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1月1週目 キティ②

 MMOというのは、「大人数が参加する」のが前提である。

 そして、ソロプレイヤー(一人で遊ぶ人)であっても他のプレイヤーとのかかわりをなくすのはほぼ不可能である。


 俺の場合、とある会社のゲームで知り合った仲間と連絡を取り合い、いくつかの世界(ゲーム)でつるむ程度に付き合いを保っている。

 その仲間の一人が目の前にいる(おそらく)女性、子猫娘(キティ)であった。



「いやー、頼まれた条件で渡せそうな子がこの子しかいニャかったけど、いい子を選んだと思うニャー」


 お互いが「ひさしぶりー」と挨拶してからお話し合いに移る。

 朗らかに笑うキティ。

 今の彼女は俺のような「二足歩行する猫」ではなく、「猫の獣人」といった出で立ちだ。

 違いが判らない? 2足歩行ではあるが、俺はあくまで猫ベース。実際は安定しているが、猫を持ち上げて無理矢理立たせたような状態だ。ケモ度でいえばレベル4だ。たいして彼女は人間を毛深くし、猫のパーツを取り付けた状態。ケモ度は3、しかも2寄りでしかない。

 猫としての品種だが、彼女は長毛種のノルウェージャン・フォレストキャットをベースにしている。毛の色は明るい茶色がベースで、顔や腹の方は白い。今はボリュームのある長髪を無造作に束ね、後ろに流している。

 このウェジー(ノルウェージャン)。本来はツンと澄ましていて、気高く気品あるイメージの猫なのだが、愛嬌のある彼女の笑顔の前には愛くるしいイメージが強くなり、気安さが前面に出ている。


 彼女(キティ)とは古い付き合いで、仲間内でも最初の方に合流したメンバーである。

 同志たちとサークルを作ってから3年、一緒に遊ぶゲーム(プラットフォーム)は何度か変わったが、縁は切れずに付き合いを続けている。


 今回俺がこのゲームを始めるきっかけを得たのも彼女からの誘いと支援の約束があったからで、そうでなければ『ドラゴンソウル・リンケージ』を「面白そう」と思っても始めることはなかっただろう。


「それでー、他にニャにか支援した方がいい事はあるかニャ?」


 小首をかしげてこちらに笑顔を振りまく。

 場所は先ほどとは変わって事務棟の応接室だ。パヴァには悪いが、今は旧友との会話を優先させてもらった。電脳世界の身ではあるが、屋外で立ち続けるというのもあまり精神的に良くない。せっかくだからゲーム内部の機能を使わせてもらう事にしたのだ。


「当面はレースに備えて練習するだけだし? パッと思いつくことはないかな?」


 欲しいもの、必要なものと聞かれても、始めたばかりの俺に思いつくことなどない。強いて問題を挙げるなら、今NPCが用意したこのコーヒーが美味しくないことぐらいだろう。


「じゃー、趣味レベルの部分にお金をツッコんどくニャー。事務棟の設備が良くなってもレースに影響しニャいけど、くつろぎレベルは上がるニャ」


 こちらの返答を聞いてそう返すキティ。

 微笑みながらケット・シーの表情を読むとか、微妙に高レベルなことをしてくれる。……いや、単に付き合いが長いから、行動パターンを読まれただけか。


 そう言ってキティが何か操作すると、目の前のコーヒーが消え、NPCが――先ほどまでの地味な事務服がパリッとしたスーツ姿に変わっている――新しいコーヒーを持ってきた。

 一口飲んでみると、先ほどのいかにもインスタントなコーヒーが上等な喫茶店のそれに変わる。

 そのコーヒーを楽しんでいると、目の前のバカ猫は事もあろうにとんでもないことをあっさり言い放った。


「どうかニャー。1000億ほど(限界額まで)事務棟に投資した価値を堪能してるかニャ?」

「注ぎ込み過ぎだろ!?」


 ちなみに1レースの賞金は一番多くて4億円である。

 後半になると使う事が無くなって貯まる一方らしいが、使いすぎであった。





 ついさっきまでより座り心地の良くなったソファーに身を委ねる。深くまで沈み込むが、気持ちがいい。

 事務員、コーヒーに椅子。見渡せば部屋の内装も。一瞬で設定が反映されたが、普通はもっと間があるとか何かワンクッションあるんじゃないだろうか。多少作りが雑に感じる。



 思わず絶叫するほど大声を出した俺ではあったが、キティに言わせれば1000億円というのは大金でもなんでもなく、リアルで1年もこのゲームをやっているプレイヤーには当たり前の事らしい。

 このゲーム、お金を貯めることが簡単で、施設を全強化し終えた後は使いたいものが無さすぎる。というのも、施設の強化自体はこのゲームのメインではなく、補助的な立場でしかないからだ。本業はあくまでレースであり、付随する条件にいつまでも奔走させる気が無いという事なのだ。

 そうなると使い道はどうなるか。


 娯楽方面である。


 娯楽方面は、ゲームに関係しない様々な部分をより良くする為のものだ。今の事務棟強化もその一環で、フレンドの娯楽方面だったからこそ許可された面がある。なお、実利のある強化は20億円の改築費用が掛かるのだが、彼女もそこまで手は出していない。俺が許可を出していないのもあるが、そこは自分で楽しめという事だろう。

 あとは引退したドラゴンと遊ぶための、場所や設備が買えるようになっている。引退させても条件さえ整えれば、苦楽を共にしたドラゴンとずっと遊べるらしい。

 なお、許可を出したところで強化はできないことを知るのはもう少し先の話だ。


 ちなみに他には家電関係、他ゲームの物品とアバター用装備の購入、他ゲームへの資金投入などができる。俺はあまり興味ないけど。



 とりあえず今はコーヒーを楽しみ、これからの話をしようと気持ちを切り替える。


「そういや、さっきレース登録したけど。特に問題ないよね?」

「早すぎるニャ!」


 あまりの事に、さすがのキティも笑顔を捨てて驚いてくれた。毛が逆立っている。俺GJ(ぐっじょぶ)

 ちなみに、一般のレースは登録から1時間後に始まる。


「まあ、新竜戦だし、大丈夫じゃない? 距離も12㎞(最短)を選んだし、しがみついて全部任せるだけでも勝てるでしょ」

「無茶言わニャいで!! パヴァ(あの子)にはこれからレースを覚えさせるところから始めるのよ!? そもそも猫村(アナタ)だって騎手としての練習や連携訓練を2日はしないといけニャいのに!!」

「……オープニングの騎乗でテンションが上がりすぎてやった。だが後悔はしてない」

「カッコつけても駄目ニャものは駄目ニャ!! 出走を取消しニャさい!!」

「だが断る!!」


 俺の力強い断言に、よろよろと崩れ落ちるキティ。

 肩を並べてゲームをするのは久しぶりだからか、久しぶりのノリに疲れ切ったご様子だ。


「覚えてたの、覚えてはいたの。でも、少しぐらい変わって(成長して)くれてもいいじゃニャい。変わってると信じてたっていいじゃニャい……」


 打ちひしがれたキティに、俺は笑顔で“お願い”をした。



「という訳だから。時間までに仕込み、よろしく」


 笑顔を取り戻したキティの返答は、顔面へのグーパンだった。

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