センパイどうしました?
センパイ視点です!
「センパイ、ちょっとそこ掃くんでどいてくださいっス」
「おう」
今、学校の裏山にある離れ…… この第二茶道部の部室に俺と朱音が二人きりだ。
第二茶道部の部室は茶室と簡単な台所、居間と風呂トイレ(別)の四部屋で構成されているこじんまりとした建物で、俺が一年の時にこの私立青峰学園の筆頭株主になった際、権力にモノを言わせて作った俺のプライベートルームだ。
俺が気に入った奴は使わせてやってもいいと作ったモノではあったが、結局使わせてやっても良いと思えたのはコイツだけだった。
ここに女を連れ込んで行為に及んだ事もあるが、あくまでここを使わせてやったのはその時だけで、いつでも使って良いと許可をしているのはコイツだけだ。
まぁ、コイツは妙にそういう所を遠慮する奴なので、俺との部活の時意外はここを利用しないのだが。
しかもどうやらコイツはここを自由に使えることに一応恩を感じているらしく、部室に来るといつも必ず掃除をして行くのだ。
もっとも、掃除した後は我が物顔でくつろいでいるので、単に綺麗な場所でくつろぎたいだけなのかもとも思うが。
きっと、両方なのだろうと思う。
「あれ……?」
今日も例に漏れず部室の掃除をしている朱音だが、今日はどうやらいつもと勝手が違うようだ。
箪笥の上を拭こうとしているのだが、どうやら奥の方が拭けないらしい。
首をかしげている。
「あれ… おかしいっスね? いつもはちゃんと奥まで拭けるのに」
「お前背ぇ、縮んだんじゃないか?」
「あ…… そうでした」
朱音はそういって納得したように軽く頷くと、てふてふとゆっくりとした動きで踏み台を取りに行った。
相変わらずのゆっくりとした掃除である。
やる気があるのか、ないのか分からない。
でも、なんだかんだ綺麗に丁寧に掃除しているところを見ると、恐らくやる気はあるのだろう。
「んっ……………」
少しだけ艶かしく思える声をあげて、朱音が踏み台を持ち上げる。
恐らく重かったのだろう。
まぁ、男だったときよりは筋力も落ちているのだろうしな。
しかし……
男だった時は「また掃除してるな」くらいにしか思わなかったが、それが女になるだけで俺の為にかいがいしく世話をしている様に見えるから不思議だ。
なんと言うか…… 可愛く思える。
いや…… 実際かわいいのだ。
もともと、整った顔つきではあるなと思っていたが、それに髪が伸びて輪郭が少しふっくらしただけでこうも女の子の顔になるとは……
眠そうな雰囲気で誤魔化されていたが、実はかなりの女顔だったんだな。
それに、服装もかなり良い。
なんでそんなに自然なんだってくらいに気にせず着ている、女子の制服。
カーディガンとタイツで防寒しているのがなんとなく愛らしく思える。
加えてスカートから伸びる、黒いタイツでむちむちとした太ももも、掃除の為に捲り上げたカーディガンとワイシャツの袖からのぞく白くて柔らかそうな二の腕。
その全てが女の子だ。
…………………こいつ、女子の姿に馴染みすぎじゃね?
「終わったっス」
そんな事を考えているうちに、どうやら朱音は掃除が終えたようだ。
掃除用具をかたづけると、いつもの様に棚からポテチを取り出して、俺の隣に座る。
そして、おもむろにチャンネルを手に取ると居間のテレビの電源を入れた。
「タマゴが始まるっス」
そう、今日は月曜日。
タマゴとは朱音が欠かさず見ている、夕方の子供向けテレビアニメだ。
主人公の忍者、タマゴが忍術を駆使してライバル達と渡り合ってゆく、愛と友情のバトルアニメである。
朱音はこれを卵製品の特集だと思って見たらしいのだが、これが意外と面白くてはまってしまったとの事らしい。
「今週も楽しみっス」
もともと、この日はこれを見るために家に早く帰ると言っていた朱音だが、部室にテレビがあると分かるや否や、ここで放映を見ていく様になった。
朱音曰く、急いで帰らなくていいからここで見るとのことらしい。
いつも眠たげな表情の朱音だが、このときばかりは少しだけ表情を輝かせる。
朱音はいつもの様に背中にクッションを置き、それにもたれながらポテチを開けてポリポリと租借する。
朱音にとってこれが至福のひと時らしい。
「ん…… なんかちょっと座りが悪いっス」
朱音がもぞもぞと背中を動かす。
どうやら、いつもと違ってクッションがしっくりこないようだ。
恐らくこれも体のサイズが違う影響なのだろう。
「俺が背もたれになってやろうか?」
俺はそんな朱音を見ながら、ぽんぽんと開いた俺の両足の間を叩く。
「え………………………… いいんスか?」
朱音はそんな俺の事を見やり、少しだけ考えたた後にそう答えた。
「いいよ」
俺はそんな朱音に軽く微笑んで手招きする。
「じゃあ遠慮なく……」
朱音は四つんばいのまま猫のように移動して俺の前にくると、くるりと背を向けて、俺に背中を預ける。
「んしょ…… っス」
ぽすっと音を立てて、殆ど重さを感じない朱音の体重が俺の体にかかる。
朱音は俺の股の間に挟まれる形で、足を投げ出し上体を俺の胸に沿わせる。
柔らかな朱音の体の感触と、少しだけめくれたスカートが妙に艶かしい。
俺はそんな朱音を抱えるようにして、朱音の腹に手を回す。
「…………………?」
俺が朱音の腹に手を回して固定すると、朱音は一度ゆっくり振り向いて俺の顔を伺った。
俺がそれに対して何も反応せずテレビに目を向けていると、朱音もまた、何も言わずにまたテレビへと視線を戻した。
恐らく……
恐らく朱音は、完全にテレビが見易いからと言う理由だけでこうしているのだろうが、俺からしてみればコレは完全に恋人同士の行いだ。
そして本人が意識していなくても、こうした些細なスキンシップが二人の距離を詰めていくのだ。
朱音。
正直な話、俺にはもう朱音が女にしか見えていない。
お気に入りの後輩であった男の朱音には申し訳ないが、最早俺にとって朱音と言う存在は過去の分もひっくるめて今のこの女の朱音に塗り潰された。
昨日まで男だった存在に対して、もっと違和感みたいなものがあるのではと思っていたが…… そんなものは無かった。
恐らく…… 所詮男なんてものはどこまで行ってもただの動物なのだろう。
目の前に女がいたら…… それはやっぱり女なのだ。
俺の腕に収まり、そして暖かな体温を感じさせる朱音の体。
俺に対していつだってフラットに接してくる朱音の性格。
ふわふわとしていて、純粋と言う言葉が良く似合うその雰囲気。
いい…… とても良い。
俺は……
朱音を本気で落とそうと思う。
俺に溺れさせてやろうと思うのだ。
――――
「センパイ……」
「なんだ?」
「ダシマキは…… ダシマキはちゃんと帰ってくるんスかね?」
俺にもたれたままの朱音が、首だけを俺の方に向けてそう問いかけてくる。
その表情は、いつも通りの無表情ではあるもののどこか悲しげだ。
どうやら今回のタマゴのストーリーはお気に召さなかったらしい。
ちなみにダシマキとは主人公のタマゴの親友であり、今週のストーリーはそのダシマキがタマゴを裏切って敵側に付くと言うものであった。
「さぁ…… どうだろうな、妹を人質に取られてるんじゃどうしようも無いんじゃないか?」
「そ、そんな……」
朱音は自らの腹に回っている俺の手をキュッと握り絞めてそう呟く。
目線はテレビの方を向けて呆然としているので、恐らく無意識でやっているのだろう。
以前男だったとき、主人公が絶体絶命の際クッションを握り締めていたのを覚えているので、多分それと同じ行動なのだと思う。
だが、そんな些細な行動がとても愛らしく見えてしまう。
「大丈夫だろ……」
「え………?」
俺は朱音を抱きよせ、もう片方の手で朱音の頭を撫でる。
抱っこナデナデをする。
「タマゴが最後はなんとかするさ、多分大丈夫だ」
「そ…… そうっスか? 本当に……… 大丈夫スかね?」
朱音は眉を下げて、俺を上目使いで見上げる。
うぐ…… 中々の破壊力だ。
「ああ…… だってあのタマゴだからな、どんな困難だって乗り越えるさ」
「……………………そうっスね」
朱音はそう言って、小さく”にぱっ”と笑った。
「ぉ………………お前は」
俺はそんな無邪気な朱音が可愛くて思わず抱きしめてしまう。
「………………ぅ?」
朱音はそんな俺の事を見ながら、不思議そうに小さく声を出しただけなのだった。
こいつは…… 全く。
「おい、朱音」
「なんスか?」
「お前…… 警戒心が無さすぎだ」
「……へ?」
ちょっと無防備すぎだろう。
「お前、誰にでもこうさせるつもりなんじゃないだろうな?」
「こうさせるって…… この抱っこのことっスか?」
抱っこされてる自覚はあったのか。
「そうだ…… もし、誰それ構わず体を触れさせてるんなら今すぐやめろ、これは彼氏としての俺の命令だ」
「えっと…… 僕だって親しくない人には触ってなんて欲しくないっスよ?」
朱音がどこかきょとんとしながら、そう続ける。
「親しくなってもそれが男なら触れさせるな、絶対だ」
「……………………なんでっスか?」
朱音はそうつぶやいて首を傾げる。
本当にその意味するところが分かっていないと言った感じだ。
ならば…… 俺がするべきことは一つ。
「そんなの決まっているだろう」
コイツみたいな馬鹿な奴には……
「俺がお前を独占したいからだ」
分かり易いくらいにはっきり言ったほうが良い。
「独占…………?」
「そうだ、お前は俺の彼女で俺のモノだ、だから俺にはお前を独占する権利がある」
俺は自信満々にそう言いはなつ。
こういう事は、自分が正しいと思い込んで言わないと説得力がないのだ。
「はぁ…… 彼女ってそう言うものなんスか?」
「そうだ」
俺は朱音を抱っこしたままにそう言って、朱音の瞳を真剣に見つめる。
「まぁ、いいですが」
「いいのか?」
「ええ、別に交友関係を広める気はありませんしね、それに……」
朱音は俺の目を真っ直ぐに見つめながら、すこしだけ楽しそうに微笑む。
「センパイがそうしたいのでしょ?」
そして前を再び向いて、ぽすっと頭を俺の胸元へと預けたのだった。
「なら、そうします」
朱音は今、前を向いているからその顔は見えない。
だけど……
「よし、偉いぞ……」
俺の腕の中で頭を撫でられる朱音の様子は。
「はいっス」
決して不機嫌なものでは無いと確信できる。
注意、今回の話のセンパイの考えには全てに(ただしイケメンに限る)と頭につきます。
今回の話を書いて思ったこと。
あれですね…… 朱音けっこうセンパイのこと好きですねコイツ。
知りませんでした。
大体のラストまでの構想が脳内で完成しました。
多分ラストまでエロ含めてあと15話。
今回はエロを三話分挟む予定!!
乞うご期待!!