1月2週目 パヴァ④
先週、無敗の快進撃を続けた俺とパヴァ。
見事オープンクラスに昇格したのだが。俺はタイトル戦への挑戦を、回避し続けていた。
その理由は、俺のスキル不足だ。
タイトル戦に挑戦するにあたり、レギュレーションの確認をするのは当然の判断だ。
コースは最短の12㎞から最長でも16㎞に限定するとして、GⅢというタイトル戦の中でも与しやすいグレードのレースは年間に18タイトル。
中には年齢制限や雄限定もあるので、雌ドラゴン2歳のパヴァが出られるのは実質11タイトルとなっている。
多くの人が参加するゲームだけに、同じレースは年間に何回も行われたりするのがこの世界だ。一応、一つのタイトルに対しドラゴンごとでなくプレイヤーごとに登録できるのは年間に一回だけという制限が設けられているし、重賞ごとにインターバルを要求されるので、そうそう何回も挑戦出来はしないのだが。
だが、いつ挑むかは完全にプレイヤー任せとなる。
他の友人と相談して同じレースに登録することや、ライバル視しているドラゴンに合わせて登録準備をセットすることも可能となっているなどの遊び要素もあるが、ライバルなどの類はいないので、この機能はしばらくスルー。
とりあえず登録しようかという段階で、気の迷い程度の考えが頭をよぎった。
タイトル戦に挑むドラゴンって、どれぐらい早いんだろう?
一回思いついてしまえば、考えを頭から振り払うのは困難だ。
それで他のドラゴンのレベルを確認するために、一回、登録予定のレースを見に行ったのだが。
「格が……違う…………」
実際に何度も自分でレースを飛んでみて、騎手としてレベルアップしていたから分かってしまう。
ここに出ている、飛んでいるドラゴンの騎手は、俺より遥かに格上だと。
パヴァの能力だけで言えば、互角以上に戦えるはずだ。
スキルはまだ成長段階、能力値も若い分だけ低いとはいえ、かなり高性能のパヴァだ。実力を発揮できれば勝てると信じている。
だが、肝心の俺は、どう言い繕っても「勝ち目がない」と断言できる。
3次元的なコース取り、竜群の中での駆け引き、スタミナの分配。学び、成長しているとはいえ、ここで戦う騎手は――それこそNPCも含めて――俺より上手い。
今までのレースではパヴァの高い能力、それに助けられてようやく勝っていたのだと、現実を突き付けられた。
勝利に浮かれていた分、俺の心は割と簡単にへし折れてしまう。
そのため、俺はレースにも出ず、3日ほど訓練で時間を費やしているのだった。
訓練の内容であるが、やはり重視しているのは連携訓練である。
パヴァのスキルの方も順調に成長し、新たに「コミュニケーション・ツリー」が解放されていた。
ドラゴンのスキルは、レースや訓練で経験値を溜め、能力値を伸ばしていくと習得できるようになる。
スキルは「スキルツリー」の形で習得可能なモノが増えていく仕組みだ。
いくつかパターンはあるが、常時発動・任意発動の“能力値上昇系”、属性や種族による任意発動の“加護系”、先ほど解放されたような騎手との連携を助ける“会話系”、障害物対策の“ブレス系”、コースの気象条件を変更する“天候系”、特定のレース条件で実力を発揮する“勝負師系”。
これらスキルの起点となるモノを習得し、鍛え続けるとさらにその先を習得可能になるのだ。
中には複数のスキル保有が前提条件という難しいものもあり、スキル構築に関しては攻略サイトおすすめの「定番セット」もあるが、その是非については何年も経った今でさえ、結論は出ないでいる。
複数のツリーを取った方がバランスよく、応用が利くドラゴンになると言う者もいれば。
特定ツリーをコンプするほうが、出られるレースは減っても「勝てる」ドラゴンになるという意見もある。
ドラゴンごとの特性を見極めて最適解を探そうとする流れもあれば、初心者向けなど汎用性を求める場合もあるし。本当に難しい問題だ。
あと、その他ツリーの中に紛れ込む特殊なスキルも存在するが、そちらで有名なのは『純血スキル』だろう。特定種族のみで祖父母が構成されている場合と、その子供にのみ解放されるスキルだ。俺の牧場に来たリザがサンダー・ドラゴンの純血種で、≪紫電の鱗≫という常時発動スキルを保有している。
スキル解放条件の一つ、「コミュニケーションをとった時間が規定時間以上」を満たしたので今回は会話系のツリーが解放されたわけだが、習得したのは≪意思伝達≫という、感情や指示の伝達を助けるスキルだ。リザが人間の言語を話せるのは、このツリーの2~3個上にある≪人間言語≫のスキルを保有しているからだ。
最終形態の≪人竜一体≫までいくと、そのスキル単独でかなりボーナスが期待できるのだが、他のスキルを諦めねばならないというデメリットもある。ついでにそこまで育てきるのも大変だったりする。
意思の伝達が正確にできるようになると、連携効率が上昇し、戦術的な思考も共有できるといったメリットがある。普段からの生活でも要望を正確に理解できれば、精神的負荷を大幅に下げるよう待遇を改善することもできる。レースで負け続けた時など、落ち込んだ時のケアもしやすくなる。
今の俺のようにドラゴンの能力が高い時に特に有効なスキルとしてネットの攻略情報やキティからもお奨めだったこともあり、優先して習得させたのだ。
「パヴァ、俺の言葉が分かるか?」
「クルゥ!」
どうやって効果を確認しようかと思って、悩んだ末に出てきた言葉がこれである。
言われても意味が本当にわかるか不安だったが、パヴァは「分かったよ」という意思を込めた返事とともに、右の翼を上げて態度でもそれを示す。
スキルの効果があったことに安堵と喜びを覚え、「ふー」と、大きく息を吐く。
すると少し気の抜けた俺に対し、パヴァは俺に不満を訴えだした。
「クルゥゥゥゥ!! クゥゥゥゥ!!」
なんとなく、「最近つまらない、面白くない!」と言っているのが分かった。
訓練ばかりで、面白くないという事か?
「クルゥ!」
「レースに出たい」と、パヴァはそう訴えている。
「んー。じゃあ、レース、出ようか」
「クルゥゥゥゥ!!」
重賞はまだ早い気もするし、そちらにはもう少しスキルを育ててから一気に挑めばいいかと軽く考え、OKを出す。オープン戦で俺の経験値を稼ぐのも悪くないだろうという思惑もある。
とたんに喜びだしたパヴァに苦笑しつつ、俺は出走登録の画面を呼び出した。
すると。
「クゥ、クルゥゥゥゥ!!」
意訳すると、「もっと速いドラゴンと飛びたい」である。
パヴァがタイトル戦に挑戦したいと、言いだした。




