センパイ僕頑張るっス。
「食事会…… っスか?」
「そうだ」
通学中、僕は冷たくなった自分の手をさすりながら、隣を歩くセンパイを見上げる。
うぅ…… 手ぇ… はぁってしても冷たいっスよ。
センパイはすこしだけ微笑みながらそんな僕の事を見下ろしている。
「ほら…… てぇ借せよ、暖めてやる」
「う……」
センパイはいつかと同じように僕の手をとって暖めてくれる。
うん……
やっぱセンパイの手はぬくいっスね。
超落ち着くっス。
なんか、頬ずりしたくなるなぁ。
「まぁ…… そんな訳でさ、もうすぐ年に一回の親戚全部があつまる食事会があるんだよ」
「はい」
センパイはそこで…… ちょっとだけ目をそらす。
「もしさ……」
そしてすこしだけ小さい声でこうつづけた。
「もし…… お前が本当に俺とそのうち結婚するならさ…… その食事か…」
「行くっス」
「え……?」
僕は……
センパイが言葉を全て言い切る前に…… その返事をする。
僕を包んでくれるセンパイの手をぎゅっと握り返してそう答える。
センパイの手を……
いつかと同じ用に、とても暖かいセンパイの手をしっかりと握って。
暖かさは同じでも、それを感じる僕の気持ちは……
あの時とは全然違うんスね。
僕も…… ずいぶん変わったものっスよ。
こんなに変わるなんて…… びっくりっスよ。
「センパイ……」
「……なんだ?」
僕はセンパイを見上げる。
そして、センパイをじっと見つめる。
「僕はね…… 結構本気みたいっス」
「…………そっか」
センパイは、そんな僕に小さく微笑む。
「そうっスよ」
そして僕も…… 小さく笑ったのだった。
――――
「ふむ」
放課後…… 僕は今日も部室に向かう。
今日から、センパイが僕に食事会での礼儀作法とやらを教えてくれる事になっている。
何でも結構格式高いパーティーらしくて、ある程度の振る舞いは覚えておかなくてはいけないらしいのだ。
うん…… めんどくさいけどがんばるっス。
「宮前さん、あんた今度のパーティーでるんでしょ?」
「……………え?」
僕が食事会の事について考えて歩いていると、不意に横から声をかけられる。
突然、女の人が僕に話しかけてくる。
なんか…… ずいぶんと綺麗な人っスね?
てか…… なんで食事会の事を?
「私の名前は天々谷リサ…… 知ってるよね?」
「………………ご、ごめんなさい、知らないっス」
え……? し、知り合いでしたっけ?
「っち……! 何、リサに喧嘩うってるの? この学校の人間がリサの事知らない訳ないじゃん!!」
うぇ!? な、なんで急に怒ってるんスかこの人……!?
超怖いっス…… 今時の若者っスよ。
「くっ…! 本当に気に食わない! 最近回りにチヤホヤされてるからっていい気になってんなよ!」
な…… いい気とか…… なってないっスよ、てかなんなんスか本当に。
超怖いっス、この人。
「とにかく……!! 今度のパーティー、リサもでるんだよね」
え……
「そう、なんスか?」
「リサはね、上條光之助さんと…… つまり、あんたの彼氏のお兄さんと付き合ってるの」
リサさんという人は、僕を見下すようにしてそう言う。
え? センパイおにいさんとかいたんスか?
知らなかったっスよ。
…………てか、リサさん背ぇ高いっスね。
胸も大きくてスタイルいいっス。
「光之助さんはね、すごく格好良いの、背が高くて紳士的で、リサにとっても相応しい人なの」
リサさんが、僕を睨みながら言葉を続ける。
てか…… なんでそんな睨むんスかぁ……
「あなたの彼氏みたいな妾の子供じゃなくて、ちゃんとした名家の令嬢との間に生まれた本物の貴族なの」
………………………え? 妾?
「あんたみたいな偽者の雑草女と付き合ってるような、三流品とは違うのよ…… わかる?」
「は………?」
「最近さぁ、本当にあなた目ざわりなんだよね…… この学園のお姫様はリサ一人でいいの、あんたはいらない」
「あぅ……!?」
リサさんが…… 僕の頭を軽く小突く。
「今度のパーティー、絶対でなさいよ…… あんたと、あんたみたいのと付き合ってる馬鹿男に格の違いって奴を見せてやるから……」
「な……っ…」
そう言って、リサさんは振り返り…… 歩いて行ってしまったのだった。
と言うか、今あの人…… センパイのこと、三流品って、馬鹿男って……
むぅ……
僕が…
僕がこんなんだから…… センパイを馬鹿男と、言わせてしまった。
「むー……」
センパイを……
センパイを馬鹿にするとか。
許せない…… っスよ。
――――
「センパイ………!!」
僕は勢い良く、部室の扉を開く。
そして、中にいたセンパイを見据える。
「な…… どうした?」
そんな僕を見て、センパイはすこし驚いている。
「パーティーの練習…… 僕、頑張るっスから……!!」
「お、おう…… わかった」
このままには…… しておけないっス!
やって…… やるっスよ…!