苦心惨憺 7
「何か飲むかね?」
「いえ、結構です」
「そうか……」
男はそう言いつつ、机を挟んで椅子に座った。
「名は、なんと言う?」
「〇二五一号です」
「そうではない、君の本当の名だ」
「イェオーシュア=アージェンティークです」
「うむ、君がイェオーシュアか」
「わたしをご存知で?」
「ああ、この工場を見学してる際に聞いた」
「そう、ですか……」
「それと、ある男が君の名を口にしていたのを覚えている」
「誰ですか?」
「君の夫だ」
イェオーシュアの心に幾条もの光が差し込んだ。
「アルフレッド!」
「そう、アルフレッドだ」
彼女の心を照らした光条は束になり、一切の闇を吹き飛ばしてしまった。彼女が立ち上がって男に駆け寄った。
「アルフレッドは……、アルフレッドは生きてるんですね?」
「ああ、生きている」
その言葉を聞き、彼女は見ているもの全てが薔薇色になったような錯覚に陥った。しかし次の瞬間、猛烈な吐き気が彼女を襲った。
「大丈夫かね?」
男は足元にあったごみ箱を彼女に差し出すと、彼女がそれを受け取り、中に吐き出した。
「明日、医者に診てもらうといい。手配しておこう」
言いながら男がティッシュを差し出した。
「あ、ありがとうございます」
「イェオーシュア」
「はい」
「君の夫から手紙を預かっている、これを」
言って男はイェオーシュアに手紙を渡した。
「明日、ここを発つ前に君のところに寄ろう。手紙があれば、それを君の夫に渡しておく」
「あ、ありがとうございます」
彼女は涙を流しながらそう言った。
「どうした?」
「嬉しくて、つい……」
「そうか……、今日はもう遅い。部屋に戻り、休息を取りたまえ。守衛に案内させよう」
「はい。あの、お名前を……」
「レウレトだ」
レウレトがそう言うと、守衛に案内させるよう伝え、彼女を見送った。
守衛に連れられイェオーシュアが部屋に戻ると、ミーファはもう寝ていた。レウレトから受け取った手紙を取り出してみる。手紙は赤い封筒で、裏に紅いロウで封がされており、獅子をかたどった印が押されてある。卓上ライトに自分の毛布を被せ、その中でスイッチを入れた。光が洩れてミーファを起こさないようにするためだ。そうして音をたてないように手紙の封をそっと剥がし、中身を開いた。
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愛しのヨシュアへ。
おはよう、こんにちは、こんばんは。君がいつ読むかわからないから全部書いてみた。ヨシュア、元気かい? ぼくは元気にやってるよ。いまやってることや、どこにいるかとか詳しくは書けないんだ、ごめん。
あの夜、狩りに出てたぼくはソラリス、プラシドの三人で狩りをしていた。だけどいつの間にか体が動かなくなって、気づいたら飛空船の中にいて、そこにはレウレトが居た。その彼がぼく達にこう言った。
「家族や恋人にまた会いたければ戦場に往け。私が勝つ方法を教えてやる。戦争が終われば会うこともあるだろう」
ってね。それでいま、ぼく達は訓練を受けている。彼はすごいんだ! ぼく達の知らない知識を持っていて、しかもわかりやすく教えてくれる。ぼくは感動して、
「これなら生きて君に会える!」
なんて思ったりして……。ああ、ごめん。レウレトの話ばかりしてた。なんせ手紙を書くのは初めてで、しかも君に書くとなると嬉しくて、なかなかうまくまとまらなくて。




