Episode02~浅倉 玄斗と世界の実情~
――また、懐かしいモノを視たな。
転生して、人生 早16年――
【ケルベロス】いや【浅倉 玄斗】は現在、高等部の進級した2ーE教室の自分の机で伏せ寝をしていた。
『おい、浅倉ッ!! 浅倉 玄斗
初日から、ふて寝とは 教師に対する嫌がらせか?』
「………いえ、違います。
高等部2年の担任は女性教師だと思っていたので、がっかりで寝てました」
‘のそり’といった具合で玄斗は体を起こした。
その顔は『黙っていれば、クールで知的なメガネ男子』なのだが、【ケルベロス】であった頃の名残なのか、やや傲慢な態度が出てしまう。
『『『アハハ、アハハ』』』
結果、クラスに笑いの爆弾をポイした。
担任であるゴリマッチョな男性教師は、何とも言えないダメージを負いながらも生徒に自己紹介の続きをさせ、LHRを終わらせた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
放課後と言っても、今日は新学期の始業式なので半ドンである。
すでに他の生徒は部活動に行ったり下校したりで…
教室には、わずかばかりの生徒しか残っていなかった。
「いやぁ~玄斗くん、マジ最高ォー!」
そう言って、玄斗に近づいてきたのは保育園の頃からの【腐れ縁】である【武蔵・ブルーフィールド】
名前の通り、武蔵は日本人の父にイギリス人の母のハーフで母譲りの美形、つまり金髪青眼のイケメンである。
「うるせぇ、そっちこそ昨日の【G-C-O】大活躍だったらしいな。」
「なに、誉めてくれるの?」
「嫌みだよ、嫌み!」
2ヶ月前に稼働したばかりのVRMMO【God.Connect.Online】で先日、【PvP】トーナメントのイベントが行われ、そこにいる武蔵の活躍がネットのスレに上がっていた。
なんでも、日本の攻略プレイヤーでも十指に入る強さとかなんとか………
諸事情で【G-C-O】が出来ない玄斗にはストレスがマッハで貯まる。
武蔵に“ワンワン”嫌みを言う玄斗の所に また別の生徒が近寄ってきた。
「玄斗、武蔵…… 何、話してるの?」
そこに1人の女子生徒が2人に近づいてきた。
「おっ? 『保村』さんや、帰るところか。
――んで何、話してるっかて…【G.C.O】だよ」
帰るのか、カバンを携えた彼女… 保村 火乃さん。
彼女とは 中学からの知り合いである。
「……あぁ、昨日の【PvPトーメント】凄かった、ね。
特に準決勝……」
“こてん”と首をかしげながら、話す彼女に合わせ その赤い髪が揺れる。
彼女は『隔世遺伝』のため、日本人だが日本人離れした美女である。
「おや、保村さんも【G.C.O】やってるんだ?
――いやぁ、美女に褒められると嬉しいね」
「……まぁ、ぼちぼち」
(クッ…… 羨ましい)
保村さん も【G.C.O】プレイヤーか……
いや、クラスの9割が【G.C.O】プレイヤーらしい…自己紹介の時に わかった事だが。
「くっそぅー、クラスで【G.C.O】やってないの。
オレだけじゃないか!」
玄斗は項垂れるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
【G.C.O】……【God.Connect.Online】の略で文字通り『神と繋がる物語』をテーマにしたVRMMOで
発売 1週間で国内100万本の売り上げ、現在は全世界で約1000万本近くになる。
現在、日本サーバーのプレイヤー数は130万人
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(まぁ、『開発』『販売』『運営』に【神】が関わっているからな。
売れない訳がないよな)
玄斗は内心、ため息をつくと…保村が玄斗の方をジーッとにらんでいた。
「な、なんだよ」
「いや…なんとなく、玄斗の所に【アレ】が 届きそうな気がしただけ。
ボソッ…(まぁ、実のところ 天ちゃん…… 天照が言ってた、今日には届けるって言ってたっけ?)」
目の前の保村 火乃は『神様』に遣える巫女が、予知めいた事を言った。
あと、小声で 何か呟いていたが―― まぁ、いいや。
それはそうと話は変わるが、この世界には『神』は顕現し、実在している。
――――――――――――――――――――
刻は玄斗が生まれる十数年前…… 世界は未曾有の危機にあった。
地球に巨大隕石が接近していたのだ。
ただの隕石衝突なら、神々も人間に任せて、静観を決め込んだだろう。
しかし、その巨大隕石は ある愚かな【預言者】が 自身の預言が“正しかったと解らせるために”有言実行で悪魔契約を用いて来るべき日に落とされたのだ。
ただ、件の隕石が地球消失する規模の大きさであった。
この事態に神々は静観ではなく隕石を消滅させるのと今回の主犯たる悪魔【ダーレガ・ツンデ・レズキーカ】の討伐に動く。
地上には《ヴァルハラの神【トール】》、《国津神【スサノオ】》などが降臨し、世界が神の降臨に騒然するなか、瞬く間に隕石を消滅、悪魔【ダーレガ・ツンデ・レズキーカ】も【ヴァルハラの主神】に討ち取られた。
この出来事をきっかけに【神】は人間に その存在が認知された。
人々は【神】に救い、秩序を求めるが、【神】は『人の世に介入しない静観する』の一本通しであった。
しかし、一部 神々は人の世に介入する。
そう、【邪神】と呼ばれる存在がサブカルチャー文化を侵略したのだ。
――――――――――――――――――――
「…『199X年 神、顕現』に『邪神サブカルクラッシュ』……」
「そ、そうそう それそれ!」
「しかし、保村さん。
玄斗に答えさせなくて 良かったのかい?
玄斗が アホの子だと再確認できて、まぁ僕的には有難いけど。
それより、玄斗の所に【アレ】が届くんだよね」
「おい、どういう意味だ、ゴラァ?」
「…ん、多分……ね?」
((あっ……これ、ダメなヤツだ))
玄斗と武蔵は、あからさまに視線を反らした保村に不安を覚える。
「まぁ、何はともあれ …オレも今日から【G.C.O】プレイヤーになるかもしれないんだ。
待ち遠しいぜ!」
玄斗は右手の拳を左手の掌で打ち付けた。