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ダンジョン運営記  作者: レベル
32/39

樹海からの厄災③

伯爵と重臣達は城壁の物見櫓からの眺めに絶句した。



「…これは…教会の謂う地獄…地獄の門が開いたのか?」



「閣下。

御気を確かに!

些か数が多いですが、所詮ゴブリンですぞ!」



狼狽(うろた)える伯爵を叱咤激励する野太い声が、櫓の中に響き渡る。



「弓射手を城壁の上に集めよ!

一般兵には、槍を持たせ城壁上の防衛!

各城門には、騎馬兵と重装歩兵で侵入に備えて待機!

状況に因っては討って出るぞ!

城内警備兵は、城壁上に鍋や釜、ありったけを集めさせろ!

女子供に老人を除く領民には、水と油、薪に炭、それから石、煉瓦、木材を城壁の上に運ばせろ!」



矢継ぎ早に配下の騎士に指示を出す男に、櫓中の耳目が集まった。



「さてと、重臣の御歴々に御願いしたき旨が…」



「な、何ですかな?エヴァンス卿。」



「緊急を要するとはいえ、職務権限以上の命令を独断で命じてしまいました。

徴収した資材や賦役(ふえき)に駆り出した領民には、公金から適正な対価を出して頂けませんでしょうか?」



「エ、エヴァンス卿!

未だ目前の脅威が取り払われて居らぬと云うに、事後の金子の話しですか?」



「そりゃそーですよ、筆頭政務官殿。

領民に恨まれたく有りませんからね、恨まれ嫌われたりしたら、おちおち酒場にも行けなく成りますからね。

脅威と言いますがね、ゴブリンですよ

ゴ・ブ・リ・ン・

数が多いだけですよ。」



「あっはっはっ。

エヴァンス卿の申す通りじゃ。

領民に嫌われた貴族など考えただけで寒気がするわ。

領民には適正な対価を約束しよう。」



「閣下の御心使い感謝致します。」



「して、エヴァンス卿。籠城では近隣の町や村に被害が拡がらんか?」



「奴等は飢えている様ですから、兵への炊き出しに焼き肉でもして城に惹き付けましょう。

匂いで惹き付けて置けば大丈夫だと思います。

惹き付けて数を削りつつ、遠征中の辺境軍を呼び戻して挟撃で終わりだと思います。

大樹海からの進路途中は絶望的ですが、他所に移動しようとするなら突撃して蹴散らすだけです。」



「討って出るとなれば、兵に被害が多く出るのでは無いか?」



「魔物としては下位の弱いゴブリンです。

重装歩兵と重装備騎馬兵なら十分対応可能かと思います。」



「ならば良し。

騎士団団長エヴァンス、オルター城籠城戦並びに辺境軍との挟撃作戦の全指揮権を与える。

筆頭政務官を始めとした文官は、エヴァンス卿の補助に務めよ。」



こうして陽が高く昇る前に、人間側の準備が整えられる事と成った。



眼下に広がる無数のゴブリン。


大地を覆い尽くすばかりの濃緑の群。


耳を塞ぎたく成る様な、雄叫び、悲鳴、奇声。



「団長ー。

すげぇ数ですねぇー。」



「数が多いだけ在って、亜種も多いな。

城壁を駆け登って来る亜種に、注意して迎撃する様に弓射手と槍隊に命じろ。」



「団長、了解ッす。」



「投石準備!


投石開始!」



エヴァンスの号令で旗が振られ、東西南北全ての城壁上から投石が始まった。



「うぉぉー」「たぁーっ」「しねぇー」



小さい物は、拳大の石や割れた煉瓦。大きな物は頭大の石が15m近い高さの城壁から力任せに投げ落とされた。



狙いを定めて投げ落としていないが、(ひし)めくゴブリン達に面白い様に命中した。



脳天に当たり、眼、耳、鼻、口、あらゆる穴から血液や体液を撒き散らし膝を折る者。


顔面を陥没させ、眼玉が飛び出し仰向けに倒れる者。


肩や腕などの骨を砕かれ、のたうち回る者。


容赦無くゴブリンの頭上へと、雨の如く降り注いだ。



「投石辞めー!


熱湯に油用意ー!


注げー!」



またも、エヴァンスの掛け声に合わせて旗が振られた。



鍋や釜から煮えたぎる水や油が、撒き散らされた。



肉の焼ける音。


立ち込める水蒸気。


悲鳴。


水と油が弾け合う爆発音。


肉が煮え、(ただ)れ、焦げ、血臭と混ざり異臭として漂う。



正に阿鼻叫喚の地獄絵図だったが、目を覆いたく為る惨状は直後に起こった。



血臭か油で煮えた肉の匂いだろうか?


城壁から離れて居たゴブリン達の食欲を酷く刺激したのだろう。


共食いが始まった。



同族同士、ともすれば血縁や近親も居たかも知れない。



初めは死んだ者、弱って死が見えている者だけが襲われ、貪り喰われた。



肉の奪い合い。


殴り合い。


噛み付き。


噛み千切る。


喰らい。


食われ。


共食い。


正に地獄絵図。



城壁上の兵達は、唖然とその光景を眺めて居た。



「ゴブリン共め!

幾ら飢えてるからと謂え、狂ってやがる。」



哀れみを向ける者。


嘔吐し、(うずくま)る者。


畏怖し、固まる者。


嫌悪し、目を背ける者。



オルター城を囲んだ数万のゴブリン達は、一種の恐慌状態に(おちい)り、極度の飢餓感から共食いと謂う狂乱に群全体が染まっていった。



「団長ー。

このまま自滅ですかねぇ?」



「群として統率も何も無かったな。

暫くは様子を見て、頃合いを見て討って出るぞ。」



「重装歩兵や騎馬兵で殲滅戦ですね。」



「ああ、まともに動ける奴が、どれだけ残るか判らんがな。」



これだけの数を埋めるか?


土壌が汚染されて、農作物に影響が出ても不味いな。


放って置けば、疫病が発生するかも知れんな。


燃やすしか無いか?


薪や炭がどれだけ必要に成るやら…


政務官達には予算捻出に、骨を折って貰うか。



それより何故これだけのゴブリンが湧いたのだ?


大樹海に何かしら異変が起きたのか?


一度大樹海を調査せんと不味いだろうな。



ゴブリン異常発生に収束への道筋が見え、エヴァンスは事後処理と原因究明に思いを馳せていた。




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