Battle4
最初に飛び出してきたこいつらの武器は……錐と金槌かよ!しかも錐はナイフのように斬りつけてくるのではなく、飛び道具として使うのか。こいつはやっかいだな。
「錐は私に任せてください!中華鍋の底力を見せてやるんだから!」
その台詞ははっきり言ってどうかと思うが、確かに中華鍋なら錐くらい簡単に防げる。よし、俺はもう一人の金槌野郎を集中的に叩くとするか。俺は錐を投げてくる奴から距離をとりつつ、もう一人の金槌野郎と対峙する。ナイフと金槌じゃ明らかに攻撃力が違うが、その分あいつは動きが鈍くなるはずだ。両手に金槌なんか持っていたら重くてしょうがないはず。
「ムーン!」
「!?」
嘘だろ。さっきまで打撃で攻めていたくせに金槌野郎は球に俺から距離をとったと思うと、腕を振り回しながら金槌を投げてきたではないか。金槌は回転しながら揺るかに弧を描いて俺の頭のてっぺんに向かって飛んでくる。
あ、危ない。俺は姿勢を低くして弧を描いて飛んでくる金槌の下を潜り抜けた。
「こぉの……」
ついでに金槌野郎の懐に入り込んだ俺はそのままがら空きになった奴の腹に二発のパンチを叩き込み、よろめいて倒れこもうとする奴に改心のアッパーをかます。
よし、倒した。
俺はすぐにもう一方で戦っている諏訪のほうを振り返る。諏訪もさっきの一件で闘いのコツを掴んでしまったのか錐を中華鍋で防ぎながら、確実に錐野郎に接近している。そして――
(でた。超必殺☆みのりんスイング)
彼女が持っている中華鍋を自身の背中の後ろに振りかぶるようなポーズを取ったら要注意だ。その後にはほぼ百パーセント回避不能で、攻撃範囲の広い中華鍋アタックがくるからである。そして、あの技を受けた当人はもちろんだが、周囲にいる仲間及びギャラリーにも注意が必要である。なぜなら中華鍋の直撃を受けた対象者は、そのままランダムに吹き飛ばされてしまうためだ。吹き飛ばされる位置が予測不可能なため上手くすれば巻き添えを食わずにすむこともあるが、大抵の場合においてそれはないだろう。今までのどのバトルフィールドよりも広いここ屋上だが、みのりんスイングにおいてはその法則は通用しない。フィールドが広ければ投げ飛ばす範囲の広さを利用し、フィールドが狭ければ周囲の壁や柱、天井を利用して相手をバウンドさせることを利用する、まさに完全無欠の投げ技だ。
「ごめんなさーい!!」
ドゴォーン!
これは決して俺が誇張しているわけではない。実際、そういう音がしたのだ。まるで爆発でもしたかのようなそんな音が。ごめんなさいという台詞という申し訳なさそうな表情とは裏腹なとんでもなく豪快な技である。
そのまま錐野郎は横腹を強打し、やや斜め後ろ気味に吹き飛んでいく。そして、その斜め後ろにやってくださいと言わんばかりに運悪く立っていた本田と安島。
「「エッ?」」
一瞬だが、二人の間抜けな声が聞こえた。しかし次の瞬間には「ア〜レ〜」といつの時代の悲鳴だと思えるような悲鳴をあげながら夜空の星となった。いや、実際は落ちる寸前で倒れただけだけど。というかあいつらは一体何をしに来たんだろう。俺たちに敵をけしかけに来ただけか?
何はともあれ闘いに勝った俺たちは屋上を後にした。(もちろん投げ飛ばされた奴らに合掌をしてから)
ところで俺には気になっていることが合った。
「あんた、肩は大丈夫なのか?」
あれだけ豪快な投げ技をしているにもかかわらず、諏訪は肩がはずれたとか痛いとかまったく言ってこない。普通、中華鍋であんなことをしたら肩くらい壊しそうなものだが。
「全然平気ですよ。それにしても、中華鍋って丈夫なんですね。あれだけ人を叩いても曲がったりしないし」
諏訪はそう言って中華鍋をいい子いい子と言わんばかりに撫でている。
この娘、本当にさっきまでは闘いが嫌だとか言っていた女の子か?
保健室でのあの大人っぽい色気はどこへいったんだぁ!
「向井君、大丈夫?どこか痛むんですか?」
諏訪はわなわなと肩を震わせている俺の肩にそっと手を置いて心配そうなまなざしを向けてくる。
まずい、何だか今にでも俺の頭が破裂しそうだ。こんな調子でいつまでも迫ってこられたらとてもじゃないが俺は、俺はぁ――
「死ぬぅー!!」
「ま、待ってよ向井君!やっぱりどこか痛いんですか!なら早く手当てをしないと……。向井くーん、待ってー!保健室はそっちじゃないってばー!」
月が南から西に傾きかけようとしている初夏の夜長。須磨ヶ岳高校から奇妙な叫び声が聞こえたと後日付近の住民の方から通報があったことはいうまでもない。




