凛として咲く花 1
戦争は終わった。
軍事工場は閉鎖され、それと同時に女子供達も解放された。我が子を抱きしめ、幸せを噛みしめる姿があちこちに見られる。しかし喜びもつかの間、彼女達はこれからどうしようかと、しばらく途方にくれいていた。
天高く雲はたなびき、流れ往くのは風ばかりではない。この哀れな流民達もまたいずこへ流れようかと思案している。しばらくそうしていると、同じ工場で働いていたシェイン族の老人達が集まり、なにやら話し合っていた。どうやら自分と同じ民族が住める自治区があるらしい。まだ名前も決まってないが、仲間達がそこに集まっているかも知れない。そこに行けば戦地に行っていた者達に会える可能性があるかも……、と。そういった話し声が道端にある大きめの石に腰掛けた女の耳にも入った。そうしてその女は赤ん坊を背負い、片方の手で荷物を持つと、小さな幼子の手を取って彼の地へと歩き出した。
年の頃は二十代後半。銀色の犬耳をして、それを覆い隠すように帽子を目深に被っている。腰の下まで垂れた長い髪は犬耳と同じ銀色をしているが、塵埃に塗れたせいでくすんでいる。黄ばんだブラウスの上に鼠色のストールを羽織り、履いているスカートの裾は少し破れていて、一見してみすぼらしい姿をしていた。しかしながら彼女は背中に乗せた赤子の温もりと、手のひらには確かな暖かさを感じていた。言うなれば、それは生命の躍動そのものだ。そうして彼女は自身の奥底から使命感が沸々と湧いてきて、誇りに満ちた表情をしている。その立ち居振る舞いは実に凜として晴れがましい。平時であれば誰もが羨む妙齢の女性であろう。けれども寒さと貧しさは彼女にそれを認識させなかった。
手を引かれて歩いてる子供は緑色の毛糸の帽子を被り、同じ色のマフラー、同じ色のセーターを身につけていた。だがいつも着ていたためだろうか、衣服のあちこちはほころんでいて、ところどころ穴が開いてしまっている。帽子からはみ出た犬耳は母親と同じ銀色で、ようやく産毛から生え代わったばかりの幼子はつま先に穴が開いた靴を履いていた。そのため一歩進むごとに砂利が靴の中に入っていくのを不快に感じ、その度に砂利を外に出したい気持ちになっていたが、母親に遅れまいと我慢して歩いていた。