潜入調査④
正騎士の命令で2層目は、他の重装歩兵小隊と入れ替わり後衛に退いた。
2層目は先程の広場の数倍は在る広場だった。
そこには無数の石像が整然と並んでいた。
石像は兵隊を模した物ばかりで、槍や剣、中には大鎚の様な鈍器を持った物までが在った。
ダンジョンマスターのゴブリンが見れば、始皇帝の兵馬俑を思い浮かべた事だろう。
兵馬俑を思い起こす程の夥しい数の石像。兵馬俑と同じ様に、顔形、体格、武器や装備が全て微妙に違うのだ。まるで実在の人間を1体ずつモデルにした様に、1つとして同じ物が無かった。
「石像の陰に魔物が潜んで居るかも知れん、重装歩兵は2人1組で警戒して辺りを調査しろ!」
キュー太郎は、正騎士が出す指示を聞きながら考えていた。
(何を謂ってるんだこの馬鹿?陰も何も石像が魔物じゃないか。動かなければ判らないのか?あの魔物特有の禍々(まがまが)しい魔力が判らない?もしや罠?俺を試しているのか?)
正騎士の名誉の為に解説すると、魔力を感知出来る人間などは極めて稀な存在で在る。
否、魔物でも珍しい。
魔法を使い、魔力操作に長けた者で無ければ魔力感知など普通は無理だ。
しかし、ダンジョン産の魔物は餌として、ある時は消耗した体力や魔力の自動補給をダンジョンコアから常時受けている影響で、意識せずに感覚的に魔力感知出来るのだ。
意識せずに出来る事は、誰にでも出来る事だと当然の様に思うが普通は出来無い。名持ちのゴーストの普通が異常なのだ。
石像が軋み音を出して動き出した。
ギシッ ビキッ ガリッ
あちこちから軋み音が聞こえ始め、重装歩兵が信じられ無いと謂う様子で固まって居た。
ゆっくりと石剣を持つ右腕を持ち上げた石像は、重装歩兵の頭を目掛けて降り下ろす。
バゴッ
兜に石剣が剣幅だけメリ込んだ。優に10cmはメリ込み頭蓋まで一緒に陥没していた。糸の切れた操り人形の様に、重装歩兵はその場に崩れ落ちる。
ガシャッ
崩れ落ちた音を合図にするかの様に、敵索中の重装歩兵を物謂わぬ石像の群れが襲い掛かる。
「ゴ、ゴーレムか?」
(ゴーレムと謂う名の魔物か。やっぱり此奴等は魔物に詳しい。)
ゴーレムに対して重装歩兵も反撃を試みるが、全く効果が無かった。
石を剣や槍で破壊する術が無かった。
剣術や槍操術の奥義と謂われる物の中には、岩を切り裂き、砕く技も在るが秘伝とされている上に習得が極めて難しく重装歩兵が容易く扱える代物では無かった。
仮に扱えても、動く上に数が多過ぎる。
盾と鎧兜が絶命までの時間を僅かに伸ばすだけで、重装歩兵は見る間に数を減らしていった。
「上の階層に総員退避だ。」
(ん?一旦退くのは解るが、どう対応するんだ?追撃されるぞ?)
ゴーストの心配した追撃は無かった。
「安心しろ!ダンジョンの魔物は階層を移動する事は先ず無い。
一応階段は監視する、歩哨にお前達が立て。何か有れば大声で報せろ。」
「「はっ」」
「他の者は暫く休憩とする、交代で装備を解いて良いぞ。」
正騎士は歩兵に歩哨を命じ、休憩を宣言すると正騎士全員が集まり相談を始め、暫くすると1人が外に向かって行った。
(前線基地に報告と対応を相談に行ったか。騎士団団長辺りなら正騎士より詳しい魔物の情報や対応策が在るのだろうか?ダンジョン対策の専門家が居るのか?居るなら居場所や氏名などの情報が欲しいな。幸い団長とは俺もオー次郎も面識が有る。その線から探ってみるか。とりあえずは正騎士に探りを入れてみるかな。)
「少しお聞かせ願いたいのですが、宜しいですか?」
「何が聞きたいのかな?ガスレン小隊長。」
「先程の魔物についてなんですが、…」
「ゴーレムの何が知りたい?」
「あんな石の魔物の事は聞い事が有りません。倒せるのでしょうか?」
「ゴーレムは、此処で倒したサイクプロスやケンタウルスの様な生き物では無いらしい。」
「生き物じゃ無い?でも動いていましたが?」
「自分で動く人形の様な魔物らしい。俺が聞いていたのは、土や砂で身体が出来たゴーレムだったがな。ゴーレムの一種だろうな。
どうやら奴等ゴーレムは、人の心臓の様な核と謂う臓器を壊せば倒せるらしいぞ。」
「核ですか?」
「あぁ、戦鎚なんかで核ごと叩き壊せば大丈夫だ。」
「なら、動きさえ封じ込めれば何とか成りますね。」
「その辺りの相談を今、前線基地にしに行ったからな。直に対応策が齎される心配するな。」
「はい、安心しました。」
暫く後に、前線基地から伝令が来た。
死者や負傷者が想定以上に出たので、後続部隊が到着後に前線基地に帰還せよとの事だった。
下層は後続部隊が攻略するのだが、鉄線を編み込んだ投網で動きを封じ、一体ずつ順に粉砕して行った。
石ゴーレムの数が余りにも多いのと、核の位置が個体によって違う為に丸々2日掛かって階層攻略と成った。
因みに、正騎士が語ったゴーレムについて少し捕捉説明すると、魔力結晶を使った人工生命体が正しい。
ドングリ程の大きさの魔力結晶に言霊を刻み込み、身体となる人形に埋め込めば完成だ。
その言霊は、ゴギト・エルゴ・スム 古の言葉で、在って在る者といった意味が在る。
術者の命令だけに従う愚直な人形だ。
知識と材料さえ揃えれば、人でも産み出す事が可能な人工生命体だ。
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