森林の乙女 4
想像して欲しい。四、五十人は入るほどの、ホールにしては狭い部屋がある。観客は皆、目を隠す仮面をつけている。司会が合図を出すと、体をマントで隠し、覆面を被せられた、年端のいかない少年が連れられてきた。さらに司会が合図を出すと覆面とマントを剥がされる。そこには逃げられないようにと首輪に鎖が繋がれ、後ろ手に手錠をされた裸の少年が立たされている。買手によく見えるよう、強い光を浴びせられ、全身を一回転させられる。買手は少年を下から上まで舐めるように見ては品定めをするのだ。開始の合図と同時に会場は一気に熱気を帯び、怒号が飛び交い、赤黒い欲望が部屋を渦巻いた。少年は恐怖に襲われ、心は凍りつき、泣くことも忘れ、ただ絶句するしかない。悪鬼亡者の類が絶叫している、サバトに放り込まれたのだ。おして知るべしその阿鼻叫喚の地獄絵図を。
さて、話を進めるとしよう。
イェオーシュアは戸棚の前に立つと、身繕いをし始めた。背中まで伸びた銀髪を白の輪ゴムで後ろに纏め、寝間着を脱ぎつつ戸棚を開くと裏側には全身を映す姿見がある。腰回りを気にしつつコルセットを身に付け、その上に白のブラウスを羽織り、膝が隠れるほどの薄水色のスカートを履き、総身を姿見に映してみる。身長は一六〇センチあるかないか、女性特有の曲線は花も羨むかのようだ。ひとしきり確認すると、彼女はそばに置いてある椅子に掛けてあったエプロンを身に着け、テーブルの上に置いてある三角巾を頭にのせつつ台所に向かった。朝食と一緒に昼食のお弁当も作る。昼前には老婆と約束した花を摘みに行くのである。
作り終えたお弁当を大きめのハンカチで包んでかばんに入れると、彼女は日課であるクリスタル細工の仕事に取りかかった。彼女を含むシェイン族は服飾や宝飾品、工芸品等を作って生計をたてている。その芸術性と完成度は非常に高く、愛好家は多い。
「ふう……」
と彼女が小さなため息をして作業用のメガネをはずすと、最後の仕上げを終えたクリスタルのわんわんお(※犬のような生物)をそっと完成品の台に置いた。両手を上に伸ばして背伸びをすると、背中にパキパキと音が鳴るのが聞こえてくる。そうしてふと時計を見ると、もう十一時を回っていた。
「いけない、もうそろそろいかないと」
言って彼女は深緑色の外套を羽織り、マフラーを首に巻きつつかばんを手に持ち玄関を出た。