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7月3週目 新イベント③

 宝探しも4回目。

 ようやく、基本的な法則性が見えてきた。


 宝箱は最大5回まで発見できて、イベント期間中のみと思うけど、発見するごとにグレードが上がっていく。新しい物にいいものが入っていて、発見者は常に最新の宝箱を開ければいいことになる。

 協力する要素として、同じクラブに所属している人間であれば、肩を並べて探すことができ、その場合出てくる宝箱の数は人数に正比例する。イベントの進捗は一緒にいるメンバーの中で最も先に進んでいる者が基準にされ、出遅れた人間でも他の誰かによるフォローがあればいいものを手にすることができる。

 あと、手に入る物は乗っているドラゴンに準ずる。ユピテル、サンダー・ドラゴンに乗って探した時は「雷精の種」というアイテムが手に入ったし、他の人に聞いた話でもそのような因果関係があるという推測を裏付ける情報が集まっていた。解析班からも確定情報として同様の報告が攻略サイトに挙げられている。


 もともと複数の人間が固まって飛ぶことが前提だったのだろう。移動中が無味乾燥で同じ景色の繰り返しなのは、一緒に飛ぶ誰かと話をして暇をつぶしてほしいという見方もできる。

 そこまで深読みするのは考え過ぎだろうか? そう思うけど、ゲームの運営って「楽しませる」「飽きさせない」という事のプロなわけで。あながち間違っていないと思うけど。

 きっと、手抜きじゃないはずだ。



 MMOで良く見かけるハイエナさん、つまり他の人の上前を撥ねるだけの連中については、特に対策などをしないという事で話が付いた。

 俺としてはイラっとする話だったのだが、クラブの幹部たちにしてみれば「たかがその程度」どうでもいいらしい。その分は別のところで利益を出せばいいと、そんなことを言っている。

 ちなみに彼らの利用方法は、牧場の運営権をクラブ側に寄贈する、つまり実質的な牧場拡張である。……奴らはプレイヤーではなく、ただの置物か。だからアイテムを回収されても自分たちの取り分が増えるだけ、と。あくどいなぁ。

 こういったやり方はわりとずるいと思うけど。旧世代の複垢みたいでマナー違反ギリギリじゃないか。


 そう思っていたが、一時的に運営権を譲渡してドラゴンの管理者を置かないと、ドラゴンの質がかなり低下するそうで。

 リアルの事情により継続的なログインができない人への保護政策だったようだ。

 ……RPG系では確かに長期ログインできない状況が続くと、パワーのインフレから完全に置いてきぼりになってそのままフェードアウトする人が出てくるし。こっちでも似た様な話はあるようだ。

 一時的な避難所を自称するレベリオン・クラブの決定としては正しいのだろう。


 前にやっていたゲームという判断基準があったため、俺もこの件については了承したのだった。

 もっとも。人数と見つかる宝箱の数から言えば、彼らが持っていく量などたかが知れていたのだが。





 宝探しの方で出てくるアイテムは種族による制限のかかった物から属性による制限のかかった物に変わってきた。

 具体的には、「風竜の華」などである。氷系とか雷系とかではなく、風属性なら何でもいいという、汎用性の高いアイテムにシフトしだしたのだ。

 攻略サイトの情報提供板に入手報告は上がっていないが、最終的には制限なく使える「スピード・ポーション」などが手に入るのではとも言われている。



 ただ、こうやって課金アイテムがばらまかれるのを厭う人が出てきている。

 彼らは大ざっぱに三つの層からなっている。


 一つは廃課金者(トップ・プレイヤー)

 課金の力で弱点を補い、無課金者(他のプレイヤー)より強者であった部分のある人たちだ。一方的な優位性は薄れ、他との差がなくなれば課金しなくなる可能性が高い。

 特にばらまかれたアイテムの分だけ節約が可能になることもふまえ、課金が減速する可能性が高いだろう。


 もう一つはイベント前の俺のような課金アイテムに頼りたくない人たち。

 完全に趣味に走っている、一種の傾奇者(カブキモノ)である。

 アイテムによる強化をドーピングと言い換えれば、嫌う理由は分かってもらえるかもしれない。たとえそれが公式に認められた手段であっても、嫌なものは嫌だというわけだ。

 俺は直感で手に入れた傍から使っているけど、普段であれば薬物(アイテム)で強化することにいいイメージは無い。

 言い方を変えただけではあるが、むしろ悪いイメージの方が強いはずである。


 最後に、ゲームバランス崩壊を懸念する人たち。

 この手の問題に運営が鈍感であるはずが無く、課金アイテムの扱いは最も注意してやらなければいけない分野だ。

 何も考えずに課金アイテムを追加し続ければ、ばらまき続ければプレイヤーは引退していく。

 今は喜んでいるプレイヤーも多いが、次第にアイテムありきの考えになってしまえば、飽きていくのも早くなるだろう。

 中には「そろそろ『ドラゴンソウル・リンケージ』も終わりか?」と言い出す人も出始めて、ゲームバランス崩壊につながる危険性が指摘されている。



 ゲームバランス崩壊については、俺も思い当たるゲームがいくつかあるので否定しない。

 もしかしたら。

 そんな考えが俺の中にもあり、否定できないでいる。

 それもこれも、かつての路地裏をはじめとしたいくつかのゲームの終わりに立ち会ってきた経験からだ。


 ゲーム内の空気の流れが悪くなっている。

 否定する要素を、俺は持ち合わせていなかった。

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