始動③
ジャリッ
「まずは、魔力結晶を用意するか。」
左の手のひらで米粒大の、数十の魔力結晶を手にマスターは呟いた。
「どうすりゃデカク成るんだ?魔力ってのは、様はエネルギーだよな?んで、魔力の元になる魔素が、空中やら色々な所に在る。と、……」
魔素は、魔力の元で目に見えない。魔力は集まり、結晶化する。状態が変化する物理法則が在るんじゃ無かろうか?
水に例えると、拡散して空中に霧散する蒸気が、魔素。
蒸気や湿気が集まった水が、魔力。
水が凍った氷が、魔力結晶。
水は、温度や気圧で 状態が変化する。なら、魔力は何で変化される?
俺、否ダンジョンマスターが操れるなら、ゴブリンだからと謂う種属とかが理由じゃ無い筈だ。
ある程度の知能が在る魔物なら、ダンジョンマスターに成れる可能性が在る。
ダンジョンマスターの必須条件は、魔物で知能在る存在。
生き物全てを糧(魔素と魔力)に、ダンジョンを成長させ、駆使し、人間を滅ぼす事を本能に刻み込んだ存在。
逆を謂えば、糧となる魔力や魔素を扱える知能在る魔物しか、ダンジョンマスターに成れないって事だよな?
魔力や魔素を扱える知能在る魔物、これも、知能在る魔物だから、魔力や魔素を扱えるんじゃ無いのか?
知能は、ゴブリン程度でも大丈夫なんだろうか?この世界と違う、知識の記憶を持つ俺だから大丈夫か?
実際に、コアを介在して魔力を使ってるんだよな?実感が無いだけで、既に使えてる。
知能、思考、言葉、……
俺がしたのは、考え、理解し、イメージし、言葉にしてコアに命令した。
俺は、仮説を考え、魔力を水に例えてイメージした。
後は、言葉にして意志を魔力に伝えたら、コアを使った時と流れは一緒じゃね?
手の中の魔力結晶に意識を向け、小さな氷を水で包み、周りの氷との結合をイメージする。
水は手のひらから、滲み出た汗をイメージした。
汗は、生き物なら必ず細胞に蓄える水分が、変質した物。魔力も必ず生物は体内に持つ、汗の様に滲み出す魔力をイメージする。
イメージする。
強くイメージする。
更に、強く、強く、強く、強くイメージする。
左手から何かが、滲み出る感覚を、不意に感じた。
集中して意識を向け、初めて気付ける微かな感覚。
汗とは違う何かだ。
確実に存在する何か。
「魔力か?」
呟き口に出す事で、疑念は確信に変わる。
確信するや否や、身体中を魔力が満たして居るのが、当たり前の様に感じられた。
念じる様に、手のひらから出す事をイメージする。
握り締めた拳の中で、魔力結晶を浸す様に、魔力が滲み出す。
幾つかの氷片が入ったコップに、ゆっくり水を注いで満たすイメージだ。
拳の中に、魔力が充満していく。
魔力結晶を包んだ魔力に、水が凍るイメージを強く念じた。
魔力結晶が、俺の魔力を触媒に結合し始めた。
暫くすると、魔力結晶が安定したのが、感覚的に感じられた。
ゆっくりと、拳を開いてみると、ピンポン玉程の真ん丸な魔力結晶が出来ていた。
「ドングリに比べ、多少大きいが、"大は小を兼ねる"って謂うし、大丈夫だろう。
始めてにしちゃあ、上出来だ。」
「じゃあ次は、ボディだ。湿地に転移!」
泥まみれになりながら、湿地の泥を1時間余り、捏ね回し魔力を加えながら、泥人形を創った。
全長約2m、重量約100Kg。
「ボディは、こんなもんだな。次は魔力結晶に言霊を刻むんだったな。」
『ゴギト・エルゴ・スム』
これが古代ヘブライ語でソロモンが使ったって謂われる言霊だ。
『在って在る者』とかって意味だ。
後世でデカルトって学者が、『コギト・エルゴ・スム』、『我思う故に、我在り』って解釈したんだよな。
翻訳で意味が、すり替わった例だな。
似て非なる、全く別物の意味なんだがなぁ。
まぁ、どうでも良いけどな。
取り出した魔力結晶を、左手の人差し指と親指で摘まみ上げ、視線と共に言霊を念じ、意識を結晶に向けた。
結晶の中に文字が、浮かび上がって行く。
この世界には、存在しない筈の文字。
マスターには、慣れ親しんだ文字。
カタカナと呼ばれる文字だが、マスターには名称の記憶が抜け落ちていたが、気付か無かった。
「言霊が浮かんだから、完成かな?後はボディに埋め込んだら、終わりかな?」
仰向けに寝かせた泥人形の、頭部の真ん中に結晶を埋め込んだ。
ゆっくりと起き上がる泥人形。
マスターに向き直り、方膝を付き頭を垂れ、挨拶をする様な仕草をした。
「俺が、お前の創造者だ。ここの湿地の泥を使い、お前に似せた泥人形を"止めろ"と謂う迄創れ!」
理解したのか、泥人形は頷いた。
「コアルームに戻るか。その前に、身体と服の泥を落とさんと如何な。」
次回投稿は週末土曜日予定です




