始動
俺は今マスターの命を承けて、野生ゴブリンの巣に、何体かの眷族を率いて向かっている。
(ロデム、風上から巣に向かっているぞ。まだ気付かれて無い様だが注意しろ)
(南海、了解した)
「空からゴブリンの巣が確認出来た様だ。風上から向かう形だから、直に気付かれる。気を付けて行くぞ。」
キメラスライムは新たに得た記憶の中から、群れのボスについて考えていた。
通常のゴブリンに比べ、頭1つ大きく、力強く、冷酷、強欲、狡猾だった。
群れのゴブリンは全てボスの親族だ。
唯一の雌ゴブリンは実の兄妹、雌ゴブリンが産んだ全ての父親、狼を始めとした雌の動物との間に生まれた亜種全ての父親だ。
まず、先代のボスで父親が居た時は、数知れ無い息子の1人に過ぎ無かった現ボス。
他の兄弟、異母兄弟の中で、1番若く、小さく、脆弱、臆病だった。
ゴブリンは、雄を中心とした1夫多妻の家族が寄り集まり、群れを形成するのが通常だ。
1家族5~20程度で3~10家族を超える事は、まず無い。
群れの総数が100近く成れば、餌不足により若いゴブリンは巣立ちするか、他の魔物や肉食獣の格好の餌に成り下がる。
餌と成る動物等が多ければ増え、増えれば飢えて減るか他に喰われて減る。
食物連鎖と謂う名の自然の摂理。
しかし先代のボスが、その摂理を崩す切っ掛けを現ボスに与えてしまった。
他の家族は元より、実の兄弟からも苛められ、与えた餌すら横取りされる息子に強く生き抜く為にと、名を与えてしまった。
若く脆弱だった身体に、成体ゴブリンに負けず劣ら無い力がいきなり備わった。
事件は、偶々捕まえた野鼠を、兄弟否、群れでもボスに次いで力強い長兄に横取りされ掛けた時に起こった。
予期せぬ力強い抵抗に、地に倒れた長兄、運悪く大きな岩に後頭部を強かに打ち付けて絶命した。
偶然とは謂え、強者の命を奪った弱者は、得も言われぬ快楽に震えた。
弱肉強食、若いゴブリンの頂点に起ち餌を独占した。
恵まれた食事に寄り、ボスを凌駕する力を持つ身体を得る。
狡猾にも力を得る迄ひたすら待った。ずば抜けた力を得たと確信するや否や、寝込みを襲い殺戮を始めた。
ボスである父親を手始めに、悉く殺して廻った。
唯一妹だけは殺さ無かった。
蔑む目を向けた事が無かったからだ。
死体に集まる動物を喰らい、交わり、産み、増やし、群れを成した。
息子だったゴブリンの記憶、妹であった母親から聴いた記憶を伝えた後のマスターの一言。
『名持ちにしては知恵足らずだなぁ。
所詮はゴブリン、数の力さえ判らんのかもな』そう言い放ち笑うマスターは、思い出しても恐ろしい顔をしていた。
マスターに従い命令を熟すだけだ。邪魔する者は全て滅ぼす。
(ロデム、
匂いに気付いた様だ。3体向かったぞ)
(判った)
「来るぞ。」
暫くすると、前方の樹の陰から1体、左右の茂みからもそれぞれにゴブリンが現れた。
俺とミミックスライムの匂いを警戒したのか?
最悪は俺だけでも、逃げる様に謂われている。
「グギッギッギャッギャ―ッ」
(東からデカイ群れ来た、迎え来た)
「グギャッギャッギッギャッ」
(西の池、餌イッパイ、雌捕まえた、ボス土産)
左右のゴブリンは東に向かって、走って行った。報告に向かったのだろう。
(南海、
他に大きな群れが現れて警戒してた様だ。一応マスターに報告を頼む)
(了解)
「グギャッギャッギッ」
(西の池、敵居たか)
「グギャッグギャッギャッ」
(羆、狼、匂いした、行くぞ)
納得したのか出迎えのゴブリンは、一緒に巣に向かった。
崖の様な斜面に造られた巣穴の周りは、樹がまばらで樹海では珍しく陽射し溢れる場所だった。
広場の様な場所で、座り込みこちらに鋭い視線を送りながら、動物の足らしき物を手にしたボスが居た。
周りには、幼体が数体、腹の大きな雌が、ボスの食事を物欲しげに見ていた。
「西の池の辺りに敵は居そうか?」
「餌イッパイ、敵居る、多分」
ボスは手にしていた足らしき物を雌に与えると、"全員で西の池に行くぞ"と言い放ち土産の雌鹿を抱え、巣穴に消えた。
ボスの姿が見えなくなると、雌は手にした足らしき物を貪り喰い始めた。
この群れでの食事は、ボスが満足して始めて雌が食べ、最後に幼体が食べる。
狩りに出る成体は、土産となる雌を生け捕りか、ボスを満足させる獲物を捕る事が最優先だ。
口に出来るのは、鼠や蛙、虫といった物だけだ。
逆らえば死か、逸れゴブリンとしての苛酷な生涯しか無い。
「ギャ――ァッ」
突然、巣穴から凄まじい叫びが聞こえた。
「おい、雌鹿とボスを連れて来い!」
ゴーストが憑依したビーストゴブリン達が、巣穴に走って行った。
暫くすると、雌鹿とボスを抱えたビーストゴブリン達が戻って来た。
「見ろ!
ボスは死んだ。
今から俺がボスだ。
逆らう奴は殺す!
従う奴には餌をやる!」
打ち合わせ通り、ビーストゴブリン達とミミックスライムは、俺の足元にひれ伏した。
その様子を見て、雌と幼体がひれ伏した。
「好きなだけ、喰って良いぞ。」
四肢を縛ったままの雌鹿を、雌達の目の前に放り投げた。
その場に居た他の成体は、迷っていた。
俺はマスターの命に従い、頭蓋骨を石で割り、中身を掴み出し喰いながら問いかけた。
「お前らも、喰われたいのか?」
全てのゴブリンが、慌てひれ伏した。
(南海、
群れを支配した、用意が出来次第戻る)
(了解、マスターに報告する)
「お前ら、狩り出た奴等を迎えに行け!
獲物は無くても良い。」
ビーストゴブリン達に指示を出し、ボスだった肉塊を貪り喰った。
突発投稿です
次回土曜日投稿予定




