5月2週目 今月の主産・配合報告
一夜明け、仕事を終えてログイン。
イベント前にある空き時間を使ってパヴァの様子を見ておく。
直接会うのは難しいかもしれないので、ステータスウィンドウでの確認だ。
パヴァの状態は「受胎中」となっていた。
オルファンは上手くやってくれたようだ。あまり時間も無い事だし、ならばオルファンを経由してパヴァの様子を聞くのが正解だろう。
オルファンは事務棟の執務室にいるので、そこに向かう。
執務室は個室ではなく、共同の作業部屋だ。よくあるオフィスといった形をとっており、彼女は通常のNPC事務員複数と一緒に仕事をしている。一人だけ別の部屋でやれば不都合の方が多いし、効率を考えればこの方が都合が良い。
俺が部屋に入れば何人かが俺の方に視線を向けるが、すぐに自分の作業に戻る。
オルファンはと言うと、俺の方を見ることなく仕事をこなしている。スーツに身を包んだOL姿のオルファンは事務仕事のリーダーをやっている。書類に目を通し、サインをして、たまに質問や報告に来た部下と言葉を交わす。完全にキャリアウーマン、それも有能な課長か何かのような風格がある。
「マスター、何かご用でしょうか?」
「いや、昨日の話だけど」
「マスターのような方でしたら、すでにステータスウィンドウで確認していますよね? パヴァさんの種付けは無事終了しました。お会いするのは難しいと思いますが、挑戦しますか?」
挑戦しますか、ときたものだ。
無理をする時間もないし、時間がかかりそうな行動は控えるべきだろう。それよりもイベントを優先しないと他の人に迷惑がかかる。俺は断りの言葉で返す。
そんな俺の行動は読まれていたようだ。オルファンは微笑むと「分かりました」と答え、そのまま仕事に戻る。
実際に何をやっているかは知らないが、あの書類は何を書いてあるのだろうか?
ちらっと一枚二枚書類に目を通すと、主に食料の輸入に関する物だった。
……凝っているなぁ。
俺は執務室を後にすると、クラブエリアへと向かった。
「で、結局何をしたんだろうねぇ?」
さて、昨日まではパヴァに掛かりきりだったが、うちにはもう一人親竜がいる。
オルファンだ。
オルファンは俺の補佐としての仕事を始めたが、一応親竜として最後の卵の孵化を待つ身でもある。
先月同様テンペスト・ドラゴン純血種を配合した子供が生まれる予定で、この子は養子に出す予定だ。先月の配合含め、プレイヤーが所有するテンペスト・ドラゴンに頼んだからだ。片方は俺が、もう片方は依頼相手が育てる予定で、雄が生まれたら優先して引き渡す約束をしていた。生まれた朔は雌だったので先月は俺が引き取ったので、今月は雄とか雌に関わらず養子に出す予定だ。
このことはオルファンにも説明済みで、納得してもらった。
事前に話さえ通っていれば精神にダメージを与えることも無い。
そうなると俺もオルファンの子に向ける関心が薄くなり、扱いを粗雑にするという事は流石に無いが、構う事は少なくなる。
その分イベントに専念できると考え、あまり気にしないでおく。
薄情と言われるかもしれないが、事前に話が通っていようが俺は気に病むのだ。情をわずかにでも交わせば手放せなくなるかもしれない程度に。
そんなわけで俺の牧場、今月の出産は実質0であり、来週にまた新しい子を購入する予定。
その分資金を圧迫するが、親竜1頭でやっているのだ。今まで毎月補充できていたこと自体が幸運だったのだ。あまり贅沢を言ってはいけない。
だからと言って親竜を増やすのは今のところ予定にない。俺のプレイスタイルと言うか、がっついた効率重視のやり方はしたくない。ドラゴンを増やしすぎて管理が行き届かなくなるのではない。ドラゴンを記号的に扱ってしまうのが嫌なのだ。
ゲームは楽しむものだし、VRのNPC付き合いはリアルのそれと同列にしたい。なので、変な所でこだわりを持ってしまう。
人によっては馬鹿にするところだろうが、俺はこれでいいと思っている。あんまり忙しすぎるプレイも、ガッツリ深みにはまりこむプレイも俺の望むところではないし。
でも。
たまにはオルファンを連れて会いに行くのもいいかもしれない。
それぐらいは構わないだろう?
最後に、今月の配合関係の余談ではあるが、キティが何をやったのか。
しばらく間が空くが、本人から何があったのかを聞くことに成功した。
キティは猫の性行為について動画などを用いて訥々と説明し、羞恥心を煽ったらしい。
もともとこのゲームのドラゴンの交配は雄が精石を作り雌がそれを飲むことで成り立つという、ごくごく簡単なものだ。18禁ゲームではないのだからそう言った描写が簡略化されるのも致し方無いだろう。
人間のそれなら18禁としてアウトを食らうのだが、動物のそれは学術目的という事でスルーされたらしく。パヴァは動画を見て、俺とそういう事をしなければいけないという認識を持つに至り。倫理観か羞恥心か、はたまた常識がそれを拒否したのだろうと推測される。
方法も聞かずやらせた俺が言っていいことじゃないが、もう少し手段を選んでほしかった。
ちなみにパヴァの精神が安定したのは翌月、初仔が生まれた後である。
それまでは会うたびに逃げ出す、そんな状態が続くのだった。




