ラウラとアンネ
ルイスへ
今日も変わり無いですか?私は以前と変わらず毎日料理を作っています。エレナちゃんは時々失敗をするけれど、すっかり手際が良くなって私の仕事が減ってしまい嬉しい反面少し物足りないです。
なんて贅沢なことを最近は思ってしまいます。
でも…
……もう何日会えていないかな?私が居る屋敷の庭からは大きなお城がよく見えます、こんなに近くに居るのに本当にもう会えないのかな?とても辛いです。
会いたい…ルイスに会いたい。
声が聞きたいです…
エリサ
…………◇◇……………
「……」無言のまま読んだ手紙を引き出しにしまうルイス。不安やどうにもできないもどかしさから苛立ちにも似た吐息を無意識につく。
その手紙をいつも持ってきてくれるラウラは壁にもたれながら、そんなルイスをつまらなそうに見つめていた。
「ありがとう、ラウラ。いつもすまないな…」
不意に投げかけられたそんな言葉。いつもは何も言わないため少し驚く「あれ〜?珍しいですねぇ…この程度の仕事でお礼を言うなんて」
「うん?あぁ、そうか?」自分でも無意識に礼を言っていたためルイス自身も不思議な顔を見せた「でも、色々含めてだ…エリサが城にいるときお前が一緒というだけでも安心できた、ありがとう」
「どう致しまして…それに郵便屋さんですから」珍しく真面目にそして照れもせず礼を言うルイスに拍子抜けするラウラ。いつもなら恥ずかしそうにしたりぶっきら棒に言う、そこが面白いのだ。
「ところで、どうしてそこまでエリサのために動いたんだ?」
その質問には思案するラウラ。聞かれて当然と思いつつも聞かれたくは無かった…ただルイスに嘘をつく気はない。
「…ルイス様の護衛の任務を放たからしにしたことは申し訳ありません。ただルイス様の大切な人を守るのもその任務の内かと思いまして…」
その場で頭を下げるラウラ「それと本当にエルなのか気になったのと……」ここで言葉に詰まり少し恥ずかしそうになる「あ…アンネさんと約束したから…」
聞き覚えのある名に怪訝な顔をするルイス。アンネという名前は珍しくはない、ただルイスの知っている範囲でアンネといったら一人しか知らない「アンネさんってあのアンネさんか?」
「はい…あのアンネさんです…」
………◇◇………
ディベスで意気投合したラウラとアンネ。
「はい、どうぞ〜」ラウラの前に差し出されるハーブティー。その香りの良さに思わず前のめりになる。
「うん、いただきます…」両手でカップを持ち、ズッと静かな音を立ててそれを飲むラウラ「…おいしい…なんだか昔を思い出すわ…」一口飲むとラウラは目を細め少し寂しそうな表情を浮かべた。
…それに気がついたアンネはその昔を尋ねようとしたが、何か聞いてはいけない気がして自分の口にハーブティーのカップを運んだ「ここの庭先で摘んだハーブよ、今の時期はレモングラスがたくさん採れるの」
「…うん、好きな味です」さっきまでルイスとエリサを楽しそうにからかっていたテンションとは正反対に、静かでそして儚げに微笑むラウラ。
そんなラウラを見て話題を変えようと思うアンネ「よかった、でもあの二人どうなるのかしらね〜」
「二人ともハッキリすれば良いんですよ!お互いに惹かれあってるのはあからさまじゃないですか。身分なんて関係ない、好き合っているなら一緒にならないとダメです!!」
ラウラはその後、一瞬だけ少し哀しそうな瞳を見せた。その昔と何か関係があるのかもと思ったがここまでハッキリと言い切るラウラには驚いてしまったアンネ。仮にもルイスの、この国の第三王子の側近という立場である人間の言葉にしては軽率だ、でも…とても人間味のある言葉に聞こえる。
…もっと悩むような曖昧な答えが返ってくると思ったから尚更そう思うのかもしれない。しかしそれが逆にこの人は信用しても良いかもしれないと思わせる言葉だ。
「あの…ラウラさん?」
「はい」
「ひとつ、お願いをしても良いかしら?」
「良いですよ、美味しいハーブティーを頂いたお礼はします」
「もし…この先、何年先になるかわからないけど…もしも…エリサちゃんがルイス様のところに行くような事があったらエリサちゃんを守ってあげて欲しいの…あの子はラージュ以外何も知らない。
しかも若い多感な時期を酒場の経営という過酷な世界を一人で生きてきた…本当に何も知らない女の子なの…」
「……」しばらく考えるラウラ。ハーブティーをすすりながら遠くを見つめ思案しているが何か別の事を考えているようにも伺える「良いですよ」そのまま遠くを見つめながら返事をするラウラ
「本当に!?」まさかと思い喜ぶアンネ
「でもそれにはハーブティー1杯じゃ釣り合いがとれないわ……私のお願いも聞いてくれるかしら?」ラウラは少し恥ずかしそうにアンネの顔を伺う。
…………◇◇……
「アンネさんがそんなことを…」まさかの約束だった、アンネさんがそこまで先読みしていたことに驚くが、それ以前にラウラがそんなお願いを引き受けたこと自体、信じがたいことだった「いや、それよりお前のお願いって何を?何かとんでもないことを言ったんじゃないだろうな?」
「くふふ…ヒ・ミ・ツ・です!」ラウラは珍しく恥ずかしそうに微笑むと、それ以上は聞かないでというように部屋を出て行った。