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4月1週目 GⅠ前日

 VR世界ではアバターに対し過度の負荷がかかった場合、それをシャットアウトする機能があるんだけど……久しぶりにキタなぁ。

 ニャンタ師匠の特訓(地獄)でも滅多にならないのに。いや、あれは精神的負荷が凄いだけで、物理的な負荷はかからないんだけど。



 メリー嬢の手で強制ログアウトした俺はクーリングタイムを経てもう一回VR世界にログイン。強制ログアウトをすると、1時間はログインできんのだよ。

 新着メールが届いたからとメールボックスを確認すると、メリー嬢から謝罪のメールが届いていた。こちらにも非があると、気にしないようにと返信する。

 特に不安と言うか不満も無いので、今度はクラブエリアに顔を出すことにした。





 レベリオン・クラブはそこそこ活気のあるクラブだが、今日に限って言えば、あまり人がいなかった。

 アップデート直後という訳ではないし、そろそろ人が集まってもおかしくないのだが。そう考えてみたが、逆に少ない方が正常と思い至る。ログインしてすぐにレース登録をして、一斉に出かけたんだろう。今頃レースの出番待ちで控室に押し込まれているに違いない。

 数少ない話し相手である蒼さんやぐしおんさんも“レース待ち”状態と表示されている。俺の予想は当たっていたようだ。

 他の連中? フレンド登録しているわけでもないし、知らんよ。


 人がいないのを幸いと、俺は練習用コースを好きに使わせてもらおうと予約画面を呼び出したところでアバドンがこっちに来た。ああ、この人はいたのか。


「やあ、奇遇だね。今日は練習用コースを使いに来たのかい? それとも、代表達に用でもあったのかな?」

「コースの方、ですよ」

「今は僕の方で2戦分予約がしてあるけど、一緒にどうかな? 今日は人が少なすぎて、ガラガラなんだよ」

「設定次第ですね。ちょっと待ってください。……ああ、これなら大丈夫です。2戦とも付き合います」


 アバドンは先月のことなど無かったかのように振る舞う。こういう事を一切気にしないのが彼なりの処世術らしく、揉め事を後に引きずらないのは評価できる。職場同様、ちょくちょく顔を合わせる人間と不穏な空気を放つのは大人のすることではない。内心はともかく、表面上は互いに揉め事を起こさないようにするのが大切だ。

 こちらもぎこちないけれど、邪険にしたり無視したりせず、普通に返す。


 先に来ていた彼の方がコースの設定を決めていたのだが、そこに参加する人間の数は少ない。誘われたこともあり、空き枠に自分を登録しておく。

 ドナドナをこちらに召喚して(呼んで)、さっさとスタート地点へ移動する。



「ああ、そうだ。確認したいことがあるんだけど」


 スタート地点で待っていると、アバドンが声をかけてきた。おいおい、練習とはいえ、レース前のお喋りはマナー違反だろうが。


「君は2倍速サーバーに移籍するのかな?」

「しませんよ。それよりレース前です。お喋りは後にしましょう」

「そうだね。悪かった」


 相手の方を見ずに返事だけはしておく。ついでに注意も。

 アバドンは俺の対応に苦笑しているように思う。つれないと言えばそれまでだが、マナーはマナーだ。ちゃんと守ってほしいと思う。特に、そんなに親しくない俺相手なのだし。



 ほどなくして、レースが始まる。

 今回は雲海の上を飛ぶコースなのだが、雲が帯電しているという、“雷雲”コースだ。


 訓練目的、経験値目当てで言うならドナドナを使うのはあんまり意味がない。サンダー・ドラゴンのドナドナにしてみれば雷雲はご飯や心地よい草原のようなもので、障害となりえない。

 それなのにドナドナを選んだのは、単純に“負けたくないから”だ。

 ああいう事があったとはいえ、俺はアバドンを嫌ってはいない。でも、負けてもいいとかそういう事を思う相手でもない。とりあえず、練習でも勝つために手段を選ぶ気はない。もともと飛ぶ予定だったコース設定の時ならともかく、突発的な参加の時は全力で勝ちに行く。

 人はそれを大人気(おとなげ)ないとか姑息とか卑怯とか言うかもしれないが、全力を出すのは礼儀のようなものだと思って欲しい。



 コースは短め16㎞。ドナドナにはちょうどいい距離だ。

 最近はスタミナも鍛えられてきて24㎞までは耐えられるようになったけど、それでもベストはやっぱり16㎞。そういうのは変わらないみたいだ。


 ドナドナは雷雲を眼下に置くこのコースでテンションが上がり気味となり、調子がいい。アバドンのドラゴンはアイス・ドラゴンでこの環境に適応しているとは言い難く、結構差をつけてしまった形となっている。と言うか俺以外の参加者にも後れを取り、最後尾ではないが、ずいぶんゆっくりとした飛び方をしている。


 何事も無かったかのように、最初の1周は俺が1位を取った。

 他の参加者にサンダー・ドラゴンがいなかったため、独走に近い。

 続くもう一周は雷雲ならぬ嵐天という設定だったが、こちらはビギニングウィンド、つまりは≪風纏い≫持ちのウィンド・ドラゴンで挑んだため、これもあっさり勝利する。≪風纏い≫は取得してからあまり間が無かったので、性能をテストするために試運転するのにちょうど良かった。嵐の中だと≪風纏い≫の効果は絶大で、ステータスに大きな差が無い限りGⅠクラス相手でも戦えると感じられた。



 続く3戦目。

 今度は俺の設定した環境となる。

 設定内容は、雲の直下を飛ぶ20㎞のコース。その他の天候、雲の内容はランダムにした。


 雲の下と言うのは、天井ギリギリを飛ぶのに等しい。

 雲のイメージがフワフワモコモコとか霧のようなものと言う認識なんだけど、時速1000㎞で飛べば硬い壁と考えて間違いない。何もせずにぶつかれば大怪我は必至。似たような速度で飛ぶ飛行機とかも雲の中を飛べば傷だらけになるのだ。生身でそれを体験したいとは思えない。

 ちなみに、このゲームの場合は本当に怪我をするわけではなく、スタミナをガリガリ削られるだけで済むらしい。魔法的なフィールドで耐えているという事かな? 試さないけど。



 今回のコースに挑むのは、パヴァだ。

 今度挑むGⅠがこれと同じタイプなので、その練習なのだ。俺以外に飛ぶのがたった5人と物足りないが、数をこなしておきたいというだけなので問題ない。

 強いて問題点を挙げるとすれば、天候がレアな「雪」となったことか。雪が得意そうなの(氷系ドラゴン)ばかりなので、下手すると苦手意識や負け癖を付けかねないのがなんか嫌だ。

 自分の牧場では合わせて飛んでくれるドラゴンの確保が出来ないので、贅沢は言えない。まあここで負けても、次は雪以外の天気を選べばいいだけだし。負けると決まったわけでもないのだから勝つための努力をしよう。



 この日パヴァは合計8戦し、3勝を挙げることに成功する。

 ランダムにしたら他の連中が有利になる天気ばかりを引いて負け続けてしまったが、逆境を今のうちに覚えたと気分を切り替え、明日のGⅠに登録をする。


 引退まで後が無いのだし、配合の為にも出来るだけ戦績を良くしておきたいものだ。

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