さよならを一発
理子が好きだ。
この想いは絶対に嘘じゃない。
だけど、
どうしてこんなにもあの女は心を揺さぶり、
俺の中に居座り続けるのだろう…。
小松 藍、という女------ー。
細くて、小さい体で誰よりも力強く働き回る女。
正直いってタイプではない。
少し抜けてて、天然バカなタイプが俺は好きだ。
デキる女と仕事をするのは、一秒たりとも気が休まらない。
だから藍と組んで仕事をするのは嫌だった。しかし、パートナーとしてはフォローもうまいし、気もきくし、何より頭が切れる。
最高にいい仕事をするから、こいつが男だったら仲良くしたいとか何回も思ったことがある。
ただ一回だけ、
仕事の接待で二人ともやたら呑まされて、
藍はあまり酔わないタイプなのに、その日はなぜか酷かったため、
どうしようもなくてタクシーで送って帰った。
藍は一人では全くといっていいほど歩けなくなっていて、
おんぶして部屋に行き、置いて帰ろうとした時、
「ごめんね…ごめんね…アナタのこと好きになっちゃった…」
突然、俺を見て泣き出した。
その姿が小動物のようで守ってあげたくなって…
でも俺の頭には理子が浮かんで、
「ごめん。」
と言って立ち去った。
次の日からまた仕事は普通にあって、藍と会うのが辛かったが、
藍は何もなかったかのように過ごしていた。
酒で記憶が飛んでいる。
そう思って俺も普通に接していた。
だけど、あの日のあの顔、あの声、あの香りは俺を離してはくれなかった。
俺は接待のあと、この日はそんなに酔ってはいなかった藍を引っ張って家につれて帰り、押し倒してしまった。
最初は抵抗していたが、
「…っ好きなのっ…」
と言って、俺を求めてきた。
俺らは飽くなく抱き合い、付き合うことになった。
しかし、俺は理子との関係も切れずに続けてしまっていた。
そんなある日、理子はニコニコと笑って
「赤ちゃんデキちゃったの。3ヶ月だって。」
と告げてきた。
俺は頭が真っ白になった。
「…産んでもイイ?」
理子は下から不安そうに俺を覗いた。
俺はこういうしかなかった。
「あぁ。結婚しよう。」
今度は頭の中には藍の顔しか浮かばなかった。
理子を送って帰った後、藍に電話をかけて会う約束をした。
待ち合わせ場所にやってきた藍は、
「突然何よ…」
と言いながら、眩しく微笑んだ。
その眼を一瞬で逸らしてしまった。
「ごめん。俺二股かけてた。」
藍の眼は瞬時に濁った。
「別れ…たいの?」
俺は頷きながら告げる。
「子供ができたんだ…」
藍は放心した。取り乱すことはなかった。
「…彼女がいることは知ってた。でもそれでもよかったの……
ねぇ…一発殴らせて?」
涙をその瞳からこぼしながら言った。
「眼を瞑って。」
俺は言われた通りにした。それくらいは当たり前だと思った。
足音が近づいてきて、俺は歯を食いしばった。
ちゅ……-------
耳元で「バイバイ」と告げて、藍の足音は消えていった。
「痛ってーー…」
俺は頬を押さえて、その場にしゃがみ込んだ。
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