと『ごめん』という言葉以外何も出てこなかった…


「でも、そんな中途半端な事をしていたら、このさき後悔ばかりですよ!」


「……」後悔という言葉はエリサの胸に痛く突き刺さった。しかしバリエに来てから様々な事が起きていたエリサにとってめまぐるしく変化する毎日についていけなくなっていた事は事実だ。

燃えるような恋がかなったかと思えば身に覚えのない言いがかりのような理由で城に監禁されたり、今はゆっくりと落ち着いた生活がしたいと無意識に願っていたのかもしれない。

ラウラもエリサがラージュに帰りたがっている事は理解できたらしくこれ以上は深く聞く事はなかった。そしていつものように城へ戻って行った。







ラウラが帰ってからはまた荷造りを始める。ただ帰りの人数は少なく半分以下だという。一緒に来た騎士達は皆バリエの人間であったため妻や子のいる人達は従来の職務に戻り、独り身であったり自由の効く騎士達はラージュの復興のために戻るのだ。


こうやって仲間同士で離れ離れになることはよくあるらしく皆淡々と、そして当たり前のように準備を進めていた。


エリサとエレナもバリエでの生活はもう十分だと言わんばかりにそそくさと荷造りを始めていた。


エレナは滞在中に増えた荷物やお土産を綺麗に整えている。不器用だが几帳面なところは相変わらずだ「エリサさんは戻ったらディベスへ行くんですか?」


「ええ、今は住むところもないからカルラおばさんさんの家に居候しているの。でもすぐにラージュへ戻るつもりよ酒場を再開したいし…」


「そうかぁ…しばらく会えなくなるんですね…」かなり寂しそうな顔をするエレナ。


「ええ、でも…きっとすぐに会えるわ、ラージュに戻ったらエレナちゃんのところへすぐに顔を出すから」




コンコン…と荷造りをしているエリサ達の部屋へドアを叩く音がする。


「?…はい…」今まで部屋へ来る人などいなかったため顔を見合わせ不思議な顔をしながら返事をするエリサ。


「あ、忙しいところすいません、バルサです」領主らしからぬ低姿勢な言葉に慌てる2人、そしてエレナが急いでドアを開けると 申し訳なさそうにバルサが立っている「すいません、部屋にまで来てしまって…」なぜこんなに低姿勢なのかわからないが、それが逆にエレナを恐縮させている。


「あの…どうしたんでしょうか?」エリサが不思議そうに尋ねる


「ええ、明日出立する予定でしたが大切な用事が入ってしまいまして…その…もう少し滞在したいのですが…」


なぜ自分に伺いたてるのか違和感を感じるがダメという権限はエリサには無い。不思議に思いながらもすぐに承諾した「はい、わかりました。ではもうしばらく滞在するための準備をしておきます」


「ありがとうございます。それと明日はエリサさんにもご一緒していただきたいのですが…」


「っぇ??…私…ですか?」


「はい、見せたいものがありまして…」


なんとなく理解できた、明日の用事は私に関係があるのか…だからこの低姿勢…それでも私にに断る権限などない。エリサは不安を感じながらも事務的な返事を返した「はい、わかりました…」


「ありがとうございます、では明日の午後は空けておいてください」


最後まで低姿勢なバルサを不思議に思ったが何か面倒な事でないことを祈るばかりだ…









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