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取り戻したもの
「お金の心配は要りませんからね。」
そう安心させるように説明する医者の言葉を聞き流し、私はもう一度目を開く。
居眠り運転に遭遇した私は、全身を激しく打ち付けた。
特に頭部を強く打った私は、長い時間を意識を失ったまま過ごしていたようだ。
私が目を開いたとき、眼前にはどこまでも続く闇が広がっていた。
打ち所が悪かったらしい。
なんとか意識を取り戻した私だったが、こちらは取り戻すことが出来なかった。
恐らく、頭部への衝撃が原因だろう。
視力の回復は難しいだろうとのことだった。
「治療費については全額を運転手の方が負担してくださるそうです。」
私の状態を説明した医師は最後にそう付け加えると、席を立った。
離れていく足音を感じながら、私は他人事のように「ああ、自分は二度と本を読めないんだな。」なんて考えていた。