1月1週目 配合事情②
ドラゴン同士の配合について、俺が知る知識はあまりに少ない。
属性ごとの相性、系統ごとの相性、種族ごとの相性。これらを組み合わせるために血統を考慮する“ニックス”という考え方。
属性・系統・種族とその組み合わせによって決まる“スキルツリー”の解放。
特定のドラゴンの血脈を活性化させる“血脈活性”に、特定ドラゴンの血を甦らせる“インブリード”。
他にもいろいろあるらしいが俺には半分以上理解できず、説明の途中で思考を放棄した。
しかし、そんな俺に挑む古強者がいる。
キティだ。
彼女との付き合いは長く、俺のことを良く知っている。ここ最近は会う事も無くメールでのやり取りが多かったが、ネット仲間では特に仲の良い奴の一人だ。ネタを愛し、愛嬌があり朗らかで、面倒見の良い姉御肌な女傑である。少々手が早いが、人を集める人望がある。
そんな彼女が今、おバカな友人である俺に挑む。
「初心者はニックスを押さえておけばいいニャ!! あんまりたくさん詰め込もうと思っても、無駄で無理ニャ! そういうのは、リアル半年以上プレイした頃から考える事ニャ!!」
まず、あんまり配合理論に詳しくない俺に優しい発言が来た。
「詰め込みたくても理想の相手ニャんていないのがふつうニャ。自分で作るしかニャいのニャ。でも、ヴィジョンも土台も伝手も無い猫村が頑張っても無駄骨ニャ!」
容赦のない発言ではあるが、まあ、そんなものだろう。
どのゲームでも下積み時代というのがある。ゲームに慣れ、やり方を感覚レベルで覚えるまでの期間だ。低レベルには低レベルなりの楽しみがある。徐々に強くなっていく感覚というのはやはり楽しく、レベルをカンストさせた後の「偉業プレイ」とはまた違った生き方を選べる。
このゲームでは初心者でもレースに勝てる環境を用意して最低限の楽しさを保証すると同時に、生産者として最低ラインのところから成り上がるプレイスタイルも並行してできるという訳か。
トレーナーの場合は? よく分からんな。気になった時にでも目の前のに聞けばいいか。
とりあえず、キティの説明はこうだ。
今回俺が貰うドラゴン「リーザスルナ」はサンダー・ドラゴンという種族の純血種で、自動的に風属性の単色、系統は精霊のみ。性別は雌。
ニックスを考えるならストーム・ドラゴン、このままサンダー・ドラゴンの純血種掛け合わせでサンダー・ドラゴンを窮めるか、いっそのこと次世代を考えて宝石系統のエメラルド・ドラゴンを掛け合わせてからどちらとも相性の良いダイヤモンド・ドラゴンを掛け合わせようとするか。
難しく考えないなら、この辺りが妥当らしい。
属性や種族と違って分かりにくい系統について少し説明するが、種族の方向性を大まかに表すもので、通常・精霊・宝石・伝承の4つに分かれる。
通常は別名“色”と言われるように、ブルー・ドラゴンとかグリーン・ドラゴンとか。そんな色の名前を冠する種族のドラゴンだ。身体能力が高いのが特徴か。
精霊は自然関係の名前を冠するドラゴンのこと。リーザスルナは“サンダー”・ドラゴンというわけで、同様に“ウィンド”・ドラゴンのパヴァも精霊系統となる。≪加護≫系のスキルを覚え易く、それ以外のスキル習得も多彩な系統でもある。
宝石はこれまでの説明からも想像できるだろうが、パヴァの血に流れる“サファイア”・ドラゴンのような宝石の名を冠する系統のこと。少々癖の強い種族が多く、宝石系統をかませたニックスは他のそれより倍率が跳ね上がるともっぱらの噂。
最後の系統、伝承はかなり特殊だ。ランダムで発生する系統で、これは特定の種族を指さない。発生した場合、種族のところに“バハムート”や“マルドゥーク”などと表示される。要するに、いい意味での(?)特殊変異個体という事だ。もちろん子供は元の種族に戻ることになる。強力なスキルを得ることが出来るが……狙ってできる系統ではないので考えるだけ無駄だろう。
余談だが、突然変異自体は成竜の時、もっと細かく言えばタイトルレース出走中に起こるため、毎回大騒ぎになる、らしい。
話を戻すとして。
サンダー・ドラゴンの特徴は爆発的な加速力。それを活かす方向でいきたいのだが、縛りの方もいくつか確認しないといけない。
まず、施設側の影響で、他の属性が強く出ているドラゴンは却下される。祖父母の中に風属性が混じっていないドラゴンは一発でアウトとなる。あと、両親が同属性でもダメ。これは施設が風属性にしか対応していないからで、他の属性色が強く出るドラゴンだと大幅にペナルティが入るからだ。だからさっき提案されたのは全て風属性のドラゴンとなっている。
次に通常系統のドラゴンはやめておくように言われた。サンダー・ドラゴンは基本スペックが低く、爆発力に賭けるところがある。よって、通常系統を掛け合わせて基本能力底上げが有効に見えるのだが。通常系統のドラゴンはサンダー・ドラゴンとニックス関係にないため、逆に低スペックになっただけで終わりかねないらしい。そちらと相性がいいのはパヴァの方だと言われた。
最後に伝手とかそういうものが無い場合はNPCに頼るか自前のドラゴンと掛け合わせるしかなくて。目の前のキティも、交配相手の手配まではできないと首を振られた。ついでに、他の知り合いもたぶん無理だという話みたいだ。自分の理想とする配合理論を突き詰めるためのドラゴンしか持っていないのが当たり前の世界だから。
キティから言われたことを自分なりにまとめる。
・NPCとしか交配できない
・ニックスだけ考えればいい
・相性がいいのはストーム・ドラゴン
・後の事を考えるなら今回はエメラルド・ドラゴン
NPCにしか頼めないっていうのは、まあ、いいや。始めたばかりで実績が無いうちは仕方が無いよな。
サンダー・ドラゴンを続けるのは、何らかのメリットがあるのかもしれない。が、今回は却下。ニックス以外の理由みたいだし。また来年の配合の時に考える。
次。考えるべきは今を取るか、次を取るか。
んー、と考えるが、今を取る方で決断する。
よくよく考えなくても、チャンスは3回。今回すすめられた組み合わせを全部試すことが可能だ。
で、当面の運営資金を稼ぐために、最初の配合は「今」を優先する。
今年交配ならパヴァと入れ替わりで活躍するドラゴンになってくれるだろうし、そうでなければ逆に困ることになりそうだ。パヴァが引退した後にいいドラゴンを買えるとは限らないし。
甘い考えかもしれないが、その旨をキティに伝える。
「そこまで間違った考えじゃニャいニャ。手持ちのドラゴンがどれも勝てないと、結構イライラするからニャ。次世代のさらに先は、まあ、次でも間に合うニャ」
素人考えではあるが、概ね賛同してくれた。
先の先よりも確かな一歩。
当面の課題は終わったとして、親竜購入手続きを済ませた俺はキティの牧場をお暇した。