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拙い朗読師
あれから、男は毎日その時間に現れるようになった。
聞こえてきた会話によると、仕事の都合で抜けられる時間が変わったのが要因のようだ。
リハビリで疲弊した後で聞かされるヘタクソな朗読はいつまで経っても上手くならず、私は男の朗読に対し、心の中で辛辣な評価をぶつけながら眠りにつくのが日課になった。
ある日、私は看護婦に質問をしてみた。
あの下手くそな朗読師はなんだと問い掛けると、私に声を掛けられたことに驚いたのか、その看護婦は少しばかり上擦った声音で答えてきた。
どうやら、あの男は娘の見舞いに来ているらしい。
男手ひとつで娘を育てている男は、娘が寂しくないように毎日お話を聞かせに来ては、一冊を読み終えると会社に戻っていくそうだ。
うるさいなら病室を変えてもらえるように頼んでみましょうか、と聞いてくる看護婦に面倒くさいから不要だと伝えると、私は会話は終わりだとばかりに横になった。