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一期一会 第一部  作者: ヤルターフ
序曲
1/68

世界史中の人

 このしょは今から二百年前、極東に位置するシェイン共和国のいしずえを築いた男の伝記である。


 名はレウレト=フォン=ルクレール。彼に関する伝記は幾百いくひゃくも編まれ、米英帝国べいえいていこくでは言うに及ばず、世界五大陸にて広く読まれ、特にジパング皇国こうこくに於いては救世きゅうせいの士として根強い人気があり、聖書とナポレオンの伝記に次いで世に出版されている。


 彼の生涯は実に波乱万丈はらんばんじょうであった。


 北中南米大陸の征圧、ブラジル合衆国憲法制定、オーストラリアの叛乱はんらんを平定、さらには皇国を東亜細亜ひがしあじあ連邦の占領から救い、経てして露国ろこく攻略……。二十二年ものかんに得た武勲ぶくんは数知れず、絶倫ぜつりんの勇気を常に起こして、


「前進! 前進!」


三軍さんぐんを疾呼した彼はのちに米帝の第三統領となり、皇国に置かれた自治領区を治める執政官としての生涯を終えるまでの十余年……、もはや演劇の観すら禁じえない。レウレトが創ろうとした国とは、追い求めた夢とは果たして何だったのだろう。その答えを導くためにいま一つ材料が必要である。彼が世を去って二百年余、秘書や側近達に口授くじゅさせて自らも記した一つのしょが公開された。世に有名なレウレトノートである。


 そのノートを読み進めていくうちに、筆者は特に重要であろう三人の人物に注目した。一人は彼の母であり、いま一人は妻であり、もう一人は友人である。この三人の女性が三様に彼の人格形成に於いて極めて重大な影響を与えたことは明らかである。なぜならば彼の自己心内に於ける善的要素を育み、人間的成長を促したからだ。それだけではない。このノートには当時の大衆には決して想像することのできなかった、彼の苦悩と煩悶はんもんが切々とつづられていたのだ。


 彼は単なる殺戮者さつりくしゃではなかった。愛情を持った人間であった。そう、吾人ごじんと同じように純愛を求めるがために悩み、人情反覆にんじょうはんぷくかんにもがきながらも、ひたすらに前進を重ねてきたのだ。それゆえに万邦万人ばんぽうばんにんは彼の境遇きょうぐうを自身に重ねては、時に励みとし慰めるのかも知れない。


 レウレトの人生は、それぞれ立場の異なる人間によっては様々な色を見せる。それは光を当てると五彩ごさいを放つプリズムにも似ている。これから筆者は彼の伝記を書くに当たって、まずは彼の後半生に於いて影響を与えた女性の人生から記していこうとおもう。


 読者諸君へ、いましばし筆者に付き合っていただきたい。



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