05-転換
「母さん、ただいま!」
「おかえりなさい、ラルス。
あら、なぁに?なんだか随分楽しそうね」
「うん。あのね、ザックが来たよ!ちょっと村長の所に寄ってくるけどすぐに来てくれるって!」
「まぁ、ザックさんが……?
どうしよう。こんな体じゃ大しておもてなしも出来ないわ」
「あぁ、母さんは寝てて!俺がやるから」
「でも……」
「だーいじょーぶだって!俺もう七歳だぜ。そんぐらいできるよ」
「そう?でも……」
「もうっ。母さんは心配しすぎだよ。ザックだって気にしないって~。
あっ、そっか! 大丈夫だよ、母さん。化粧なんかしてなくても母さんは綺麗だって!むしろはかな美人?みたいでザックもクラッとくらかもよ~」
「なっ何言ってるのよ、ラルス!!母さんはそんなこと言ってるんじゃないでしょ!」
「えぇ~、そんな真っ赤になって言われてもな~。説得力ないよ~、母さん」
「ラルス!親をからかうんじゃありません!
それにザックさんを呼び捨てにしない!」
「(あっ、話そらしてた)」
「ラルス!」
「やべっ。まぁ、別にいいじゃん。ザックもいいって…「ラルスっ」…はい、はい、ザックおじさんね」
「はぁー。その悪ガキ根性はいったい誰に似たんだか……」
「あははは……。
まっ、俺はお茶の用意でもしてくるよ~」
「まったくもう……」
「あっ、母さん、化粧道具もってくる?」
「ラルス!!」
言いたい放題言ってニヤニヤしながら台所へ逃げていく息子を睨みながら、未だにほんのりと色付いた頬に手を当てようとした時、戸口のあたりからクスリと微かな笑い声が聞こえた。それに慌てて振り向けば、今まさに話題にしていたザックがそこに……。
「ザッ、ザックさん!」
母の声に気付いてラルスは台所からヒョイと顔をのぞかせると、硬直している母を放置してザックに声をかけた。
「あれ、もう来たんだ。早かったね」
「あぁ。本当に挨拶に寄っただけだからな」
ザックは厳つい顔に見合った低く落ち着いた声音でそれに応じると、母親の方を振る向いた。
「久しいな、レイア。
お前たち親子の会話はいつ聞いても和む」
「ザックさん。お、お久しぶりです。やだぁ、変なところをお聞かせして……。お恥ずかしいです」
「フッ。
…………。
村長に体調を崩していると聞いた。大丈夫か?」
「あっ、はい。大丈夫です。
こんな格好でごめんなさい。私は大丈夫だって言ってるのにラルスが煩くて……」
「母さんが無茶しすぎるからだろ、まったく」
「……ラルスの言う通り、きちんと静養しろ」
「あ、はい」
「あーあ。母さんはザックの言う事なら素直に聞くんだらか」
「ラ、ラルスっ」
「はい、はい。母さんは取り敢えず休んで。夕食になったら起こすからさ。
ザック、お茶入れたから向こうでまたいろんな話聞かせてよ!」
「あぁ。
では、レイア。また後で話そう。食事など心配しないでいいから、ゆっくり休め」
「はい」
微かに微笑んでから遠ざかるザックと息子の後ろ姿を見送り、レイアは目を閉じた。
――もう、あれから七年も経ったのね……
フッと、あの夜の少女との出会いからこれまでの七年に思いを馳せた。