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眠れぬ日々
リハビリが始まると、眠れない日々が続いた。
体に力が戻る度に、これが現実なんだと痛感する。
体が悲鳴を上げる度に、世界に光が無い事実を思い知らされる。
「頑張って!」
そう声を掛けるあの人達は、努力を重ねれば奇跡が起こるとでも言いたいのだろうか。
奴らに目のことを聞いてやると、誰もが言葉を濁して逃げ出した。
私の神経が磨耗するのと合わせるように会話は減り、今では必要最低限な会話しかしない。
今日もいつもと同じように、リハビリを終えて病室へと戻ってくる。
すると、今日は私の後ろから続いてくる者がいた。
「遅れてごめんよ!」
そう言いながら駆け込んできた男は、どうやら同室者のお見舞いに来たらしい。
思わず振り返った私に対して「す、すみません!」と声を掛けると、男は奥へと向かっていった。
私がベッドに横たわっていると、いつもは静かな病室内に男の声が響き渡る。
それはとても拙い朗読だった。
男は誰でも知ってるような童話を、何度もつっかえながら、無駄に大きい声で読み上げていく。
私はその騒音に心の中で酷評を並べ立てながら、久し振りに瞼が重くなっていくのを感じた。