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5月1週目 三味線⑤

 人間、独りでできる事などたかが知れている。

 いずれはレベリオン・クラブを出て独立し、一国一城の主になりたいとか考えてはいるが、それは独りぼっちの王国を作りたいわけではない。


 では、今の俺が独立したとして、一緒に付いてきてくれる人はいるだろうか?

 答えは、「いない」だ。


 方向性の違いというか、レベリオン・クラブの雰囲気が合わないと感じて独立を前提に考えていたわけだが、何度か衝突し、アバドンや宙鳥といった面々と関わることで、多少愛着がわいたというか居心地の良さを覚えたというか。以前ほど「独立したい」という感情が自分の中に無いのは確かだ。


 いや、この言い方は卑怯か。

 俺は、レベリオン・クラブを気に入りつつある。それだけの話だ。





「ああ、そういう訳でな。三味線には悪いが、移籍は無しだ」

「しゃあねぇな。ま、ダメ元で聞いただけだし、気にすんな。こっちはこっちで、他の奴を探すさ」


 「自分たちの(クラブ)に来ないか?」という三味線の誘いであったが、俺はそれをきっぱり断る。

 以前であれば、先月にこの話をされたのであればレベリオン・クラブを抜ける事に戸惑いを感じず、「必要とされるのなら」とクラブ移籍の話を受けただろう。

 しかしだ。何度か揉め事を起こし、多少は関わり合いになったことで縁を結び知己を得て、離れにくくなってしまった。三味線には悪いが、多少の利をチラつかされたところでそれ以上の魅力とは映らず、断ることにしたのだ。

 それに、勧誘された理由が「引退宣言し、抜けた奴がいるからその穴埋め」であれば移籍したいと思うのも難しく、「誰でもいいんじゃないかなー」とまで思ってしまう。このあたりは自分でも変わった感覚をしていると思うし、微妙なニュアンスによる変なこだわりでしかない。

 回りくどいが、結論だけ言えば「なんとなく嫌」という事だ。



「しかしまぁ、オマエが駆け込み寺の坊主になるたぁ、世の中分からねぇな」

「坊主って。本当に長居するかどうかも分からんよ? キティに誘われて入っただけだし」

「路地裏の時とほとんど変わらねーよ」

「……言われてみれば、そんなもんか」

「ああ、オマエは妙にものぐさだからな。一回腰を落ち着けたら、まず動かねぇ。心当たりは充分だろ?」

「確かに」


 三味線は|ケモ度4の猫アバ《猫が2本足で立っただけ》にジャケットに帽子といった釣り師ルックでお茶をすする。

 俺の牧場の応接室で応対していたのだが、「クラブの移籍」という話し合いが終わればただの駄弁りへと中身は変わる。今は三味線が持ってきた新鮮な海鮮類で作った刺身の盛り合わせを堪能しつつ、昔話に花を咲かせる。お題は俺がヤンチャをしていた時分の出来事だ。


「まー、あのころと比べれば、俺達も(まる)くなったモンだな」

「直接対戦するゲームをやってれば、多少は荒々しくなるだろ」

「それでも、カチコミする理由の大半は「ムカついた」だけだろ」

「……いや、仲間を守るためとか、大義名分は常にあっただろ?」

「口先分だけな」

「ヒデェ」


 昔は馬鹿をやったものだと、二人でケラケラ笑う。

 人間の姿ではなかったが、路地裏では他人をぶちのめすことが楽しく、暴れまわっていた。その結果が勢力拡大として反映されるので、なおのこと暴れるようになっていった。最終的には広すぎる領土を切り売りしないと維持できなくなり、やりすぎと怒られることになるのだが。


「酷いと言えばそうだ、そういえばオマエが怒った時は酷かったな」

「?」

「拷問事件だよ」

「ああ」


 あれはちょっとした喧嘩がきっかけだった。

 どのゲームでもある話だが、システム上、嫌がらせができるゲームというのが多々ある。あの時はストーキングというか、標的にされた仲間が徹底的に集中リンチを食らったのだ。その仲間はゲームを楽しもうにも毎回ボコボコにされ、フラストレーションが溜まって引退してしまった。こういった行為は「粘着」と呼ばれ、システム上OKであってもマナー違反とされる事だ。

 運営側に抗議したが埒が明かず、ムカついた俺は何人かの仲間を率いてやり返したのだ。


 奴ら以上に、徹底的に、心が折れるまで。


 さすがにそれは運営が動き「やりすぎ」と言われることになったが、そういった行為を見て見ぬふりをして見逃してきたのも運営だ。逆手にとって「敵」の行いも悪と認めさせ、俺たちのやったことも「運営がOkを出した範囲」として処理させた。基本的に言質は全て取ってあったので運営も折れざるを得ず、俺たちごとであったが処分を受けさせることに成功した。


 あの時の事を思い返しても「いい仕事をした」としか思っておらず、後悔の類はしていない。

 少なくとも、今の俺は別な手段をとるかもしれないが、似たような状況であればやることはやるだろう。その程度の矜持はある。



「けど、あの後は身内も俺たちに厳しかったよな。特にキティとかは「やりすぎニャ!!」って叫んでた」

「ああ、そうだったなぁ」


 あの事件の被害者には、キティも混じっていた。

 キティはある程度の腕はあったが精神的な面で脆い部分があり、わりとキツそうにしていた。

 そんなときに俺たちが事件を起こしたので、あの件ではさらにキティへ負担を掛けた。被害者だから守ってもらえるわけではなく、追撃する奴がいるのも良くある話だ。キティは被害者でしかなかったのに加害者のごとく扱われ、酷い目にあったと聞いている。

 ただ、キティはそういった事を一切俺たちに漏らさず、単純に俺たちの事を案じていた。実に人間の出来た娘さんだと思う。


「で、オマエとキティって、付き合ってるのか?」

「それは無い」


 そして。

 この件に関しもう一つの噂が仲間内に広まった。


 俺とキティが、付き合っているのではないかという話だ。

 あそこまで俺が暴れたのも、恋人(キティ)を傷つけられたことで俺が怒り狂ったから、という訳だ。


 断言していいが、それは無い。

 俺たちの間にいろいろと事情はあるし、路地裏をやっていたのもキティに誘われたからだが、それは無い。この辺りは人に言いにくい事情があったりする。



 手を変え品を変え、三味線は俺とキティの関係を探ってくるが、人に教えることは何もない。

 俺はキッパリと追及の手を断ち切り、いい加減鬱陶しくなったところで奴を追い出した。

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