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酒場のエリサ  作者: smile
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変化

建国祭の日が近づくにつれ、グライアス国がファルネシオ国の国境近くにまで兵を進めているという連絡が後を絶たない。国境近くの領主からは緊迫した状況の報告が連日送られていた。


そんな状況は武勲をたて成り上がりを木柵している貴族達を煽るようでもあり「建国祭を中止し戦争の準備を!」と息を巻く幾人かの下級貴族が出てきている。


しかし、すでに政務を預かっているレミは「いざという時のために警備は強化する、ただしグライアスを挑発しないよう国境から離れた砦で待機」と気弱で遅手に見える対応には賛否が分かれた。それは憤慨する貴族と冷静な趣で話を聞いている貴族とで意見が対立させることにもなっていた。


そんな話はルイスの元へも素早く報告されていた。グライアスと戦争となればルイスが戦地へ赴く可能性が高い、次々と起こる緊迫した状況変化にルイスの苛立ちと焦りは隠しようが無かった。




一方、エリサは何かを忘れるように一日中働いていた。

一見以前と変わらない毎日。朝早くに起きて朝食を作り、洗濯や掃除をすると昼食の準備をする。午後には買い物へ出かけ夕食を作る。

そして次の日の仕込みを終えると早々に眠りにつく。


少し変わったことといえばエレナがよく話をするようになったことだ。今までは真面目で大人しい雰囲気であったが最近はもっぱらエレナが一人で話をしている。エリサはそれを笑顔で聞き、楽しそうに相槌を打ったり、笑ったりしているが自分から話す事はほとんど無かった。


どこか以前と違う違和感を誰もが感じながらも毎日が当たり前のように過ぎて行く。


何も進展がないまま…


しかし街は建国祭ムード一色に染まり、買い物へ出るといつもより賑やかな街の雑踏はエリサの心に開いた穴を広げるように突き抜けて行く。


「エリサさん?」買い物をしていてもどこか上の空なエリサに気がつき声をかけるエレナ。


「ん?あ…なんだか…賑やか…だね…」皆が笑顔の中、エリサだけが乾いた笑みを見せる。


「ええ!もう直ぐ建国祭ですからね。建国祭のときはラージュも賑やかでしたけどやっぱりバリエは比べ物にならないです。そうそう、毎年建国祭のときはお父さんがミートパイを作ってくれるんですよ」


「ミートパイ?」建国祭となんのつながりもない料理なので不思議な顔をするエリサ。


そんなことは御構い無しにエレナは笑顔で「はい!」と答える「なんででしょうね?我が家では当たり前でしたので気にしたことは無かったのですが子供の時はミートパイが食べたくて建国祭が近くなるとワクワクしてとても待ち遠しかったんです」


「へぇ…面白いわね。作って見ようか?ミートパイ!」


「本当ですか?」


「ええ、お父さんの味に近づけるかわからないけど」


「ううん、エリサさんの味で作りたいです」


「うん、じゃぁ材料を買いに行こうか!?」



………………


何かに集中していると気が紛れるし、エレナちゃんと料理を作っているとやっぱり楽しい



きっとこうしているうちにこの悲しい気持ちにも慣れてくるのだろう…



それにバリエの滞在予定はあと少しだ…





このままでいいのかな…





笑顔で楽しそうに買い物をするエレナをぼんやりと見やりながらこの中途半端な気持ちと状況のままでいることに違和感を感じるエリサ。




やっぱりこのままじゃダメだ…はっきりとさせないと……







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