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3月2週目 幼竜④

 親竜というのは、3頭の子供を産んだ時点でお役御免になる。

 これは人とドラゴンとの間に結ばれる契約によるもので、そのあとドラゴンが死ぬとか寿命だとか、そういった話ではない。むしろ、人の手を離れ自由に生きていくだけだ。

 独立したドラゴンは老竜(エルダー・ドラゴン)となり、リアル1年を経て古竜エンシェント・ドラゴンとなる。仲良くしていたドラゴンであれば、古竜となった段階で会いに来ることもあるそうだ。



 リーザスルナ(リザ)は先月に新月を生み、今月もう1頭、来月もう1頭産んでくれる予定だった。

 その予定が狂ったのは、それを俺が知ったのは、今週に入ってからの事である。


 ドラゴンの体調管理は大事である。

 そのため、牧場には専用の医務局が設けられており、俺が所有するドラゴンの健康状態を定期的に診察・管理していた。

 その中にはリザだけでなく彼女の温める卵も含まれていた。

 そして、牧場担当医は俺に言った。


ご主人様(マスター)、この卵は、中の子は、双子です」





「まさか双子とはねぇ」

「私も聞いたことが無いわね。まあ、牧場の拡張は前から考えていたんでしょう? ちょうど良かったじゃないの」

「親竜を2頭に増やす予定だったんだよー。もう一頭分、早く増やさないと……」


 子供が生まれるという事は、その分部屋を用意しないといけないという事だ。

 そして、部屋を用意するというのは資金が減るという事だ。


 さらに言うなら、俺の牧場は自転車操業(その日暮らし)だったりする。

 それもこれも、牧場の拡張に資金がどんどん飛んでいくことと、収入がなかなか安定しないのが悪い。ドナドナとビギニングウィンドという稼ぎ手が増えたとはいえ、俺はまだまだ貧乏生活を強いられている。もっとドラゴンを増やせば収入も増加するのだが……そんな余裕はどこにもなかった。



「それにしても、私は駆け足で生き急いでるわよね。レースは中途引退。親竜も双子を生んで、2年で引退。次は何を早々に引退するのかしらね?」

「さすがにもう無いんじゃないか? あったとしても、俺に会いに来るのが早まるぐらいか。もちろん来てくれるんだろ?」


 卵を温めながら、リザは苦笑する。

 偶然が重なっただけだが、自分の()生に思うところがあったらしい。卵を見る目、その眼差しは暖かいが、自身に対する皮肉気な感情を隠せずにいる。

 それが分かったところで俺にできることなど無く、更に皮肉を重ねてみせるだけだ。大した効果は無かっただろうが、そこの言葉にリザが声を上げて笑ってくれたので良しとする。



 しかし、産まれてくる子に対し、俺は自分のスタンスを決めあぐねていた。

 正直な事を言えば、双子などいらないのである。

 双子の発生確率は1%に満たない程度で、かなりレアなケースだ。

 1頭であれば配合用に確保するのも悪くない選択肢だが、同じ配合の親竜2頭というのは、正直重い(・・)。厩舎の枠を圧迫するだけでしかないのだ。

 出走するうちはいいが、親としては必要ないというのが結論であり、頭を悩ませるのだ。

 できれば他のドラゴンと配合するための調整用にしたかった……。それが偽らざる俺の気持ちである。


 リザの態度も俺の気持ちを知っての事であり、今まで牧場生活をしてきた中からこちらの考えを推察するぐらいはやってのける。

 よって、皮肉気で自嘲気味なのもそれ()が原因だ。

 ここまで負のスパイラルを突き進むと苦笑いしか出てこない。

 本来めでたい事であるはずの孵化シーズンにあるまじき空気の悪さだ。



 これは消えた選択肢だが、他の仲間たちにリザの子を養子に出すという話も出たが、基本自分の戦略に沿って配合を繰り返している面々である。サンダー・ドラゴンの純血種は不要らしく、いい返事はもらえなかった。最悪は風霊(NPC)牧場のズィルバー氏を頼ることになるだろう。





 クラブに入り、週末にイベントを控えながらも迎えた木曜日。

 俺とリザの心冷えるやり取り、そんな微妙な空気の中、それでも温め続けられた卵は孵化してくれる。

 部屋にピキピキと殻の割れる音が響く。


「「キュゥゥーー!!」」


 俺たちが注目する中、その子たちは産声を上げる。殻を破り、その姿を俺たちに見せる。


 俺のどこかつまらなそうな目は、その双子を見た時に驚愕に染まった。

 生まれてきた子は、確かに双子だったが。

 純白の鱗を持つアイス・ドラゴンと、白銀の毛皮に覆われたブリザード・ドラゴンだった。



 俺は驚きから立ち直ると、すぐに攻略サイトを検索する。

 探していた項目は一瞬で出てくる。


『先祖返りについて』


 サンダー・ドラゴンの純血種として産まれた子らではあるが、その祖先まですべてサンダー・ドラゴンであったわけではない。親は両方とも純血種で3代前までサンダー・ドラゴンだったから純血種なのだが、それ以前にはスノー・ドラゴンやテンペスト・ドラゴンなどがいる。他属性、シャイニング・ドラゴンやルミナス・ドラゴンと言った名前も混じっている。はっきり言えば、雑種もいいところであった。

 今回は相当前の世代、その血が覚醒し、取り替え子(チェンジリング)が発生したようだ。完全に計算外の出来事で、発生確率は0.1%程度と言われている。考えに入れておけというのが無理な話だ。

 しかも、それが双子で同時に発言などと言えば、前例がないケースであることはほぼ間違いない。


 とりあえず、取り替え子の2頭はサンダー・ドラゴン純血種の特性と覚醒した血統、その種族の恩恵を受けることが出来るハイブリッドなドラゴンとなった。

 細かいことはやはりデータが少なく、はっきりとしたことは言えないことが多いという状況で。

 クラブ所属故に隠し立てることが出来ないというのに。






 ものすごく、ものすごーく目立つドラゴンを、俺はゲーム開始3ヵ月目で生産することになった。

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