07-別れと出会いⅠ
視点がコロコロ変わります。
読みにくかったらごめんなさい…。
ザックが発ってから2日目の朝、レイアがついに高熱を出して倒れた。
ラルスは急いで村の薬師を連れてきたが、このような辺境の薬師の彼には手の施しようもなく、ただ悲しげに首を横に振るのみであり、もうレイアの命の灯が消えかけているのは誰の目にも明らかだった。
それでもラルスは薬師が気休めだろうがと置いていった解熱用の薬や水をなんとか昏倒したレイアに呑ませたり、額には常に冷たい布を乗せたりなどと、出来うる限りを母親の側に付きっきりになりながらした。
だが、レイアが目覚めるとはなかった。
夜も深まった頃、ずっと神経を尖らせながら母親の側に付き添っていたがさすがにまだ幼い身では疲労に勝てずラルスがうつらうつらしていると、フッと己の手が握られる感触がし、それにハッと目を開けた。そこには熱に侵されながらも不思議なほど穏やかな目をした母親が自分を見つめていた。
「母さんっ!!気が付きいたんだね。よかったぁ。
あっ、すぐ先生を呼んでくるから待ってて!」
もう二度と目覚めぬかもしれないと思われていた母の目覚めに瞳を潤ませながらも薬師を呼びに飛び出して行こうとすると、病人とは思えぬほど意外な強さで手を握り締められ、引き留められた。
「母さん……?」
「……ラルス、聞いて」
「でも、先生を」
「いいから、……聞きなさい」
声を出すのも精一杯であろう小さな声だったがそこには否やを許さない強い意志が宿っていた。これまでに聞いたこともないほどの強い声にラルスはそれまで座っていた椅子に腰を下ろした。それを見て小さくうなずと、レイアは瞳に哀しみを少し宿しながらもどこまでも穏やかな声で続けた。
「ラルス、ごめんね。母さんはもう一緒にはいられないみたい」
「何言っ「でも、どうか忘れないで」……」
「貴方を愛してくれている人がいることを。
決して貴方が一人ではないことを。
これから先、きっと貴方はたくさんの困難に出会うと思うの。でも、どんに暗闇に感じられても必ず光はあるわ。どうかその事を見失わないで…」
そこまで話すとレイアは大きく息をついた。それを心配そうに見つめる息子に微笑み返したが、実のところ一言話すごとにごっそりと力が抜けていくのを感じていた。もう残り少ない自身の時間を気力で繋ぎながら、何とか我が子に託すべき最期の言葉を探し泳がせた視線の先に、窓の外に浮かぶ月が映った。そしてそれはレイアの脳裏に月光を纏う少女の姿を思い浮かばせた。
――あぁそうだ、あの言葉を………
段々と力の抜けていく身体を叱咤しずっと首に掛けていた守り石を息子の手を握らせ、霞んでいく目で息子の目を見つめ、 心からの祈りを込めて言葉を紡いだ。
「この石がきっと…貴方を守って…くれるわ。
……ラルス、己が…心の命じる…ままに、……強く、…優しく、…激しく、……生きなさい……。
貴方に…天の…導きと、……大地の…加護が……あらんことを……」
「っ母さん、もう話さないで!!」
溢れる涙をそのままに、徐々に力の抜けていく母の手をその命を繋ぎ止めようとするかのようにラルスは必死握った。
霞みゆく意識の中、レイアの心はそんな息子への愛しさで溢れる。
「ラル…ス、……わた…しの…愛しい…子。
………あ…いし…て……る………… ……」
「…母さん……?
母さん!母さん!!
嘘だろ…?母さん、目を開けてよ!
…………
母さん、母さん、かぁさん……!!」
優しく微笑みながら一筋の涙とともに瞳を閉じた母に、ラルスは声も枯れんばかりに母を呼びながらただただ泣いた。