1月4週目 猫村②
フールマーズと仲良くするというミッションは失敗したものの、さらにその前、1頭ずつドラゴンの顔を判別できるようにというミッションは見事クリアした。だって、フールマーズの泣き顔は分かりやすかったし。
そのあとズィルバー氏に「やりすぎです」と、怒られたけどね。
ドラゴンの個体判別は1頭終わったからと言ってすぐに出来るようにはならない。
そんなわけで、他のドラゴンと「遊ぶ」のが俺の日課になりつつある。
まだ7日目だけどね!
「急ブレーキからの! 急旋回!!」
「グゥオォォォォ!!」
俺を背に乗せた空色のウィンド・ドラゴン。全速力で飛んでいたのだが、≪風の加護≫で急ブレーキをかける。何もないところでそのように意識をすると、このスキルは弱めのブレーキとして機能する。多少スタミナ効率は悪くなるが、それでもカーブでは有用なスキルとして使い勝手は良さそうだ。今までのレース観戦では、≪風の結界≫を視認できないがゆえに見逃していた使い方であり、以前三味線が水中でやっていた使い方だ。攻略サイトもそこまで詳しく目を通したわけじゃないし、こういった見逃しは多くあった。もう少ししっかり確認すればよかったと後悔するが、多分この反省は来月中ごろには忘却の彼方に墜ちているだろう。
この子で、まだ使っていないスキルは……?
次は≪紫電の鱗≫の性能テストでもするかね。その後に≪雷海≫でも試そうか? いや、こんな狭い場所で使うと大惨事だし、≪スピード限界突破≫までに留めておくか。
引退直前のドラゴンって、スキルがフルセットだからいろいろできるし。楽しいけど大変だねぇ。
今日は適当に暇をしているドラゴンを捕まえて、軽く飛ぶことを繰り返している。
コースを使わせてもらうにも、先約済みで今日は空いていなかった。だけど飛ぶ欲求を押さえきれないドラゴンと、フリースペースで「遊泳飛行」と洒落こんでいる。コース設定も何もないが、ただ飛びたいだけならここで十分だ。ストレス発散に体を動かすのはVRでも通用する話で。連れてきたドラゴン達は思い思いの飛翔を楽しんでいる。
適当に選んだドラゴンではあるが、結構古参の兵というか、今のパヴァには相手をするにも荷の重いドラゴンなどが混じっている。そんなドラゴンでなくとも俺の知らない、使ったことのないスキルを持つドラゴンも多数いるわけで。性能テストも現在ついでにやらせてもらっている。
ちなみにフリースペースは個人持ちの空間のことで、ゲーム単体に付属する|空間《牧場
》ではなく、ゲーム会社との契約に付属する空間の事だ。物理法則無視の空間なので、空を背景に張り付けてドラゴンが飛ぶぐらいは余裕なのだ。
「ドラゴンがその空間に適応するのか?」という疑問であれば、「適応する」と言うのが回答だ。別会社のシステムでもないし、ドラゴンはある意味、自分がVR世界の住人と自覚しているからね。それぐらいは――例えば俺がいきなりアバターを変身させるなどの現実離れした行動も含め――気にしたり、しない。
あと、ここはカスタマイズしてしまえば牧場のコースも再現できる。が、それには課金が必要なので、俺は青空背景で誤魔化すだけにとどめている。
「ドラゴンと遊ぶ」と言っても、やることは基本レースである。
なんだかんだ言って飛ぶことが好きなのが風属性のドラゴン。火属性は暴れたがりで、水属性なら「飛ぶ」ではなく泳ぐ方が好きで、地属性はご食事を至福とし、光属性は昼寝が、闇属性はおしゃべりが好きだと聞いている。個体ごとの差異があるので完全に共通とは言わないが、それなりにこの傾向は通用する。
ルミナス・ドラゴンはお昼寝好き。そりゃあレース向きの趣味じゃないな。他はなんだかんだ言ってレースを頑張らせるための餌になる趣味だけど。
そんなわけで、いろんなドラゴンに乗って、飛んで、競い合い。そんな風に過ごすうちに、冗談だろうけど「主戦騎手を俺に変えてほしい」と言ってくれるドラゴンも現れ出した。
こちらもあんまり主戦騎手のドラゴンを増やせないし、時間が空いているときに騎乗することを約束しておく。
パヴァにプチパチ、パタパタといった自分のところのドラゴンを構う事も忘れず、時折レースに出て賞金を稼ぐ。パヴァはGⅡで何とか勝利をおさめ、ファーラカーラとインベティウムらもなんとかGⅢハンデ戦を制するところまで戦果を重ねた。
パヴァでGⅠを、と思わなくもないけど。さすがに今月は自重することにした。どうせ来月になったらまた挑めるんだけど、負け癖は要らないし。そんなのが付いたら困る。勝てそうなレースだって思わぬ伏兵にやられる可能性が高いし、俺もパヴァも一戦一戦に気を抜ける状況じゃない。冒険と無謀は違うのだよ。俺が言える立場じゃないけど。
そして、レースを繰り返して思ったこと。
風霊牧場での“特訓”は一応身になっているらしく、ドラゴンのスタミナ残量を把握するプレイヤースキルは、前より正確になっている。加速などの管理も、自分のイメージと現実が近づきつつある。
レース中、他のドラゴンたちが使うスキルも、風属性のそれについては対応できるようになっている。自分で使ったことのあるスキルが増えるというのは、対処の方まで考えが回るという事。俺自身の成長も実感できた。
いろんなドラゴンに手あたり次第手を出すというのは、騎手としての経験を積むという意味では高効率なんだろうね。ニャンタ師匠やキティとの特訓の時も、多種多様なドラゴンとの触れ合いがメインだったし……ああ、それも特訓の目的の一つだったのかもね。レースと言う大枠から外れずに多様な経験を積むことで、一点特化のスペシャリストを育てる。それはニャンタ師匠好みの話だし。
そうやって、特にイベントも無いまま1月目が終わる。
前半戦はイベントだらけの忙しい日々だけど、後半のこういったのんびりモードも悪くない。
来月は、何をしようかな?




