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4月3週目 クラブイベント①

 意外であったが、あれで多少の改善は見られたらしい。

 ショッキングな出来事があると、そのインパクトが他の思い出を「軽く」するらしいが、今回はそれで上手くいったようだ。

 オルファンは≪エルフ化≫を使い続け、ドラゴンの姿に戻っていない。だが、子供に会うため、外出するようになった。小さかろうが、まずは一歩踏み出せたようだ。


 あと、運営から謝罪が来た。

 ドラゴンに使われているA・AIの規格は運営がノータッチとは言わないけど、お国の作ったベースを基に組んでいるから、調整しきれない部分があるらしい。こちらのプレイログを確認したうえで適切なフォローを約束してくれた。

 これについては気が付かなかったけど、「よくある質問」コーナーでAIのメンタルケア問題の一つとして取り上げられていた。なので、報告すれば対処してもらえたらしい。

 やる内容についてはAIの記憶を変更したり削除などをおこなったりするものではなく、ちょっとした催眠誘導で「子供に会いたいな」と思わせたり「前向きに生きよう」と考えたりさせるようだ。切っ掛け程度にはなるだろう。





 3週目になると、クラブイベントの時期となる。

 そんなわけでクラブエリアに呼び出され、会議のお時間となった。


 正直なところ、アバドンとは仲直りしたとはいえ他の連中とは前回の件でぎくしゃくしたまま放置している部分もあるし、顔を出し難い状況ではある。

 しかしここで参加しなければ今より心証が悪くなるし、イベント参加もさせてもらえなくなる可能性が高い。

 しょうがないので嫌々ながらも俺はクラブハウスの会議室に向かった。



 会議室は大学の教室のようなレイアウトをしている。

 机で輪を作るタイプとは違うので、(だん)に立つ蒼さんと傍らに控えるぐしおんさん以外と顔を突き合わせることはない。

 俺は入口より離れたところ、通路とは反対側の壁際中央に座ることにした。

 気を使ってくれたのか、キティが横に、メニー・メリー嬢が後ろに座ってくれた。周辺へのガードとしては、多分これがベストだろう。部屋が広いのと参加率がそこまでよくないこともあって、他の鬱陶しい連中が近くに座るのは回避できた。

 参加者は20人程度で、椅子は半分も埋まっていない。



「じゃあ今週のイベントの説明をするね」


 蒼さんがホワイトボードにイベント概要を書き込む。

 今週のイベントは、競技場ごとの獲得賞金レースのようだ。クラブごとに稼いだ合計金額で勝負するらしい。

 強大なクラブと言っても、全ての競技場をフォローすることはない。なので、レベリオン・クラブのような中堅どころは一点突破で挑み、勝負に賭けるらしい。それでも競技場1位を取れるはずも無く、相当頑張って5位以内を狙えるかも、と言った話だ。


 牧場賞・個人賞などもあるけど、これは上位100位に入れれば御の字といったレベル。

 普通に考えれば一人一つの競技場を受け持つわけだし、新参の俺が入賞などというのは甘すぎる夢でしかない。

 もっとも。強力すぎるドラゴン、それにふさわしい戦績となると、出られるレースが制限されてしまうので強いドラゴンを多数保有していることがそのまま有利に働くかというとそんなことはないのだけれど。好成績のドラゴンって、ハンデが発生するからね。オープン戦を細かく回せる人の方が、稼ぎは大きくなりやすい。更に言うなら、GⅠやGⅡなどといった重賞レースは競技場単位で見ると数が少なく、取れれば確かに有利だけど、そこまで絶対的なアドバンテージとなりえないのも大きい。


 そんなわけで、全員で一つの競技場に的を絞って挑むことになった。

 競技場は『天空回廊』と蒼さんが先に決めてしまったので、揉めることも不平不満を周囲にまき散らす人もいない。こういうとき、強いリーダーシップで決めてくれる人がいた方が煩わしくないのだ。

 もちろん意見を言いたい人、他が良かったと思う人は出るだろう。しかし、全員の意見をくみ取ることが出来ないのもまた事実で、だとすればリーダーが「ここ」と言い切ってくれた方がまだいいのだ。





 話がまとまると、というか通達が終わると、自然と集団がいくつかできる。クラブの中でも仲の良いもの同士が集まり、小さなグループを作るのだ。

 当たり前だが、知り合いが少なく歓迎されていない俺はどこのグループにも所属していない。

 なので、とっとと帰ってレース登録をすべく動き始めようとしたのだが。


「ちょっと、そこの貴方」


 俺を呼び止めようと、見知らぬ誰かが声をかける。

 もちろん無視して移動する。だって声に含まれる敵意は隠されていないし、仲良くしなくても“大人の”対応をしてくれる人以外とは関わり合いになりたくない。積極的に空気を悪くしたいとは思わないが、おそらくこちらを格下と見て勝負を吹っ掛けるか、言いがかりで絡んできそうな人間に付き合う気はない。関わった方がよっぽどマイナスになるだろうからね。無視して発生するマイナスの方がよっぽど小さい。時間も無駄にならないし。

 そんなこちらの思惑など相手に伝わるべくも無く、再度呼び止める声がする。まあ、俺の名前を呼ばず「貴方」呼ばわりだしそのままスルー。

 近くにいた蒼さんに退出する(むね)、声をかける。蒼さんにも俺を呼ぶ声は聞こえているので俺に何か言おうとするが、その前に「失礼します」と言うだけ言って会議室の外へ出て、移動コマンドで牧場に逃げ込む。


 基本的に知り合い以外からはメール拒否設定にしてある俺の所に煩わしい声がかかることも無く。念のためキティに「勝負は受け付けないと言っておいて」とだけ頼み、クラブの方は気にしないことにする。


 うん。今回のイベントは他の連中との絡みが最低限でいいね。

 レースの登録設定で「同じクラブのメンバーが登録しているレースは除外する」と排除指定をかけておき、何も気にせず気ままに参戦。

 ひねりが無いのも、前回より楽で嬉しいね。というか、アクロバット系のレースは趣味じゃないし。正統派レースだけで十分だ。



 俺はイベントレースを自分なりのペースで楽しむことにした。

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