2月4週目 体力測定?
先日、別の小説に前話を投稿していました。
現在投稿先の修正をしてあります。
申し訳ありません。
ただの事実ではあるが、今回のフールマーズ事件(あえて事件と言おう)については、俺、ほとんど役に立っていない。マジ役立たずです。
最後の「猫村杯」で俺が矢面に立ったのは、周囲の気遣いだろう。さすがにその程度は分かっている。
事が終わってから微妙な気分になったので、再び路地裏の喫茶店でコーヒー片手に猫缶を食べる。
しんみりしたいところだが、現在の曲は「派手に踊れ」の“情熱の円舞曲”だ。踊りたい奴が、体を動かしたい奴が多かったんだろうね。無念。
とはいえ、踊るのは食事をしてないと曲の演奏に加わっていない奴だけ。猫缶を食している俺には関係なく、カウンターの端から2番目の席でチビチビ現状を楽しんでいる。
しんみりするのもいいけど、馬鹿騒ぎで塞ぎ込みがちな気分をブッ飛ばすのも悪くはないからねー。
食べ終わったら、俺も踊りますか。
なぜかタンゴで。
「猫村、もっと食べていい?」
「太らない程度にねー」
「ん。大丈夫。私、太らない」
ちなみに、今回はパヴァを同伴している。
パヴァにも猫缶を与えてみたが、意外なことに好評。ドラゴンって、|普段規制有の《オブラードに包んで言えば》ナマニクばっかり食べているからね。加工肉でも大丈夫とは。いや、向こうで出すことはできないんだけどね?
捕捉だが、パヴァがここに来ることができるのは、ここが「パーソナルスペース」だからだ。個人用であり、他の企業に属さない空間であれば連れ込むことも可能なのだよ。先月、「初めてのドラゴンアバター」を披露するのに俺のパーソナルスペースを使ったのと同じことという訳だ。あの時もパヴァや他のドラゴンを連れ込んでいたからね。
そんなわけで、馴染みの店をパヴァに紹介し、いろいろと食べさせているわけだ。お代は取られないので、いくら飲み食いしてもタダである。正確にはシステム管理者、このデータ領域の持ち主が俺たちの持ち金を常時カンストさせているだけだが。
ここは満腹の概念すら無い世界なので、パヴァがひたすら食べ続けることになっているのだが。特に問題があるわけではないので放置している。食べ終わった俺は踊る方で忙しい。
冗談半分でこうやってパヴァを連れ回しているが、このシステムを考え付いた技術者さんはかなり頭がいいと思う。
≪妖精化≫により俺のVRマシンに基本データを移されたパヴァは、外見・思考ともに俺の個人保有になっている。その分のデータ的なやり取りがなくなればシステムはより快適に動くし、こちらは相棒として連れまわすことができる。プレイヤーにしてみれば思い入れのあるキャラを基本的に、他の会社のゲーム領域以外は連れまわせるので、一人の時などは重宝する。
まれに、ゲームキャラに入れ込み過ぎるといった話も聞くが……A・AIは人間がVR空間に長時間いる事を好まないよう人格の奥深くに刻み込まれているので致命的にはなっていないらしい。まあ、そういった方々は現実世界側にA・AI用の人形ロボットを用意しているらしいので、別の意味で致命的かもしれないが。
追記。連れ出している最中に≪妖精化≫を解くには、自分のパーソナルスペースに限定される。例えばこの空間では“3m以上のアバターならびにキャラクターの禁止”という項目があり、それが鎖になっているからだ。
今回こうやってパヴァを連れだしたのには訳がある。
パヴァのステータスをある程度正確に把握するためだ。
実際にやってみないと分からないことではあるが、妖精アバターのパヴァはドラゴンの時の能力を反映している可能性があり、外での身体能力測定に影響するかもしれないからだ。ドラゴンの体ではどうやって計測していいか分からないしスタミナが無尽蔵になっているから、まともな測定はできないでいる。
攻略サイトでも同様の試みをしているが、協力者が少ない事、サンプルデータが少ないこと、ゲーム内のデータが数値化されないこと、測定するにもドラゴン側のテンションの問題で安定したデータが測定できないなどの理由から“未検証問題”として結論が出ていない。サンプルの少なさにはわざわざ≪妖精化≫・≪人化≫を取った“現役”ドラゴンを持つプレイヤーの少なさと、育成にかかる時間のブーストができないことが理由として挙げられる。
まあ、そう簡単に抜け道を使わせてもらえるとも思わないけど、パヴァのデータをサンプルとして提供すれば済む話である。ある程度の計算はしてもらえるはずだ。
現在は共通化した測定基準を知る人を「陽だまりの庭」で待っている最中である。
カランコロン
店内に、来客を告げる鈴の音が響き渡る。
入り口を見れば、チェシャ猫のアバターを持つ男が一人。今回の協力者、検証厨の「猫目」氏である。店の仕様により、彼も猫アバ――ケモ度4――の姿をしているのだ。この領域への入場許可は俺が発行した。
「こんにちは、猫村さん。この度は協力の申し出、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ。今日はよろしくお願いします」
握手し、挨拶を交わす。
今回の件は互いにメリットがあるので、損はない。強いて言うなら、ゲーム外の出来事だけに一緒にいても友好度や絆に影響しないし、経験値にもならないというぐらいか。
俺たちは「もっといろいろ食べてみたい」とごねるパヴァを連れ、専用の測定所に向かった。
パヴァには「終わったら1時間食べ放題、成績が良ければ2時間に延長」と言って説得し、モチベーションとする。
多少のやる気は見せてくれたが、コンディションとしては「普通」と言ったところまで回復した。これが「絶好調」や「絶不調」だと計測したときの影響が大きいだろうし、結果オーライとする。
・ 100m走の場合
100m走と飛翔には全く関係はないが、念のため程度の理由で測定項目になっている。
パァンというピストルの合図で、パヴァは背中の羽で飛ぶ。スピードについては推して知るべし。妖精さんは早く飛ばんのよ。
本当に参考程度だが、2分ほどかかった。
今のパヴァは身長30㎝の妖精さんなんだし、この結果もやむなしである。
・ 握力測定の場合
測定不可能。人間になる≪人化≫ならともかく、妖精の姿では両手で、全身を使って頑張っても全く動かない。
・ 立位体前屈、他柔軟性の測定(柔軟)
立位体前屈、つまりまっすぐ立った状態から前にかがみ、両手の先を下に持っていくやつである。
パヴァはマイナス5㎝、人間ならマイナス20~27㎝程度という好成績を出す。
他の柔軟測定でも調子が良く、他のドラゴンと比較して上位に位置する結果を出した。
・ シャトルランの場合(瞬発力)
一定時間内に3mの距離を行ったり来たりと走り続ける測定。時間内に走れなくなるまでやる。一定時間と言うが、回数をこなすごとに時間は短くなっていく。本来なら瞬発力ではなくスタミナを見ることに使うのだが、スタミナについては無尽蔵で疲れるという概念を持たないために計測不能となっている。距離の方は妖精さん仕様と言う事で。
記録の方は130回。
人間なら大したものだし、疲れ知らずと言っても切り替えして再加速をするわけで、なかなか大変なのだ。
妖精の中で最高回数が200回超えなので良いとは言わず、平均より悪い方の成績だったと付け加えておく。
こういった測定を何種類も行い、データの平均化のためと3周ほど繰り返す。
さすがに一人でやらせるのは可哀想だからと俺も付き合ったので、パヴァの機嫌は悪くない。むしろ俺との勝負だと楽しんでいた。
「いやー、長時間のお付き合い、ありがとうございます。あとは猫村さんのレースの記録を参照し、比較検討したいと思います」
「では、今日はもう終わりですね?」
「はい。結果は後程お送りさせていただきます。本日は、本当にありがとうございます」
測定が終われば俺とパヴァはお役御免である。あとは猫目さんの仕事だ。任せていい。
別れ際にもう一度握手し、頭を下げ合う。
最後に猫目氏が手を振る中、ムーブアクションで自分のパーソナルスペースに移動する。
結果が出るのは2週間後。
それまでのんびり待たせてもらいますかね。




