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センパイのこと。

「は、はっ、はっ、はぁ、は……」


僕は走った。


センパイが、キスしている姿を見て…… 僕は走った。


走った理由はと聞かれたら、それは突然風を感じたくなったから……


「な…… わけないっスよ……」


そう僕は……


センパイが他の女のことキスをしている姿を見て…… 逃げ出したのだ。


「なに…… してんスかね…… 僕は」


走り出した先、校舎の裏で、僕は一人立ち止まりそのまま膝を抱えてうずくまる。


「別に…… 逃げる必要なんてないじゃないですか…… センパイがモテるのは知ってたことですし」


そう…… 知ってた。


と言うか…… センパイと付き合うことになった時点でこういう風になるんだろうなとは、思っていた。


「そうっスよ…… こんなの初めから分かって………ぁ… あ…れ……?」


僕は…… うずくまって見つめていた校舎裏のコンクリートに、丸い小さいシミが出来るのを見つける。


「これ…… え? ぼく… 泣いてる………っスか?」


そのシミは、僕の瞳から落ちた涙のしずくが作ったものだった。


「え…… うそ… なんすかこれ…… はは……」


僕は自嘲気味に笑って、手の平で涙をぬぐう。


「あはは…… キスシーン目撃して、逃げて、校舎裏で泣くとか…… どこの少女マンガっスか」


僕は涙をぬぐう、ぬぐう、ぬぐう……


涙が……


止まらない。


「あ…… はは…… まさか僕が少女マンガするとは……… わらえるっス……ね」


涙が止まらなくて…… そしてなんだか体の奥が震えてくる。


なんだか、頭と心がぐちゃぐちゃで…… だけど頭の芯には思い切り殴られたみたいな衝撃が貫いている。


「あは…… ぁぅ…… あはは…… ぐ…すっ…… は…はは……ぅ…」


そして、胸の奥から吐き気がするほどの悲しみが……


ずっと…… 溢れてくる。


「あ……ははぁ…………………………………………ぐすっ…… わらえ……なぃ…っス」


なんスか……?


なんですかコレは……


なんで…… こんなに…… 



ショックなんでしょう?



ショックっス……


想像以上にショックっスよ……


ただ、そのシーンを見ただけなのに…… こんなにもショックだなんて。



分かってたのに。


想定してたのに。


あると思ってたのに。


大丈夫だと思ってたのに。


平気だと思ってたのに。


気にしないと思ってたのに。



だって……


僕は男だったし……


センパイだって…… 僕は平気だと思ってるはず。


そう言う意味も込めて僕を彼女にしているはずなのに。



でも僕は……



まったく分かってなかった。


こんなの想像もできてなかった。


本当はないと心のどこかで思っていた。


ぜんぜん大丈夫じゃなかった、ダメだった。


正気ではいられないと思った。


気にせずにはいられなかった。



だって……


だって、だって……


僕は……



「そんなの知らないっスよ…… 

僕…… もう女の子っスもん…… そんなのイヤっスもん……」



嫌なもんは…… イヤっスよぉ……


「ぅぇ…… ぐすっ……… ひぁ……ぅ」


僕は、一人泣きつづけた。


――――


「ぅ…… ぇぇ…… ぐすっ……」


「泣いてるのか? 宮前」


「ぅえ?」


僕が泣いていると、不意に後ろから声をかけられる。


僕がその声に振り返ると、そこには一人の男子生徒が立っていた。


その男の人は優しく微笑みながら僕へと近寄ってくる。


ゆっくりと近寄ってくる。


「初めましてだな…… 俺の名前は幸島洋介、三年の元剣道部だ」


その人は僕のそばに近寄って、僕のそばにしゃがみ込む。


「実は偶然にも、先ほどの一部始終を見てしまってな…… 

悲しそうに泣く君を見ていたら、声をかけずにはいられなかった」


そう言いながら、その人は僕の頭を撫でる。


「ぁぅ………」


ゆっくり、ゆっくりと僕の頭を撫でる。


優しく、丁寧に僕の頭を撫でる。


僕は、悲しくて、寂しくて…… だから、優しく撫でてくれるその人の手に…… 逆らうことが出来なかった。


「こんなときに……」


その人は、ちょっと渋い顔をして言葉を続ける。


「こんな時にこんなことを言うのは付け込む様で卑怯だとは思う…… だが……」


僕の頭をなでながら、僕の頬に触れて、僕の涙をぬぐいながら言葉を続ける。


すごく…… 手つきが優しい。


「だけど…… 言わせて欲しい…… 上條をやめて、俺と付き合わないか?」


「………………………………………え?」


その人は…… 真剣な目線で僕にそう言う。


真面目な声でそう言う。


「俺なら…… 上條の様な真似はしないよ、絶対に君を裏切るようなまねはしない」


その人が…… 僕をぎゅっと抱きしめる。


優しく…… 包み込むように僕を抱きしめる。


「絶対に君を幸せにするよ……… だから…」


「ぁ………」


あったかいその人の体温。


丁寧で優しい手つき。


悲しい心を撫でてくれる優しさ。


センパイとは違う優しさ。


伝わってくる鼓動と……… 本気の気持ち。


そんなその人に……


僕は……



























「いやっス……」


「え……?」


僕はそう言って、その人をぐいと押して突き放す。


「いやです」


「は?」


そう言って僕はその人を見つめる。


その人は、そんな僕を見て、驚いた様な顔をする。


「違うんです…… 今… わかりました……」


「え?」


そうっス……


今、僕はわかりました。


この人に抱きしめられて、優しくされて…… 今、わかったっス。


「僕は……」


僕は、誰かに撫でて欲しいわけじゃない。


僕は、誰かに抱きしめられたいんじゃない。


僕は、誰かに優しくしてもらいたいんじゃない。


僕は……


「僕は…… センパイが好きみたいです……」


全部、他の誰かじゃなくて……


センパイにして欲しいんです。


「本気で…… 好きみたいなんです」


僕は…… センパイだけに優しくされたい。


僕は…… 安い女なんかじゃないんです。


センパイじゃなきゃ…… ダメなんです。


「………………………美しいな、そして気高い」


「え? ちょ……!?」


僕がそう言って、その人を見上げると、その人は僕を強く抱きしめてきた。


僕は、その人の胸板に抱え込まれる。


「ダメだ…… 諦めきれない、こんなに美しい君を上條なんかには渡せない」


「え、え!?」


その人は、僕を抱きしめたまま、僕の顎に手をかけて、僕の顔を上に向かせる。


な、何をする気っスか……!?


ま、まさか……!


「俺は君を奪うよ…… 俺は君が欲しい」


「ちょ…… や…! い、いやっス……!!」


キ…… キスする気ですか!?


や、やめてくださいっス!!


「好きだ…… 宮前」


「やぁ…! やめぇ……!!」


やだ! い、いやっス!!


先輩以外なんて……


死んでもイヤっス……!!


「ふ、ざ、け、ん、な」


「がぼぉ!?」


僕が、顔を逸らしてキス攻撃を回避しようとした瞬間。


僕の前眼に迫った、その人の顔が蹴り飛ばされる。


そして、そのまま壁に叩きつけられて動かなくなる。


「おい、朱音…… てめぇは何回襲われれば気がすむんだ…… いい加減にしろ」


そして、蹴り飛ばしたのは…… やっぱり……


「センパイ……」


センパイでした。


なんでしょう…… この人は、本当にタイミングでも計ってやってきてるんスかね?


「センパイ……」


「なんだ」


センパイが怖い顔で僕を見下す。


センパイはなんだか結構切れてるようで、僕をすごい睨んでいる。


いままで僕に見せたこと無いような顔で睨んでる。


僕は……


僕はそんなセンパイを見上げながら立ち上がって、そしてセンパイに近づく。


「センパイは…… 何で僕意外の子とキスしてたんですか?」


「っち…… やっぱり見てたのか……

部室にいつまでも来ないからそうだと思ったぜ」


センパイは少し罰が悪そうにしてそう言う。


「何でキスしてたんですか?」


僕はそんなセンパイを睨みつけて、ゆっくりと言葉を続ける。


「…………アイツは香西って言って、俺のモトカノだ、俺とよりを戻したかったらしくて突然俺にキスをしてきた」


センパイは不機嫌な顔で言葉を続ける。


僕を睨んでそう続ける。


「俺は前に言ったよな? お前以外に彼女は作らないって…… それを変に勘違いした挙句、他の男にキスされそうになりやがって……」


センパイは僕の事を攻めるような口調でそう言う。


「センパイ………!」


「…………なんだよ」


しかし、僕はそんなセンパイの言葉を無理矢理にさえぎる。


センパイは不機嫌そうにそれを返す。


「じゃあ…… あの子とは何もないんスね……!!」


「そうだって言ってんだろうが……」


僕は、僕を睨みつける先輩をもう一度睨みつける。


そして、ポケットからハンカチを取り出す。


「ちょ…!? なにしやがる!」


そして、そのハンカチで先輩の唇をごしごしと拭いた。


「……な!?」


「………………んぅ…」


そして…… 僕は、僕からセンパイに……


キスをした。


「……………ぁ…?」


突然の僕の行動にあっけにとられるセンパイ。


「センパイ」


僕はゆっくりと唇を離す。


僕はセンパイをもう一度見つめる。


センパイの瞳を…… じっと見つめる。


「センパイ………」


なんだか…… 心が混乱をする。


安堵感と、独占欲と、好きと、良く分からない気持ちで……


胸が混乱して…… そして熱くなる。


そして…… 熱さが込みあがってきて……


涙が…… ぽろぽろ出てくる。


「やだ……」


「ぇ……?」


「いやっス………ょ… ぁぅ……」


「ぉ…?」


「事故でもなんでも…… 他の子とキスしちゃいやっス………」


「…………」


「僕にだけ…… 僕だけにしてくださいよぉ……」


僕はそう言ってセンパイに抱きつく。


もう、離さないように、センパイをぎゅっとする。


「朱音……」


センパイはそう言って、そんな僕を抱きしめてくれたのだった。
























センパイの体温。


センパイの腕。


センパイの鼓動。


センパイのにおい。


センパイの………


うん、やっぱり……


「ねぇ…… せんぱい?」


「なんだ?」


「僕…… センパイが好きです…… 僕とお付き合いしてくださいっス…… ダメっスか?」


僕はセンパイにそう言う。


センパイ見上げてそう言う。


そう…… よく考えたら…… 僕からは言ってなかったっスね。


「……………………………まぁ、付き合ってやらなくもないが?」


センパイは少しイジワルな顔でそう言う。


僕はそんなセンパイに…… もっと、ぎゅっと抱きついて………


「うれしいっスよ……… センパイ」


笑顔でそういったのだった。


「ぉ…………おう」




多分、次回の次回くらいに…… 第二エロ入るぜ!!


俺は全裸執筆に突入するぜ!!

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