センパイかっこいいっス。
「くんたまが食べたいっス」
僕は突然そう思った。
自分の部屋でごろごろしてたら、突然にそう思ったのだ。
「くんたま…… 食べたいっス」
くんたま…… 燻製卵。
あの茶色くておいしい卵料理。
おつまみにもおやつにも最適な、とってもおいしい卵っス。
あぅ…… よだれ垂れてきたっス。
ふかなきゃ。
「コンビニ…… 行こうかなぁ」
僕はベットからむくっと起きて考える。
今は夜の8時。
外は冬で寒い。
父さんと母さんは仕事へ出かけてて今夜は帰ってこないから頼めない。
「む…… 寒いのはいやっス」
でも……
「でも…… くんたまが食べたいっス……」
よし…… 行いくっスよ。
僕はそう決めると、ゆっくりと立ち上がって仕度を始める。
センパイが買っててくれた、首元がもふもふのコート。
母さんがくれたふかふかの白のマフラー。
雪さんがくれたふわふわの耳当て。
自分で買ってきたぬくぬくの手袋。
「よし…… 僕、いま無敵っス」
完全防寒っスよ。
僕は鏡を見て自分の姿を確認する。
うん、あったかそうっスね。
さて…… 近所のコンビニまで徒歩五分っス。
玄関をでたら…… 戦いっスね。
いくっスよ…… せーの。
僕は少しだけ扉の前で躊躇したあと、意を決して扉を開ける。
「わぷ…… うぅ… さぶいっスよぉ……」
外は冷たい北風がぴゅーぴゅー吹いてて…… 本当に寒いっス。
鼻を通り抜ける北風が、つんとして少しだけ涙がでてきました……
「うぅ…… 僕… 負けないっス… 待っててください、くんたま」
僕はガタガタ震えながらとぼとぼと夜の町を歩き出す。
吐き出す息は、本当に真っ白で、外は本当に冷たい。
鼻の頭が冷たくてじんじんする。
多分これ鼻の頭赤くなってるっス。
こんだけ寒いと…… なんだかちょっと切ないっスね。
「センパイは…… 今はなにしてるっスかね?」
僕は「はふぅ…」と息をはいて、空を見上げる。
今日は曇ってるせいで、お星様もお月様も全然見えないっすね。
「あ…… そうだ、今度帰りにセンパイとコンビニ寄ろう」
センパイなら僕にくんたまと暖かいお茶とピザまんを買ってくれるはずっス。
今の僕はくんたまとピザまんをいっぺんに全部は食べきれないっスけど……
きっと残りはセンパイが食べてくれるはずっス。
センパイはきっと肉まんを食べるはずだから、僕はそれも一口もらうっス。
あ、ぶらっくサンダーも買ってもらおうかなぁ……
お土産にゆきみだいふくも買ってもらおう。
うん……
「それ、いっスね…… そうしましょう」
僕は空を見上げてそのまま歩く。
いつもだったらセンパイが「前見て歩け!」って言って僕の手を引っ張ってくれる所っスね。
「はぁ…… 息が白いっス」
さぁ…… コンビニいくっスよ。
くんたまが僕を待ってるっス。
――――
「やっとついたっスぅ…… さぶいっスよぉ」
はぅ…… はなみずがたれちゃいそうっス。
むぅ…… ティッシュどこっスかぁ…
あぅ… 忘れてきたっス。
………ハンカチでふいちゃお。
さて…… さっそくコンビニに入るっス。
きっと暖房でぬくいっスよ。
でも……
僕、暖房苦手なんすよね。
長居すると気持ち悪くなっちゃうんスよ。
はぁ…… まったく。
だからすぐ帰るしかないっスね。
まぁ、とりあえずは入るっスよ。
……………ん?
あ……… うぇぇ……
「………不良がいるっス」
コンビニの前に若者がたむろしてるっス。
むぅ……
なんで夜のコンビニにたむろしてる若者ってこんなに怖いんすかね?
前からちょっと怖いって思ってましたけど、女になってからはなお更っすよ。
だって今の僕、体ちっちゃいっスもん。
それに体のあちこちがぷにぷにで筋肉ないっすもん。
きっと絡まれて喧嘩になったら…… ああなって、こおなって…… 僕がはんげきして…… 相手がこう来て……
あ…… 負けた。
うぅ…… やっぱ僕弱いっス。
どうしようっスかね?
このままじゃコンビニは入れないっス。
だけどこのまま外で突っ立てたら凍死しちゃいますもん。
ああ……
詰んだっス。
「お……? 君……」
「え………」
僕がそんな事を考えていると、不意に若者の一人が僕の方へと向かってきました。
え?
ええ?
カツアゲっスか?
僕の事カツアゲするんすか?
僕の全財産は351円っスよ?
あわわ……
「やっぱりだ! 君、朱音だろ? 俺の事覚えてないか? 斉藤雄大だよ!」
「え……?」
さいとーゆーだい?
だれですか?
「……覚えてない?」
「残念ながら……」
「君の教室まで行って…… 名前を名乗ったんだけど……」
「覚えてないっス……」
不良さんが僕を見つめながらそんな事を聞いてくる。
僕は突然迫ってきた不良さんに緊張してしまって、聞かれたままに答えてしまう。
あ…… あれ?
なんか…… この不良さん、ちょっと不機嫌な感じになってませんか?
僕…… なんか変なことでも意ってしまったのでしょうか?
「君は俺に喧嘩でも売ってるのかな?」
「へ……… 売ってないっスよ? 僕はくんたまを買いにきたんス」
あれ……?
なんかもっと不機嫌になったス…… なぜ?
「馬鹿にしてんのか……? 俺を学校の女子が知らないハズはないんだよ、ましてやあれだけしっかりと自己紹介して忘れられたことなんて無いんだよ!」
「えぇ…… ご、ごめんなさいっス、僕人の名前覚えるの苦手で」
僕…… 未だにクラスの人たちの名前、全員覚えてないっスもん。
「ちっ…… もういい」
そう言って不良さんが僕の腕を掴む。
うぉ…… 力つよいっス…… いたいっス。
「じゃあ忘れられなくしてやるよ……」
不良さんが僕を見下ろしてニヤリと微笑む。
「あ…… あの…… 僕、くんたま買いに来ただけなんで」
僕はそう言って逃げようとする。
なんかやばい気がするっス……
「うるせぇ!! 黙って付いてこいよ!!」
「ひゃ…………」
うぁぁ…… こわぁぁ……
めっちゃこわいっス……
男にすごまれるとこんなに怖いんすね……
センパイが普段いかに優しくしてくれるかが分かるっスよ。
やっぱセンパイは優しいっス。
とりあえず…… 逃げなきゃっス
えっと…… なんか言い訳を…… そうだ。
「あ…… あの…… 彼氏さんに男に触れさせるなって言われてるんで、触らないでくれますか?」
彼氏がいる女子に手を出そうとなんてしないっスよね?
これで、多分大丈夫っス…… よね?
「てめっ……」
「ぁぅ……!!」
「パシィッ」と乾いた音がまわりに響く。
それと同時に僕の頭がガクンってなってそのあとほっぺがじんじんして……
あれ? もしかして僕…… びんたされました?
「おちょくるのも大概にしろよ……」
え?
何でぼく殴られたんすか……?
あ…… あれ?
すごい頬がじんじんするっスよ……
あれ…… やば…… いい年して泣いちゃいそうっスよ……
「おい! お前ら!! 今日はコイツで遊ぶぞ!!」
あれ……?
なんか…… いつのまにか不良に囲まれてるっス。
あ…… これ…… やばいっスよね?
に…… にげなきゃっスよ。
あれ……?
あれ?
足がすくんで…… 動かないっス。
やばぁ……
「さぁ…… 今日は楽しもうぜ…… なぁ、朱音」
「ゃ………」
そう言って不良が僕を引っ張って行く。
うぁ…… いやっス…… こわいっス。
せ…… センパイ……
センパイ……!
た、助けてほしいっス……!
今助けてくれたら…… だしまき卵とオムライス作ってあげるっスから…… 煮たまごもつけるっスから…… たすけてくださいっス…… たすけて…… せんぱい!
「おい………… お前ら俺の女に何してんだよ」
え…………?
「あ? なんだよお前…… って上條ぅ、って! ぐばぁぁああああ!!」
…………僕を掴んでいた男の手を蹴り飛ばし、そのまま流れるように男の顔面を蹴り飛ばす。
「な、なにしてやがんだてめぇ!!」
「うるせぇ」
突如攻撃をしてきた男に、すごんで怒鳴る不良達。
「が!?」
「ぐぇ…!?」
「ぎゃぁああ!!」
だけどその人は、そこから間髪いれずに三人の不良の顔面に拳を叩き込む。
すごいスピードっすね…… 人が5メートルくらい飛ぶとか、どんなパワーっスか。
てか……
なんですかアナタは…… ヒーローっスか。
かっこ良すぎますよ…… 上條センパイ……
「おい、朱音……! てめぇなんでこんな真夜中に出歩いてやがる…… って、ど、どうした?」
センパイが僕に怒ってるっス。
何を怒ってるのか…… ちょっと分かりませんが、今はそんなことどうでもいいっス
「せんぱい……」
僕はセンパイにすりよるように近寄って、センパイのことをぎゅっと抱きしめる。
「せんぱい…… かっこいいっス…… ぅえ……? なんでせんぱいこんなにかっこいいんですか?」
センパイ…… 超かっこいいっス。
やばいっス。
惚れちゃいそうっスよ。
「………………なんで、こんな時間に出歩いてんだ?」
「くんたま買いにきたっス…… センパイ買ってください」
センパイ…… ちょうぬくいっス。
ああ、せんぱい、せんぱい……!
センパイは凄いっスよ。
「わかった…… くんたまは買ってやる、あとお前の好きなお茶とピザまんも買ってやろう」
「ほんとっスか……? センパイだいすきっス……!」
センパイはやっぱり優しいっス。
センパイはやっぱり頼りになるっス。
センパイ…… センパイに抱きついてると凄い安心するっすよ。
「朱音……」
「………ぅえ?」
センパイが僕を引き離して、怖い顔してるっス
ど、どうしたんすか?
怖いのはもういやっスよ……
「もう二度と夜に一人で出歩いたりするな…… 絶対だ…… もし何か欲しくなったら俺に言え、一緒に買いに行ってやる」
センパイが僕の頬をさすりながらそんな事を言う。
叩かれたほっぺたがヒリヒリして痛い。
「これで分かっただろう? 女の子が夜一人で出歩くってのは危険なんだ、だから今後一切二度と夜外に一人で出かけるな」
「はい…… わかりました」
センパイが僕をじっと見つめてそう言う。
凄く心配してくれてるのが分かるけど……
そんなに怖い顔しないでほしいっス。
センパイには…… 優しくしてほしいっスよ。
「あの…… センパイ」
「なんだ……?」
「ぎゅっとして欲しいっス」
「………………はぁ」
センパイは小さくため息を吐いて、そしていつもの優しい笑顔を浮かべてくれる。
そのあと僕をぎゅっと優しく抱きしめてくれた。
「あぅ……」
センパイが僕の体を抱きしめて、僕の喉から息が漏れる。
センパイは暖かくて、力強い……
いつからだろう……?
センパイに抱きしめられると、胸がきゅうってなるようになったのは。
胸がちょっと苦しくて、熱くて、いっぱいな気持ちになるようになったのは……
「センパイ……」
センパイはさっきの男達より背が大きいし、意外とマッチョだ。
でも全然怖くない。
すごく安心する。
やっぱりセンパイは…… 凄い。
――――
「なんでセンパイはあんなとこにいたんスか?」
コンビニからの帰り道…… 僕はセンパイと手を繋ぎながら歩く。
左手は暖かいお茶があっためてくれて、右手はセンパイの手があっためてくれる。
今僕…… 無敵っスね。
「お前が帰りに”今日、僕の家誰もいないんスよ”って言ってたから、なんか変な胸騒ぎがしてな…… まぁ、案の定だった訳だが」
センパイはそう言ってため息を吐く。
「そっスか」
僕はセンパイを見上げながらそう呟く。
センパイの横顔…… あれ?
センパイってこんなにカッコ良かったでしたっけ?
なんか…… 凄く…… あれ?
あれ?
「センパイ……」
「なんだ?」
なんだか……
「今日は僕の家に泊まって行きませんか?」
「………………いいのか?」
今日はセンパイともっと一緒にいたいなって…… 思うっスよ。
「はい…… センパイがよければぜひ」
僕がセンパイにそう言うと、センパイが途端に真面目な顔をして僕を見つめる。
な…… なんすか。
そんな目で見られたら…… び、びっくりしますよ?
「お前は、男を家に泊める事の意味を分かって言ってるのか?」
「意味………?」
意味って…… どういうことっスか?
「俺を泊めた場合、俺はお前に手を出すが…… いいのか?」
「手を出す……? 何をですか?」
「お前が嫌がることをする事をするかもしれないぞ?」
センパイがそう言って僕を、じぃっと見つめる。
だから…… そんなに僕の事を見つめないでくださいよ。
なんか…… おちつかないっス。
「えっと……… とりあえず、僕はセンパイを嫌がったりはしないと思いますよ?」
僕はセンパイの視線になんだか緊張してしまって、良く考えないまま、とりあえずそう言った。
「そっか、ならいい」
そう言って笑顔になる先輩。
いつもの… 優しい笑顔だ。
「はいっス」
うん…… やっぱりセンパイの笑顔は…… 安心するっスね。
「じゃあ…… いきましょう?」
「おう」
今日はセンパイとお泊りっスよ。
――――
「な……! ちょ…… せんぱい……!?」
「どうした……?」
あれから…… 僕たちはご飯を食べて、お風呂に入って、僕の部屋で寝る事にした。
そしたら、突然センパイが僕の布団に入ってきて…… 僕の服を脱がし始めたのだ。
「な…… なんで僕の服を脱がすのですか……?」
「そんなの…… 決まってるだろう?」
するとセンパイは僕の耳元に口を寄せて、ぼそぼそと呟いた。
「え……!?」
な…… え……?
あぅ……
そ…… そんなこと……
す…… するんですか?
「手を出すと言っただろ?」
「い…… 言いましたけど……」
まさか…… 前雪さんが教えてくれたことを…… 今日するなんて、思いませんでした。
「嫌なのか?」
「あぅ……」
い、嫌ってわけじゃないのですが……
なんと言って良いか……
あれ?
嫌ってわけじゃないんですか……?
僕は…… あれ?
「まぁ、今更やめないけどな……」
「え…… ちょ…… んぅ!?」
ちょ…… これ…… き………ス?
「大丈夫…… 優しくしてやるから」
「え…… えぇ…? ぁ……んっ!?」
え…… ちょ……
そんな…… さわ… えっ!?
「せんぱ…… やめ……」
「やめない」
え……
ぅぇぇぇええ……?
ぼ、ぼく……
どう… なっちゃうん……スか?
萌えるわー マジ朱音萌えるわー
さあ!
次回はノクターン!
ユウシャ・アイウエオン@の登録はすんでるか野郎共!!
次回は最初からクライマックスだぜぇ!!