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月の涙 (仮)  作者: anz
1/7

01-はじまり

初めて小説にチャレンジしたので、未熟さを許せる方のみお読みください。

 その日、世界は(しろ)に染まった。






  ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~






 ――なぜなの。この国がこれほどまでに狂気に包まれていってしまったのは。



 人々が寝静まった頃、月のない暗闇を密かに駆け抜けながら、シュバルツ王国筆頭公爵グラッドストーン家三女シィレンはまだ幼いが美しいその顔を歪め、遣る瀬無さと共に思わずにはいられなかった。


 この国の腐敗は先々代の王の時代から始まった。先々王のカルロイドの治世は概ね良いものだった。かの王は物静かでありながらも王の器を兼ね備えており、軍備の強化や法の制定、土地の平定など様々な政策を意欲的に行い、国を豊かにしていたので誰も気付くことができなかったのだ、……王が静かに狂っていっていたことに。若き日の王は、最愛の王妃をその腹の子と共に盗賊によって失った。その深い悲しみは王の心を蝕み、二度と同じような悲劇をおこさぬようにと行っていたはずの政策は、晩年になるにつれ急速に歯車が狂い始め、だんだんと厳しくなり、軍は民を威圧し、国の豊かさは貴族に貪られていくようになり、貴族と平民の格差がとんどん広がっていった。不幸なことに王を諌められたであろう重臣たちの多くが先年に起こった隣国との戦争によって失われ、新たにその職を継いだ者たちはまだ若く、自分たちにとって甘美な貴族至上主義に染まっていた。またそれに拍車をかけたのが最愛の王妃を亡くしたから作られた後宮であった。王はただ義務として淡々と妃たちのもと通いその役割を果たすのみで、後宮に気をはらうことは一切なかった。そのことに増長した後宮の女たち、そしてその親族たちによって権力闘争が行われるようになった。そのような中先々王カルロイドは四三歳で崩御した。

 その後を継いだのは多くの妃が生んだ中で唯一の男児であった当時十歳のハリエルドであったが、ハリエルドは生来病弱であり、また気が小さく、母の身分も貴族では一番下位の男爵家の出であったことから、先王カルロイドと同い年の腹違い弟でもあったバルカラッドが執政として後見についたが、これにより実質ハリエルドは傀儡となり、バルガラッドによる独裁が行われるようになったのだ。

 三年前、その先王ハリエルドは二ニ歳で生涯を閉じた。それまでに三男二女の子をもうけていたが、先王が崩御した際の王子たちの年齢の低さなど様々な理由をつけバルガラッドはついに自身で王位についたのだ。

 止められる者のいなくなったバルガラッド王の独裁により国は本格的に混迷の時代に突入することとなる。


 そしてシュバルツ王国の闇は未だ終わりを見せず、人々は暗闇を彷徨い続けている。




「――……ま」

「………」

「…シィ様」

「…っえ?」


 物思いに耽っていると、共に闇を駆けていた自身の護衛騎士であるジンの囁き声に呼ばれ、はっと我に返り、瞳を瞬いた。


「ごめんなさい。考え事をしてました。」

「いえ、……大丈夫ですか? やはり私一人で行った方がよろしいのでは。万一にも見つかれば危険です」


 柔らかく落ち着きのある話し方に反しその声は幼さを感じさせる高めのものである。それも当然、声の主シィレン・グラッドストーンはまだ六歳だ。それに対する声の主――ジン・クライシス――は三年前から仕える主シィレンより八つ年上の一四歳だが主同様落ち着きのある声で年齢より上に感じさせられる。二人とも闇に溶け込むような黒のローブで全身を覆っている。

 そのジンの問い掛けにシィレンは年に似合わぬ苦笑を交えながら返した。


「この国に危険でない所がありますか?」

「まぁ確かにそうなんですがね~。 でも心配なものは心配なんですよ。

 ……やっぱりあなたが行かなくちゃダメですか?」

「ふふっ、ありがとう。

 ですが、わたくし自ら行かなくてはならないのです。そう感じるのです」

「……月詠みですか?」

「おそらくそういうことでしょう」

「はぁ。あなたがそこまで言うのならしょうがないですね~。

 ただし十分気を付けてくださいよ。これからが正念場ですからね」

「えぇ、わかっているわ」


 重苦しい夜の静寂の中、瞳だけは真剣なまま妙に軽やかに会話を交わしながら二人は、(くだん)の地下牢へと慎重に進んで行った。

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