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1月1週目

 休憩を挟みつつ、訓練を続けること3時間。

 それもようやく終わりを告げた。

 これで今週の訓練は一通り終えたことになる。



 このゲーム、俺の場合はリアル1ヶ月が1年に相当する。

 サーバーごとに設定が違うのだが、俺の使っているサーバーはそういう設定でやっている。

 で、レース用ドラゴンの訓練なのだが……これ、一週間単位で「訓練ポイント」なるモノが発行され、それを消費して「能力値の伸びる」訓練を行うことが出来る。さっき終わったというのは能力値側の訓練の話だ。

 PS(プレイヤースキル)ならびにドラゴン側のPSに関しては上限が無く、レースに出たり訓練することで「制限なく」育成可能になっている。このゲームはドラゴンにA(アドヴァンスド)・AIを使うことでドラゴン側のAIのPSを育成する楽しみもあるという訳だ。


 あと、ただのスキルの方もやはり制限なく成長させることが出来るのだが。これについてはまあ、今はあまり選択肢もないし、急ぐ気はない。

 スキルツリーと熟練度、ならびにスキル解放条件の話はまた今度、だ。





 訓練が一通り終了して、パヴァとの連携状況に関する感想だが。

 まあ、酷いな。全然駄目だ。


 まず、タイムラグが大きい。

 こちらが指示を出してからパヴァがそれを実行するまでの誤差が約2秒。

 時速1000㎞オーバーの世界では、約560mもの距離を動いてしまう。下手をすると最高速度の時速1500㎞のときに、約830mとほぼ1㎞も誤差が出る。


 また、指示が上手く伝わらず、こちらの意図を誤解することもあった。

 加速と減速に関しては8割以上の精度で伝わるが、それ以外、旋回やコース取りに関してはまだまだお互いの経験が少なく、回数をこなさねばならないようだ。俺自身がもっと効率よく指示を出せばその合理性から理解しやすくなるのだろうが。きっと指示の中に、多くの無駄が含まれているに違いない。



 これは最初の結果なので、そう悲観するつもりもないが。現実は厳しいと思い知らされてしまった形である。

 実戦訓練という事で明日からはまたレースにガンガン出場して賞金を稼ぎつつ、レースの経験を重ねなければならない。


 そんなわけで、明日のランクアップ戦を登録し、今日のところはログアウトすることにした。





 翌日。朝からレースを入れてあるが、これが終わっても連続で2~3戦は追加する予定だ。

 今日の内にレースのランクを可能な限り上げる予定だ。


 ドラゴンレースにはいくつかランクがある。


 レース未経験の「新竜戦」

 未勝利ドラゴンのみで行う「未勝利戦」

 獲得賞金1000万円以下の「1000万以下(戦)」

 獲得賞金2500万円以下の「2500万以下(戦)」

 獲得賞金が2500万円を超えたドラゴンによる「オープン戦」

 そして、重賞競走、タイトル戦と言われるG(グレード)Ⅰ、GⅡ、GⅢという格付けされたランクだ。


 細かいレギュレーションについては横に置くが、とにかく若いドラゴンは多くのレースに出て、賞金を稼ぎ、早くランクを上げるのが大事だ。

 出遅れようものなら格下の中で長い間燻りかねない、そんな危険性もあったりする。初期に躓き長い間低ランクに甘んじるとそれが当たり前のようになってしまうのだ。中にはわざとスロースタートにして、マイペースに格上げしていくドラゴンもいるようだが。大概は「出遅れ=凡才ドラゴン」の図式が成立する。


 ちなみに、レースを詰め込んだところでドラゴンに疲労が溜まるとか、そんなことは無かったりする。このゲームにレース疲れという概念はない。詰め込んだところで、勝っている分には問題は出ない。負け続けると、詰め込んだところで無駄どころか悪い結果になりかねないが。

 レースとレースの間に休養期間を設けて、悪い精神状態をリセットするといった戦略は有効なんだけどね。

 まあ、レース間隔についてはドラゴンや自身の精神的な負担と相談という事で。ネット上の攻略板で出ている結論はそうなっている。



 そんなわけで、待ち時間ほぼ無しで1000万以下のレースに出走する。

 前回同様、自分に賭けれるだけお金を賭け、必勝を誓う。


 今回のレースは距離が少し伸びて16㎞。前回のように最初から飛ばさず、ペース配分を間違えなければ十分対応出来る距離だ。

 昨日の練習では20㎞のコースをレース感覚で飛んでみたが問題なかったし、コースレコードも良好だったので、自信はある。


 不安材料が一つあるとすれば、ドラゴンの群れの中に追い込まれた時だ。

 前回は直線コースだったので他のドラゴンと触れ合う距離で飛ぶことなど無かったが、今度のコースはカーブを挟んでいる。コース取りが重要になるし、群れの中に埋もれた時の脱出は俺もパヴァも未経験だ。

 作戦としては先行逃げ切りを狙うつもりだが――こちらに都合のいい展開をやらせてもらえるかは、賭けに近い。

 まあ、不安だからと12㎞専門になるつもりなどないが。





『みなさんおはようございます。本日はここ、雲海競技場よりお送りしています。実況はワタクシ『クロフネ』と』

『解説はみんなのアイドル『キャロライン』がお送りしまーす』

『さて本日第一Rは新竜戦を勝ち上がってきたドラゴンによる1000万以下。予想のできない一戦となっております。キャロラインさん、だれか注目の選手やドラゴンはいますか?』

『キャロラインは、5番の『パヴァ』ちゃん一押しかな?』

『ほうほう。理由をお聞きしても?』

『綺麗なホワイトドラゴンみたいなのに、ウィンド・ドラゴンだから! 珍しい子みたいだし、短距離と言えば風属性が有利でしょ?』

『そうですねー。オッズも単勝1.6倍と一番人気。注目を一身に集めていますねー』

『でもね? 騎手の猫村さんの名前は前回いきなりラストスパートをかけた初心者なの。そこだけ心配かなー?』

『ふーむ。ドラゴンのみならず騎手まで新人。いや、逆に面白そうじゃないですか。っと、全ドラゴン発着ゲートに入りました。間もなくレースが始まります』 



 ……あれは、当分言われそうだな。

 微妙な気分にさせられる実況と解説のついたレースに少しテンションが下がるが、レース前だと自分に言い聞かせて気持ちを切り替えようとする。


 レース開始を告げるシグナルが、赤から青に変わる。

 そしてゲートが開き、俺たちは一斉に飛び出す。


『各ドラゴン、一斉に飛び立ちました。16番、フリーダムナイトが出遅れ、他に遅れはありません』

『あちゃー。かなり引き離されちゃったねー』

『先頭に飛び出しましたのは、5番、パヴァ。それに続きまして8番、クロクヒカルアイツ。少し離れまして1番、ウィンドスクラム。こういったところが出てまいりました』

『パヴァちゃんいいスタートだったねー』


 最初は9割程度のスピードで。

 このまま最後まで持てばいいが、それは厳しいというのが俺の感触だ。途中で順位を落としてでもペースダウンしないといけない。後ろに張り付いている8番(クロクヒカルアイツ)が嫌な感じだが、マイペースを保たないと。


『最初のカーブに入ります。先頭、依然5番、パヴァです。8番、クロクヒカルアイツはややペースを落としたか?』

『先頭から最後尾まで約2㎞かな? 結構広がったね』

『先頭集団3頭と後続の間でも1㎞ほど空いております。先頭パヴァ、やや展開の早いレースになっております』


 雲海競技場のコースは最初に直線5㎞、緩やかなカーブが4㎞ほど続き、ラスト直線7㎞につながる。

 コース場に浮遊岩は無いが、時折、雲がコースに入り込み、障害物となる。

 今日は風があまりないので今のところコース場に入り込んだ雲は無いが、コースのやや高めを飛んで雲に備える程度の気配りをしている。


 中盤、カーブまでは速度を維持しつつ飛んできたが。カーブ中盤でペースを落とし始め、ラスト3㎞に備える。


『カーブも出口に近づいてまいりました。カーブを超えれば最後の直線。大勝負といったところです』

『パヴァちゃんにクロクヒカルアイツが迫ってきたね。あ、あ、あ! 先頭が変わった!!』

『先頭、変わりまして8番、クロクヒカルアイツ。5番、パヴァは2番手です』


 ペースを落とした分、順位を落としたがここまでは計算通りである。

 竜群に巻き込まれなかった分、パヴァのスタミナと精神状態には余裕がある。前足に伝わる体の感触から判断する限り、状態は決して悪くない。

 パヴァをクロクヒカルアイツの後ろに着けさせ、スリップストリームと洒落こませてもらう。


『さあ、泣いても笑っても最後の直線! ここで追い込まずどこで追い込む! 各ドラゴン、一斉に飛んできたぁ!!』

『クロクヒカルアイツとパヴァちゃんの一騎打ちだね!! 2頭並んで先頭争いだよ!!』


 ラスト3㎞。ここで≪限界飛翔≫を使い、一気に追い込む。

 最後の直線、前半4㎞は体力の温存をさせてもらった。スリップストリームはこのゲームでも有効だったらしい。

 体を捻り、ギリギリで躱すように前へ躍り出る。


『並んだ!? いや、追い抜いた!! 先頭はパヴァ、先頭はパヴァ!!』

『一気に引き離すよ! クロクヒカルアイツは止まった!?』

『パヴァ早い! パヴァ早い!! クロクヒカルアイツは止まった! 一気に引き離す!! 他はもう見送ることしかできない!!』

『このままいっちゃえーー!!』


 溜めた翼を一気に解放。最高速度までギアを上げる。

 最後まで持つし、もっと往けそうなぐらいスタミナが残っているのが分かる。


『1着はパヴァ、2着クロクヒカルアイツ、3着フリーダムナイト。1着はパヴァです。このドラゴンは強い! 実力は本物か!?』



 この日。コースレコードを叩き出し、晴れて2勝目を挙げたパヴァと俺はそのまま3勝、4勝と勝ち星を重ね、オープンクラスへ一躍名乗りを挙げた。

 そのままゲーム1週目は連戦連勝を続けていくことに成功したのである。

5月14日 誤字修正

× 『最初のカーブに入ります。戦闘、依然5番、 →

○ 『最初のカーブに入ります。先頭、依然5番、

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